三十三のお話
「あー…何から話しましょうか…」
「死神さんの事を聞かせて…」
「分かりました、じゃあ簡単に説明しますね」
死神さんはゆっくり話し出した。優しく木を揺らす風は少し強くなる。
「私はあなたが作った、傷という名の愛を与える存在。あなたの中の闇を、あなたを傷つけることで取り除く存在なのです」
「私を…なんでだろ…。私、なんで傷つけることにしたの?」
死神さんは眉を寄せ、難しい顔をする。
「あなたは…」
「っ…!?」
まただ。あの目眩がまた襲ってくる。今度は頭痛の代わりに、腹の中の内臓を掻き回されるような腹痛も一緒に。話を聞いてはいけないのだろうか。私は地面に蹲る。
「みっ、美月さん!?」
心配する死神さんの声が遠くで聞こえる気がする。ダメだ。痛すぎて死にそうだ。呼吸は乱れ、とても苦しい。酸素がちゃんと脳まで届かない…。目の前が真っ白になっていく。
『そろそろだね…』
私は、あの声を聞きながら意識を失った。
見慣れた暗闇の中、自分で自分は意識を失ったと分かった。ここには何度か来た。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
どこからか聞こえるこの声、小さい頃の私の声だ。また泣いているようだ。
そして、また少し離れたところに、ぼんやり昔の小さな私が現れた。泣きながらどこかへ歩いていっている。私は距離を保って着いていった。前を歩くオーバーオールを着た小さい私、なんか変な感じだ…。
「うぅ……ぅ……」
次第に小さな私の服は、あの夢で見たエプロンドレスへと変わっていった。ずっとずっと、泣きながら進んでいく。
「…」
小さい私は歩くのをやめた。そして…
「死神さん…」
いつのまにか、小さい私の前に死神さんが立っていた。小さい私は、死神さんに抱きついてまた大きな声で泣き出した。私は後ろでじっと見ていた。
「あのね…私ね…、また悪い事しちゃった……、ママ…怒らせちゃった…」
「そうですか…、でも大丈夫ですよ…大丈夫…」
死神さんはいつものように小さな私を抱きしめ、優しく撫でてあげている。でも…
「うっ!!」
突然死神さんは、小さな私を抱きしめたまま、左肩をナイフで刺した。ナイフはどんどん小さな私の肩に食い込んでいく。驚いて私は止めに行こうとしたが、足が棒のようになって動けない。それに声も出すことができない。どうして…
「…っ…!!…ぅ…」
「大丈夫…辛かったでしょう…」
死神さんはナイフを抜き、その傷口に噛み付いた。小さな私は歯を食いしばり喘いでいる。真っ赤な血が白いエプロンを赤く染めていく。
「うぁっ!!」
いよいよ肩の肉は食い千切られた。小さい私は耐えきれず、小さな悲鳴をあげた。血がどんどん溢れ出し、地面にポタポタと落ちた。
「…ぅ…、死神さん……」
それでも小さな私は死神さんを力強く抱きしめている。これが死神さんの愛情だと知っているからだろうか。でも、少し違う気がする…
「ぅっ…うぅ…」
「大丈夫…大丈夫…」
今度は、背中に深くナイフを突き刺した。そのナイフはゆっくり、ゆっくり下へと動いていく。そろそろ痛みに耐えられなくなったのか、小さな私は死神さんから離れようとしだした。でも、死神さんはそれを許さず、開いた背中の傷口に指を突っ込んだ。小さな私は苦痛に悲鳴をあげる。私は、もう見ていることができなくなり、目を背け耳を塞いだ。
「大丈夫…大丈夫です…」
死神さんのその言葉と、小さい私の泣き声だけが暗闇の空間に響いた。
やがて、小さな私の声は聞こえなくなった。私はチラリと二人の方を見てみた。血で服を真っ赤に染めた小さな私を、大事そうに抱きしめる死神さんがいる。それはまるで子を抱く母親のようにも見える。
「大丈夫…もう大丈夫…」
そう言うと、死神さんは小さな私をゆっくり寝かせて消えるようにいなくなった。すると、服についた血はどんどん消えてゆき、痛々しい傷も綺麗に治っていった。
「あ…」
声が出る。足が動かせる。私は急いで小さな私のところへ駆け寄った。
「ねぇ、大丈夫?」
私が肩を揺すって声をかけると、小さな私はすぐに目を覚ました。小さな私は不思議そうに私を見た。
「あなたは?」
小さな私は、何事もなかったかのように尋ねてきた。なんて答えたらいいのだろう。
「私は…チェシャ猫のお友達だよ!」
変な事を言って怖がらせてしまったら大変だから、私は適当な事を言った。別に間違った事を言っている訳じゃないし…
「チェシャ猫の?お友達なんだ〜!」
小さな私はニコニコ笑いながら言った。とても可愛らしい。…とは言ってもこの子は私、これでは私はナルシスト……。まあ、そんな事はどうでも良い。
「ねえ、なんで死神さんはあなたにあんな事したの?」
私は聞いた。小さな私は目を細め、下を向いた。
「私が…ママを怒らせちゃったから…、反省するために…」
小さな私は切れ切れに話した。ママを怒らせちゃったから?なんで…
変なところ後で直します、すみません。




