二十三のお話
昨日…と、言っていいのだろうか。時間というモノがないのは意外と不便だ。いつも私は時間なんてなければなぁ、と思っていたが、いざなくなった世界にやって来ると、やっぱ時間は大切だと感じる。
地面から出てきている木の根っこに時々躓きながら私は歩く。
「ねえ、あとどれくらいで着くの?」
副島が聞いた。
「あと少しです」
チェシャ猫は振り返らずに答えた。チェシャ猫の「あと少し」はあまり信用できないが…
私たちは文句を言わず、彼の後ろを着いていく。
「あれです」
あれから多分二十分は歩いた。これを「少し」というかどうかは微妙なところだ。ちょっと先に白い建物が見えてきた。小さな教会って感じの建物だ。あそこで朝食会をするのだろうか?
私たちはその建物の方へ歩く。
「わぁ…綺麗…」
大きな美しいステンドグラスの扉、小さな花壇には見たことのない青い花。中から女神が出てきそうな雰囲気の建物だ。私たちが入っていいのだろうか。
「行きましょう」
チェシャ猫は扉についた丸い金具を引っ張り、ゆっくりと開いた。結構重そうだ。半分くらい開いたら、チェシャ猫は中に入っていった。私たちも追いかけるよう中に入る。
「……ぇ…」
中に入った私は、いや、私たちは目の前の景色に驚愕した。想像していたものと違いすぎたのだ。
「何…ここ…」
天井から、魚や何かの生き物が吊るされていて、いくつもの横長テーブルの上は食材やら鍋やらで散らかり放題。一番奥にある大きな調理台の上は特に汚い。まな板にいろんな種類の包丁が刺さっている。そして、蓋がされた大きな鍋からは白い煙が上がっている。誰もいないようだ。
「おい、巫山戯んなよ。こんな汚ねぇ場所で朝食会?ありえねぇ」
東村が言った。確かに私も少し、いや、普通にそう思った。こんな場所で食事なんて出来るのだろうか。食材は沢山ある。しかし、椅子の上にも色々置いてあって座る事が出来ない、テーブルは汚すぎて料理なんて置けるとは思えない。どうするんだろう。
「料理長はどこでしょう…」
チェシャ猫がポツリと呟いた。料理長?
「こんな汚ねぇ場所いたくねぇ、早く出ようぜ」
東村がそう言って後ろを向こうとすると…
「…ん〜…なんだお前ら…」
奥から眠たそうな女性の声がした。そして、ガランガランと鍋の蓋が転がるような音も聞こえた。
「んー、チェシャ猫…?あっ、アリスたちか」
一番奥の調理台の後ろで、人が立ち上がった。真っ赤なワンピースに真っ白なふわふわエプロン、可愛いヘッドドレス。今まで寝てましたと言わんばかりにボサボサの長い黒髪。メイドさんのような格好の人だ。
その人は、すぐ側にあった蛇口から少し出ている水を手につけ、その手で髪をといた。髪はすぐにまっすぐサラサラになった。
「おっはよう諸君!私は料理長のモエカだよん。今日はとびきりの朝食を用意しよう!」
モエカと名乗った女の子は、調理台の上をピョンと飛び越えた。背は私より少し低く、ウサギの可愛いスリッパを履いている。
「ささ!ここに座りな!」
モエカは、一番調理台に近いテーブルと椅子の上の物を一気に地面へ払いのけた。鍋やフォークなどが落ちてガシャンガシャンと大きな音を立てる。そして、その辺に置いてあったタオルで雑に拭いた。
「ほらっ!」
「嫌に決まってるだろ!!こんなきっ…」
東村が何か言おうとしたら、東村の横を何かが物凄いスピードで通り抜けた。私は驚いて振り返った。大きなステンドグラスの扉に、刺身包丁が突き刺さっていた。投げたのはモエカだ。
「うるっせんだよ、ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ殺すぞ。さっさと座れって」
「…っ!?!?」
こわぁ…!!この人怖いわ…。東村は固まっている。副島と藤原も驚いて固まっている。
「みっきー…あ、そうか、そうかそうか、久しぶりって言っても分からんか…私の事分からんか…えぇと、まぁいいや、はよ座ってくれ!」
モエカは私を見て何かを考えていた。この人も私の事を知っているのか。
私たちはまだ少し汚れている椅子に座った。
「はいはい!今日のメインメニューは藤丸ちゃん?あっ、違う、藤原ちゃんのお母さんの刺身〜!それと色々〜!イェーイ!」
「は!?」
藤原は座ったまま大きな声を出した。藤原のお母さんの刺身?何だそれは…
「は〜い!お母さん登場〜!」
モエカの声と共に天井から吊るされた何かが降ってきた。あれは…裸の女性だ。生きているのか…?
「!!!???」
藤原の顔色が豹変した。まさか、あの人ってホントに…
「お…おかあ…さん……」
小さく呟いた藤原の声が、静かな室内に響いた。
色々変です、読みにくくてすみません…。後で直します…




