三十七のお話
「あー…もお…」
進んでも進んでも同じ景色。いや、もう霧で前なんて見えない。疲労と不安がいっぱいで、私はイライラしてくる。イライラしても意味はないという事はよく分かっている。
「もうやだ…ねえ、誰か…あー…もう嫌…」
大きなため息を吐いて、独り言を言った。足を止めて近くに生えていた木にもたれかかった。そのままずるずると地面に座り込む。
「チェシャ猫…死神さん…」
私は膝を抱えて呟いた。ここで危険な猛獣が近づいてきたらどうしよう、変な生き物が襲ってきたらどうしよう…。不安は雨のようにどんどん降ってくる。誰でもいい、誰でもいいから来てほしい…。
「あー!!」
「!?」
突然どこからか変な声が聞こえた。どうしよう、怖い生き物だったら…。私は急いで立つ上がった。
「お菓子!お菓子!」
声は近づいてくる。私…食われるかも…。
「お菓子ちょうだい!お菓子ちょうだい!」
「…?…」
声はすぐそこで聞こえる。だが姿が見当たらない。後ろも前も右も左も…。
「おーかーしー!」
「えぇ…?」
声が下から聞こえている事に気がついた。私はゆっくり下を見てみた。そこには…
「お菓子ちょうだい!お菓子ちょうだい!!」
薄ピンク色の丸い顔面から、短い足が四本生えて、うさぎのような耳がついた餅のような小さい何かがいた。顔だけが妙に痩せこけている。私はこんなものに怯えていたと思うと、少し恥ずかしくなった。
「お菓子!お菓子ちょうだい!」
お腹が空いているのだろうか。でも、私は今食べ物を持っていない。
「ごめんね、何も持ってないの…」
「えー!お菓子ちょうだいよ!お菓子ぃ!」
まるで、駄々をこねる子供のようにギャーギャー言っている。地面で気持ち悪く暴れている。
「ごめん…本当に持ってないの…」
「いーやー!お菓子お菓子!!」
イライラしてくるやつだ。誰か来てほしいと思ったが、こんな奴は来なくてよかった…。どうしようか、このまま何も言わずに逃げた方がいいのだろうか…。
「おーかーし!!お菓子!」
「ごめんね!」
私は走って逃げる事にした。持ってないものはしょうがないもん。木に注意しながら私は走る。
「待って待ってー!」
「はぁ!?」
奴は追いかけてきた。しかも足が速い。しつこい奴だ…!
「だからお菓子は持ってないって!ついてこないでよ!!」
「やだぁー!お菓子お菓子!!」
あぁ、ウザい。遠くへ思い切り蹴り飛ばしたくなる。どこまでついてくるのだろう。
「もう来ないで!!」
「やだあぁ!!」
私は全力で走る。だが、奴もスピードを上げてついてくる。深い霧の中での鬼ごっこ。どうすればいいんだ!!
「はっ!!」
気づけば目の前に薄っすら石でできた壁が見える。行き止まりか!?私は追いつかれないよう、左に曲がって走り続ける。奴は今もずっとついてくる。
「待ってぇ、待ってぇ!お菓子ちょうだいよぉ〜!」
「だからないってばぁ!!」
同じような会話を何回もする。本当に蹴り飛ばしたくなる。もう蹴り飛ばそうか…。と、思いながら走っていたら、突如雨が降り始めた。最悪の最悪の最悪だ…。
「待ってぇ!お菓子ぃお菓子ぃ!」
「もーやだぁ!!!」
雨はどんどん降ってきた。雨宿りできる場所なんて探している暇がない。だが、雨は次第に土砂降りになってくる。
「ねえお願いもう来ないでぇ!!」
「やだやだぁぁ!!待ってぇ!」
なんでこんなについてくるんだ!いい加減諦めてくれよ!私はもう本気で疲れてきた。雨は容赦なく私をずぶ濡れにする。寒いしきつい…!!
「あっ!!」
私は右側の壁に、洞窟っぽい何かを見つけた。あそこに入れば雨に当たらなくてすむ。だが、行き止まりになって奴に追いつかれてしまう。あぁ、もう考えてる暇はない。これ以上濡れたら風邪をひいてしまいそうだ。私は右に曲がって洞窟の入り口を目指す。追いつかれたら、蹴り飛ばせばいい。可哀想だけど…仕方ない!
「待ってぇ!」
私は洞窟の中に入った。中に入ると、真っ暗で天井が意外と高く広い。暗くて奥の方が見えない。私は走り続ける。奴もひたすらついてくる。このまま壁にぶつかったら痛いだろうなぁ、と思う。
「むぁって!むぁってぇぇ!!」
長い洞窟だ。このまま壁の向こうまで続いているのだろうか。疲れて重たい足をどうにか動かす。服がびしょ濡れで寒い…。
「むぁってぇ!」
「うわっっ!!」
私は壁ではない何かにぶつかって地面にドスッと尻餅をついた。全力でぶつかってしまったので体が痛い。私は何にぶつかったんだ?
「うるせぇなぁ…」
「んぎょあああぁぁぁぁああああ!!!」
男の人の声?ドチャッという音と共に奴の叫び声が遠のいてゆく。暗くて何も見えないが、一体何が起きたのだろう。
「ちょっと待ってね〜、今ロウソクの火つけるから〜」
「え…あ、はい…」
誰だろう。こんなところに人がいるなんて…。私の目の前で、ロウソクの火がついた。
変なところ後で直します。いつもすみません…




