二十七のお話
あれから私は肉じゃがを三杯も食べた。お腹いっぱいだ。
「そういえば、エビはいないんですか?」
「エビ…」
チェシャ猫が聞くと、モエカは小さく呟いた。エビとは?あのロブスターとかのエビか?
「あのね…偽猫に持ってかれた…生きてるかわかんない」
「可哀想ですね、多分もうロールに食われてます」
何の話をしているのだろう。エビやらロールやら偽猫やら…。モエカはしょんぼりしている。
「あ、そうだ、みっきー私の事思い出せた?」
突然話を変え、ニコニコしてモエカが聞く。完璧には思い出せてない。でも、昔会った事は少しだけ思い出した。思い出した…のか…?
「う〜ん、分からないな…」
「う〜…私の魔法の肉じゃがでもダメだったか〜…」
ガクッと肩をおとすモエカ、チェシャ猫は薄っすら笑って私たちを見ている。
「まぁ、いつか思い出しておくれ!」
「うん!」
顔はニコッとしているが、どこか寂しそうなモエカ。私はいつ彼女に出会ったのだろう。場所は多分ここだった?考えれば考えるほど記憶は遠くへ逃げていく気がする。
「おいおい、起きろ皆んな〜」
モエカはおたまで3人の頭をボコボコ叩いた。東村が少し呻いた。副島は全く反応がない。藤原は起きているようだが、頭を抱えて下を向いている。このままでは先に進む事が出来ない。
「…!?」
「あ、おはよ」
東村が目を覚まし、返り血でエプロンを赤く染めたモエカを見て椅子から転げ落ちた。モエカが近づくと尻もちをついたまま後ずさる。まるで猛獣の檻に投げ込まれた子うさぎのように…
「肉じゃが食うか!美味いぜ〜」
「くっ!!来るな人殺し!!!」
その言葉にムカついたのかモエカは持っていたおたまを東村に投げつけた。見事に東村の額にガツンと当たった。結構な威力があったみたいで、東村は額をおさえて縮こまった。
「起きた瞬間失礼な奴だ、マジぶっ殺すぞ」
「…っ!!」
東村は何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。料理長さん…怖い…
「ほら、食え」
そう言ってモエカは東村の席に肉じゃがを置いた。そして置いてあった鍋を調理台へ持っていく。東村は椅子に座りなおしキョロキョロしている。
「はよ食え」
東村はビクッと肩を揺らし置いてあったスプーンを取った。そして恐る恐る少しすくって口へ運んだ。モエカが「味はどうだ」と聞くと、またビクッとして「美味しいです」と小さく答えた。東村が敬語…ちょっと笑える。
「こっちは全然起きんなぁ」
モエカは副島と藤原を見て言った。それほどショックが大きかったのだろう。
「あ〜、こっちはもうダメそう」
頭を抱えて壊れてしまった藤原を見てモエカは言う。モエカは、なぜこの子のお母さんを…?こんな事聞けない。
「ぅ……」
副島が目覚めたようだ。起き上がってボーっとしている。大丈夫なのだろうか。
「東村?何で肉じゃが…?あ、朝食会か…なお…どうしたの!?」
副島は、何もかも忘れてしまったかのように、とても落ち着いている。そしてとなりの藤原を心配し、背中をさすってあげる。どうしてしまったのだろう。私の近くにいる血のついたモエカを見つけて副島はビクッとした。
「おはよ〜、オメェも肉じゃが食うか?食うだろ?」
モエカは副島にも肉じゃがを渡した。副島は恐る恐るそれを受け取り自分の前に置いた。
「あなた…その血…は?」
エプロンについた血を指差し副島は掠れた声で聞く。やはり覚えてないのだろう。辛すぎる記憶はショックで消えてしまう、いや違う。脳の奥底に隠れてしまうみたいな事を前、本で読んだ気がする…多分…。
「え〜、これはふじ…」
私は慌てて立ち上がり、モエカの手を掴んだ。そして目で「言っちゃダメ」と強く伝える。話を聞いて、記憶が戻りまた気絶してしまったら大変だから。どうか伝わってくれ…
モエカはきょとんとして私を見る。そして…
「あ〜…違う、これはさっきみっきーに投げつけられたトマトだ」
「……そう…なの……」
よかった、ちゃんと伝わった。モエカは私を見てエヘっと笑った。何も知らない副島は、藤原を気にしながらゆっくり肉じゃがを食べ始めた。東村は何か言いたそうにモエカを見ていたが、モエカが物凄い勢いで睨みつけたのですぐに下を向いて黙った。
「美味い?」
「え…あ…うん」
反応は微妙だったが、パクパク食べているので美味しかったのだろう。モエカは満足そうに鼻を鳴らした。
変なところいっぱいあると思います、すみません。後で直します。




