二十のお話
「…なんで…」
私は地面に座り込んで頭を抱えた。
思い出せ、思い出せ…
「大丈夫です」
チェシャ猫は、私の背中を優しく撫でて言った。大丈夫?一体何が?
「記憶が……何も…思い出せない……どうしよ…」
怖くて怖くて仕方がなくなった。このまま、残っている僅かな記憶も消えてしまうのではないか…?もう考えたくない。でも…
「大丈夫、もうすぐ思い出せますよ」
「なんで?なんでそんな事分かるの!?」
混乱している私は結構大きな声を出してしまった。チェシャ猫は気にせず私の背中を優しく撫で続ける。
「私は、あなたの事ならなんでも知っていますよ?もし思い出せなくても、私がゆっくり教えてあげますよ。まぁ、そんな事にはならないと思いますが…」
何を、言っているのか今の私には分からない。もう嫌だ。
『大丈夫…大丈夫…』
「ぁ……」
あの声だ。いつも、一体どこから聞こえてくるんだろう。優しくて、温かくて、どこか懐かしい。きっとこの声の主も私は知っているのだろう。
「チェシャ猫…」
私は今にも泣き出しそうな声で彼の名前を呼んだ。
「大丈夫…大丈夫です…」
「懐かしい」…今の私の頭の中はそれでいっぱいだ。
「もう…大丈夫…」
あれから一時間ほど地面に座り込んでいた。私はやっと落ち着きを少し取り戻した。その間チェシャ猫はずっと私の背中を撫でてくれた。
記憶がない、一番怖い事だ。受け入れたくない。でも、仕方がない。
「行こう…」
私はゆっくり立ち上がった。地面に足が着いているかさえわからない、ふわふわした感覚だ。
「こっちです」
チェシャ猫は私の手を握って歩き出した。そういえば3人置き去りだった。大丈夫だろうか…
私たちは、あの花のいい香りがする木の下に到着した。3人は何事もなく、ぐっすりと眠っていた。私は木の裏側へ行って根元に座った。身体は疲れきっているがどうも眠る事が出来ない。眠ってしまったら、そのまま二度と起きる事が出来なくなりそうで怖い。
「ねぇ」
私は隣にいるチェシャ猫に話しかけた。何か話していないと、夜に連れていかれそうで怖かったからだ。
「チェシャ猫は死神さんと仲悪いの?」
チェシャ猫はいつもの薄っすら笑い。
「あなたを傷つける人は、あなたが作った人だとしても嫌いです」
私が作った人。私が作ったんなら、なんで死神さんを『私を傷つける存在』にしてしまったのだろう。そして、いつ、どうやって作ったんだろう。疑問は次々と浮かんでくる。
「死神は、消すべきです。あなたには必要ない。王子様もそう思っています」
「王子様が…?…あれ!?」
私は頬や肩を触って驚いた。死神さんにナイフで刺されたり、切られたりした傷が跡形もなく消えている。確か、木の中にいるときはあったはず…
「死神から四メートル離れたら傷は消えますよ」
「そう…なの…」
不思議な感じだ。これも私が作った死神さんのルールみたいなものなのか…?傷の痛みがなくなったどころか、逆に軽くなった感じだ。
「なんて言ったらいいんだろ…」
聞きたい事がまとまらない。一体何を聞きたいのか分からなくなる。どうせ、「この世界は一体何なのか」なんて聞いてもチェシャ猫は答えてくれないだろう。
「もうすぐ、全て分かります。今は考えないでゆっくり休んでください」
「…うん」
私は考えるのをやめて木々の隙間から見える星空を眺めた。キラキラと、小さく、沢山の星たちが輝いている。私の家からは絶対に見る事が出来ないであろう美しい星空。私は、吸い込まれるように眠ってしまった。
変なところ後で直します。




