二十九のお話
「…っ!?」
東村は何も言わずにチェシャ猫から逃げるよう後ずさる。その足は震え、今にも崩れ落ちそうだ。
「なぜ逃げるのですか?あなたももう疲れたでしょう?早く捨てましょうよ」
「チェシャ…猫…」
私の声も届いていないようだ。でも、どうにかしないと…!
「お願い…お願いやめて…」
副島の震えた声、目に涙を浮かべチェシャ猫に悲願する。チェシャ猫は足を止めて副島の方をゆっくりと見た。
「じゃあ、あなたが代わりに食われますか?」
「え……」
「無理でしょ?だからもう死んだも同然のアレを食わせましょうよ」
ついに涙を零し副島は言葉を失った。チェシャ猫は東村の方へ向き直し、またじりじり近づく。
「…来るな…」
「…もう、面倒くさいですあなた…」
「…っ!?!?」
チェシャ猫はすごい早さで東村から藤原を乱暴に奪い、簡単に門の口の中へ投げ込んだ。門の口は藤原をガリガリと噛み砕きすぐに飲み込んだ。そしてまた大きく口を開ける。
「う〜、美味かった…通っていいぞ…」
門の喉の奥に扉が見えた。鋭い牙には血が付いている。東村と副島は唖然として声も出ない。
「さぁ、もう通れますよ」
チェシャ猫は口の中に入り、扉を開けて言う。皆んな一瞬何があったか分からずポカンとしている。チェシャ猫は気にせず扉の中へ入っていった。
「いや…なお…なお…」
副島は門の口を見ながら小さく呟いた。ずっと一緒にいた大切な友達が1人、2人と死んでゆく。きっと辛いだろう。いや、辛いどころの問題じゃないだろうな。
「もう嫌…嫌…帰りたいよ…怖い…なお…」
副島の目からはどんどん涙が零れていく。そんな時、さっと東村が立ち上がった。そして副島の方へ歩く。
「もう、諦めようぜ…。泣いたってどうにもなんないんだよ…。この変な世界から抜け出すには…アイツに着いて行って、お城に行かないと…」
「もう嫌…あんな怖い人には着いて行きたくないよ!ホントに帰れるかどうかもわかんないんだよ!」
副島の言う通り、本当に元の世界になんて戻れるかどうか分からない。それよりも、無事にお城に辿り着けるかどうかも分からない。何もかもがおかしな世界、進めば進むほど不安と恐怖とストレスが山積みになっていく。
「出雲は…出雲はどうしてそんな普通にしていられるの?東村だってなんであんな人に着いていこうとするの?もう嫌!!」
副島が叫ぶように言うと、門が目を開けた。そして…
「お前ら…遅い…顎が疲れる…」
「わっ!?」
門は、長くて鋭い爪のはえた手を伸ばして私たちを掴むと、扉の中へ投げ込んだ。一瞬食べられてしまうと思いとても焦った。
「何…ここ…」
扉の中は、薄暗い部屋だった。大きくて不気味な目が特徴的な女の子のぬいぐるみで、部屋中びっちり埋め尽くされた異様な部屋だった。天井からは、首を吊られたぬいぐるみたちが私たちを見下ろしているようだ。奥には木で出来た扉がある。私たちは急いでその部屋から出た。
次の部屋は、真ん中に小さな赤いオルゴールが一つ置いてあるだけの部屋だった。狭い部屋にオルゴールの不気味な音楽が流れている。この音楽…
「……」
昔、聞いたことがある気がする。でも、こんな怖い音楽じゃなかったような…
私たちはその部屋も急いで出た。次の部屋は…
「……っ!?」
見覚えのあるベッドに勉強机、見覚えのある小さなテーブル、そして絨毯に星空柄のカーテン…。間違いなく私の部屋だ。でも、一つ違うのは、壁に『いつでも一緒だった、あれがなければ』と、真っ赤な血のようなモノで書いてある事だ。どういう意味だろうと思いながら私たちは部屋を出た。それより、どうして私の部屋が…?
次の部屋は、前に進む扉がなく、真ん中にあの水色の猫のストラップが置いてあった。私たちはそれに近づいてみた。東村が拾い上げようとすると…
「うわっ!?」
それは真っ白な光を放った。私たちはその光に飲み込まれたーー
雑ですみません…後で直します…




