二十六のお話
「何したの?」
私はモエカに聞いた。モエカはえっへんという顔で腕を組んだ。
「私の魔法〜!すごいだろ!」
私はコクっと頷いた。魔法…すごい…。料理も出来て魔法も出来る…羨ましすぎる…。
モエカは鍋の蓋を取った。部屋中に肉じゃがの香りが一気に広がる。温かくて懐かしい、そんな香りだ。
「うっ…」
突然激しい目眩に襲われる。苦しい…、頭も痛い…どうしたの自分…。私は下を向いて目をぎゅっと瞑る。誰かに背後から魂を引っ張られている感じだ。これは一体…、どうして急にこんな…、怖い、怖い…。
「さぁ!いっぱい食べてくれ!」
モエカが肉じゃがを小さい皿についで持ってきた。そして私の目の前に置いた。今はそれどころじゃないんだよ…
「ごめん…今は…ちょっと…」
「遠慮しないで〜!」
私は薄っすら目を開けた。モエカは私を気にせず、スプーンでジャガイモをすくい、私の口の前まで運んでくれる。食べなきゃ、せっかく作ってくれたんだから。でも、大きく口が開かない。
「ごめん…今は…」
私が小さくそう言うと、チェシャ猫が背後から肩にポンと手を置いた。軽く手を置かれているだけなのに、とても重たく感じる。
「ホラ、ちゃんと食べないと…、料理長が泣きますよ?面倒くさいんですから…」
出来る事なら食べたいよ。でも、今は本当に無理なんだ…。喋るのも辛い…、この目眩がなくなってからにして…
「みっきー…」
モエカが悲しそうに呟いた。ごめん、ごめんね…
「うぅっ……」
何…これ…。四人…四人が見える…。一人はチェシャ猫、あと料理長のモエカ、そして…真ん中に、小さい頃の私。あの夢で見たエプロンドレスを着ている。そして、あの影の男の子。みんなで楽しそうに笑って食事をしている。これは…何?真っ暗闇の中で一枚の写真を見ているようだ。笑い声がグニャグニャねじ曲がって、耳鳴りのようになる。
『楽しい思い出…』
あの声が耳鳴りと重なって聞こえる。思い出…、これは私の思い出…?分からない、もう嫌…
「んっ!?!?」
突如何かを口に突っ込まれた。それで私はハッと我に返る。これは…肉じゃがだ。私に食べさせたのはモエカではなくチェシャ猫だった。
「お味は…どうですか?」
私の口からスプーンを抜き取ってチェシャ猫は聞いた。味?味は普通に美味しい…
「美味しい…よ」
「料理長、美味しかったみたいですよー」
チェシャ猫は調理台の方へ向かって言った。調理台には伏せたモエカがいた。すすり泣く声が聞こえる。
「ホント…?ホント…?」
モエカは顔を上げた。泣いていたようだ。私がなかなか食べれなかったからだろうか。
「うん、すごく美味しいよ!」
ぱあっと笑顔になったモエカは肉じゃがの入った鍋を持ってこっちに走ってきた。そしてテーブルにドンと置いた。
「よかった…よかったよぉ〜!いっぱい食べて!あ…さっき…どうしたの?」
モエカは肉じゃがを色んな皿につぎながら心配そうに言った。そういえばあの目眩も頭痛もいつの間にか消えている。なんだったんだろう。そしてあの不思議な光景は…
「何でもないよ、ごめんね、ちょっと目眩がして…」
「えっ、大丈夫なの!?」
「今は大丈夫」
出来ればさっき心配してほしかったなぁ、と思いながら苦笑いした。でも、もう治ったみたいだからいいか。私は肉じゃがを食べ始めた。丁度いい温度だ。そして美味しい。これなら何杯でも食べれそうだ。
「チェシャ公も食ってけよ、ホラ」
モエカはチェシャ猫にも肉じゃがが入った皿を差し出した。でもチェシャ猫は…
「…前のやつみたいに、肉が二年以上前のモノだったりしません?」
そう言って皿を受け取らない。私は思わず吹き出しそうになったがどうにか堪えた。肉が…二年以上前の…。冷や汗が出る。
「バカ、そんな訳ねぇだろ!前のは…アレだったけど…、今回のは新鮮な肉だよ!昨日ネズミが持ってきたやつ!」
「そうですか、それならいただきます」
前のやつが何のか気になるが、よかった…これは新鮮な肉らしい…。私は安心して飲み込んだチェシャ猫も隣に座って食べ始める。モエカは嬉しそうに眺めている。
「そうだ、この子たちは朝食どうすんの?ずっと寝てるしさ…」
隣で気を失って、テーブルに倒れている副島の頭をツンツンしながらモエカは言った。
「寝ているから仕方ないのでは?」
チェシャ猫は食べ終わって、空になった皿を置いて言った。食べるの早すぎでは?確か、早食いは体に悪かった気が…。それに比べて私は食べるのがめちゃくちゃ遅いなぁ。先に食べ始めたのに、まだ半分くらい残っている。モエカは「だよね〜、失礼な奴ら!」と言って副島の頭をぺちっと叩いた。でも、彼女らをそうさせたのは料理長、あんただよ…。
雑ですみません。変なところ後で直します。




