三十八のお話
「あ、やっぱみぃか、久しぶり〜」
ロウソクの灯りに照らされ現れたのは、濃くて、黒に近い紫色の髪の男性だ。綺麗に揃った前髪が、黒くて大きいちょっと不気味な目に少しかかっている。後ろ髪は多分肩より少し長いくらいだ。さっきぶつかったのはこの人?誰だろう…危ない人じゃないといいのだが…
「こんなとこで何してんの?まさか僕に会いに来たとか?」
「あ、いや…あの変なのに追いかけられてて…たまたま…」
男は不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「みぃ?どうした?」
「…私の事…知ってるんですか…?」
もっともっと不思議そうな顔になって私を見る。目が…ちょっと怖い…。
「知ってるに決まってんじゃん?え?みぃだろ?」
「えぁ…はい…あの…実は昔の記憶がなくて…」
「え?」
男は首を傾げ、「うーん」と小さく声を出した。
「記憶がないみぃか…。それも面白いな。俺は吸血鬼で君と仲良しのアールだよ」
「吸…血鬼さん…」
「そうそう、さんはいらない。アールでいいんだよ」
彼は面白いと言ったが、私は何も面白くない。でも、この人も私の知り合いらしい。という事は、安全な人?まだ分からないが…
「服、ビショビショじゃん」
「あ…そうだった…」
すっかり忘れていた。思い出した途端にとても寒くなってきた。このままでは風邪をひいてしまう。
「脱ぎなよ」
「へ?」
いきなりなんて事を言うんだこの人は…
「ほら、風邪ひくよ」
「いや…脱いだ方が寒いんじゃ…?」
「アハッ、恥ずかしい?ウケる」
いや、ウケないから…。どうしよう…また走って逃げようかな…。私は立ち上がった。走り過ぎて足が痛い。そして濡れて冷たい服が私の体温を徐々に奪ってゆく。
「ごめん、私もう行くね!」
そう言って洞窟の入り口の方へ向かって走り出したが…
「んなっ!!」
右足を物凄い力で引っ張られ、私は地面にバタッと倒れた。幸い手が使えたので、どうにか衝撃を和らげ、大きな怪我をする事はなかった。
「何すんの!?」
私が驚いて言うと、アールは私をズルズル引っ張って自分の近くに引き寄せた。
「なんで逃げんのさ〜」
「だって…」
逃げる事は出来なさそうだ。私は起き上がって服についた小さな石をパパッと払った。全身が痛くてもう動きたくない。私は座って深呼吸をした。
「あ〜怪我してんじゃん」
なんか痛いと思ったら、転けた時に左腕を怪我していたらしい。石か何かで切ったのだろう。傷はそんなに深くなさそうだが、服が濡れているので血は大袈裟に広がってゆく。
「包帯とか今ないんだよね〜、ごめん」
「あ、いや…こんなの全然大丈夫…」
それよりも寒い…洞窟の中がひんやりしているのもあってとても寒い。早くここから出て副島やチェシャ猫を探したい…。私がブルブル震えていると、アールがもう一つロウソクに火をつけて私の横に置いてくれた。
「も〜、早く脱いで絞りなよ〜。寒いの嫌じゃない?」
「私だってそうしたいけど…」
人前で服を脱ぐなんて恥ずかしくてできない。でも寒い…。
「僕ら昔は一緒によくお風呂とか入ってたじゃん、今更恥ずかしいとかなくね?」
「へ…??」
一緒に…お風呂…?私が…??どういうこと?そんなに仲が良かったのか、私はこの人と…?
「あっ、そうだったそうだった、記憶ねぇんだった…ごめん」
「いっ、いやいいんだけど…、一緒にお風呂入ってたって…いつの事なの!?てかなんで!?」
「ん〜…いつ…分かんない、昔はよく入ってた、みぃが一緒に入ろ〜って言ってきたからだけど?」
私が!?怖!!早く蘇れ私の記憶!ダメだ、寒すぎて何も考えられない。アールはたくさんのロウソクに火をつけ始めた。一体どこから出しているんだろう。太いロウソクなので、全て溶けてしまう事はないだろう。洞窟の中が少しづつ明るくなってくる。
「ほ〜」
アールは、血の滲んだ私の左腕をじっと見ている。そういえば吸血鬼と言っていたなあ。血を見たら暴れだすとかないよな…
「めっちゃ美味しそう」
「え…食べないでね…お願いだから…」
アールはちょっと笑って「食べない食べない」と言った。よかった、と安心したいが、それより寒さでどうにかなってしまいそうだ。
「…?」
アールは手に持った一本のロウソクを地面に置くと、私に近づいた。そして、私の制服の赤いリボンを解き始めた。
「何すんの…!?」
「え?このままじゃ風邪引いちゃいそうだから脱がすの」
スルスルとリボンはすぐに解かれた。私は焦ってアールの手を掴んだ。
「あ…あの…ホント大丈夫だから…」
「いや大丈夫じゃないって。めっちゃ震えてんじゃん」
そうだけど…!めっちゃ寒いけど!!……そうだ!
「ねえ、あっち向いててくれない?それと、タオルか何かない?」
「ヤダね、タオルもここにはない」
なんてやつだ…。タオルもないなら脱いで絞るのは諦めるしかないのでは…。人に下着姿なんて絶対に見られたくない。隠せそうな物もなさそうだし、隠れられる場所もなさそう。外に出て日差しに当たれば乾くかも…いや、外は雨だった。それも土砂降りの…。せっかくつけてくれたロウソクの火を全て消してほしいなんて言えないし…
「ねえ、私外に出たいんだけど…」
「は?何で?ヤダね」
外にも出してくれない。どうして?意地悪なやつだ。走って逃げることもできないし…チェシャ猫…来てくれるわけないし…。どうしよう…
変なところ結構あります、すみません。後で直します。




