四十四のお話
「えーと、じゃあ読みます!」
会場は一気に静かになった。まるで一人残らず客が消えてしまったように…。
「あの夏の日、悪いアリスたちは優しいアリスを川で溺れさせた!そしてまだあります!!溺れている彼女を助けにも行かず、助けに行った兄に石を投げた!!石だよ!!そして悪いアリスたちは兄を殺した!そしてそして!バーンって優しいアリスをも殺そうとしたあああぁ!!」
大きな声で、分かりにくくうさぎは言った。私はうさぎの言っている事の意味が分からず、ただじっと立っていた。
「…えぇ、次はどうするんですか?」
「えっと〜、多分…」
前でチェシャ猫とカイが何かをごにょごにょ話している。どうやら二人とも裁判のやり方を分かっていないらしい。カイが小さな紙をチェシャ猫に渡して、チェシャ猫は茶色い台に向き直った。
「えー、じゃあ一人目の証人、前へ……これでいいんですよね?」
「うーん、多分。なんとなくで頑張ろ!」
チェシャ猫がそう言うと、私の隣にいるリアンが証言台の方へ向かって歩いていった。
「では、どうぞ」
チェシャ猫は適当に言った。やり方も分かっていないのに裁判をやろうとするなんて…
リアンは証言台に手をついて話し始めた。
「どんな事をお話しすればいいのかしら?」
リアンは裁判長であるチェシャ猫に聞いた。チェシャ猫はカイの方を見た。カイは焦って「事件の事についてだよ!多分!」と言った。そんな事すら分かっていないのに…、この裁判…中断した方がいいのでは?みんなやり方を覚えてからまたやったらいいのでは…?口には出さなかったが、私は心の中でそう思った。
「そうね…、私は優しいアリスが、悪いアリスたちにいじめられてたって聞いたわ」
「なに!」
「アリスを!?許さんぞ!有罪!!死刑だ!!」
客席から、怒りの混じった大きな声が飛び交った。今にも1階の観客たちはここへおりてきて、暴れだしそうだ。
「皆さん静粛にぃ!!お話しが聞こえませーん!」
カイは羽をバタバタして叫んだが、その声は観客の怒声でかき消されてしまう。困ったカイは裁判長の方を向いた。
「皆さん、静かにできないのなら…全員死刑にしますよ」
チェシャ猫はいつもより大きな声で観客に言った。すると、嘘のように会場はシーンと静まり返った。そして観客たちはブルブルと震えている。
「…死刑は…冗談です。それと、おしゃべりはもっと小さな声でお願いします」
それを聞いた観客たちはホッとした。会場はまたざわざわし始める。チェシャ猫…すごいなぁ…。あ、今は裁判長か…
「それでは…、続けてください」
少し静かになった会場の中央にある証言台の前で、リアンは落ち着いて話し出した。
「これは私がアールに聞いた話なんだけどね、優しいアリスは毎日のように悪いアリスたちにいじめられていたらしいわ。叩かれたりもしたって」
リアンが話し始めると、会場は言葉のない殺気で溢れかえった。禍々しい会場。死人が出てもおかしくない、そんな感じだ。私は怖くなって一歩、二歩と後ろへ下がって壁に背中をペタリとつけた。
「それで優しいアリスはいつも泣いていたって。悪いアリスは今すぐ死刑にするべきだと思うわ」
観客たちはまた大きな声で騒ぎ始めた。奇声を発する者、悪いアリスへの稚拙な罵声を浴びせる者、詩を詠むように有罪を求める者が大勢いる。全員が悪いアリスの死刑を願っている。
「ありがとうございます」
リアンは元の場所に戻ってきた。肩にのっている眠りネズミがスルスルと床におりて私の方へやってきた。
「どうしたの?みぃ…お腹痛い…?」
眠りネズミはとても眠たそうに私に聞いた。小さくて、会った時と服装も全く違うのに眠りネズミは私だって分かってくれた。
「ううん、大丈夫…。ねえ、これってなんの裁判なの?」
「悪いアリスの…死刑を決める裁判…」
「悪いアリス…もしかして…私、悪いアリス?」
この国の人や動物は、落ちてきた私たちのことをアリスと呼ぶ。だから…私…死刑……?
「違うよ」
眠りネズミの言葉を聞いて私は安堵した。でも…
「君は優しいアリスさ…可哀想な優しいアリス…」
優しい…アリス…。確かに私はいじめられてたけど……そんな…
「思い出すのは…ゆっくりで…いい…そう…ゆっくり…」
「私…」
ただただ怖かった。私は床にペタンと座った。優しいアリスが私なら、私は殺されそうになった。そして、私には兄がいて、その兄は殺された。「アリス」ここに落ちてきた者が呼ばれる名前。私じゃないなら…
「いや…怖いよ…」
震えた声は、観客の怒声に弾かれて地面に落ちる。それを拾ったように眠りネズミは、私の膝の上にのってきた。小さなその手は私のエプロンを握っている。
「大丈夫…」
そう言う眠りネズミを私はギュッと抱きしめた。暖かくて、少しだけ安心できる。大丈夫なんかじゃない。でも、落ち着いてないと…。混乱してみんなに迷惑かけないようにしないと…
色々雑でホントすみません。後で変なところ直します。




