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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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99/103

(99)

「えっ、今、ですか」

 冴島さんはテーブルを片付けながら言った。

「他の人に知られたり、迷惑をかけるわけにはいかないでしょう。最悪噛まれている時間で命令(コマンド)を入れられる」

「俺が、噛まずに殺したりしたら」

「その時はその時ね」

 そう言って、冴島さんは笑った。

命令(コマンド)が外れたからって、影山くんは影山くんでしょ。その影山くんに殺されるなら、しかたないんじゃない」

「……」

 冴島さんは、俺が『ドラキュラ・ヴァンパイア』の力を抑制すると信じている。だから、多人数で取り押さえられる状況下ではなく、この場で命令(コマンド)を解除しようとしているのだ。

「それに『病気が進行していたら』そういうことがありえるけど、影山くんは治療を続けているのよ。すこしは治っている方のことも考えて」

 俺はうなずいた。

 冴島さんはテーブルに紙を並べていた。

「なんですかそれ」

「式神」

 最後に、一枚の紙をもって扉に行き、そこに張り付けた。

「それは?」

「封印よ。確かめているときに、外から入られたら困るし、ドラキュラ・ヴァンパイアの影山くんを部屋から出すわけにはいかないでしょ」

 紙を扉に貼った瞬間、風の音や虫、鳥、獣の鳴き声など、外からの雑音がピタッと聞こえなくなった。

「さあ、用意はいい?」

「はい」

 言ってから、俺は唾をごくりと飲み込んだ。




 ショートボブに濃いメイクをした女性が、林の中を駆け回っている。

 女性は、林を走り抜けると、息を切らせながら、そこにいるもう一人の女性の言葉を待っていた。

「初音、もっと早く見つけて霊弾を撃たないと」

 そう指示する女性は、トレンチコートを着て小さな庭に立っていた。

「はい」

「ここは、霊圧が非常に低いのは知ってるでしょ」

「はい」

「……ってことは何かいたらすぐ感じるわけ。だから、もっと速く走れるはずなんだケド」

「はい」

 蘆屋初音は、返事をするとすぐにハアハアと大きく肩で息をしていた。

「もしかして体力がついてこない?」

「そ、そんなことありません」

 トレンチコートの女性は、林の方に視線を移した。

 胸の前で組んでいた手を動かし、コートの中に入れていたムチに手をかけた。

「初音、何体の霊体を撃った?」

「えっと…… (ハアハア) 二十四、五体……」

 トレンチコートの女性は、小さい庭に置いてあった膝ぐらいの高さの箱型のスピーカーのような機械を確かめる。

「こっちが仕掛けた数の三倍以上いるんだケド」

「えっ?」

 初音が振り返ると、林から怪しげな影が出てくる。

 その影、霊体は一、ニ体という数ではない。十七、八体…… と言ったところか。

「橋口さん、こいつらわっ??」

「あたしにもわからないんだケド」

 橋口と呼ばれたトレンチコートの女はムチを振り出した。

「誰か呼んできて…… ってのは無理そうね」

 橋口は、林から出てきた怪しげな影に、ぐるり周囲を囲まれたことに気が付いた。

 初音と背中を合わせると、近づいてくる霊体を牽制した。

 パチン、とムチがうなると、怪しげな影は弾き飛ばされる。

 初音も指先から霊弾を放つ。

「疲れてるだろうけど、頑張って」

「はいっ!」




 俺はベッドに両腕をついていた。

 両腕の間には、目を見開いた冴島さんの顔が見えた。

 うっすら頬が赤く紅潮しているようだった。

 体は…… 体は完全に冴島さんを押しつぶすように圧し掛かっていた。

 なんでこんなことになっている? 俺は必死に思い出そうとしたが、様々な映像が時系列と因果関係が理解できずに蘇ってきて、何が何だかわからなかった。

 何か言いかけているように見える冴島さんに、俺は言った。

「えっと、俺…… 何してたんですか?」

 冴島さんはゆっくりと目を閉じて、息を吐いた。

 そして目を開けると、俺を突き飛ばした。

「気が付いたんなら、さっさとどきなさいよ。セクハラで減給するわよ」

 俺は突き飛ばされるままごろり、と横に転がった。肌にシーツが絡まる。

「?」

 俺は奇妙に思ってシーツを蹴飛ばした。

「きゃぁ!」

 冴島さんの視線が、意識的に俺の腹の下の方に向いているような気がした。

 変に思って自分の体を見ると、何も着ていなかった。さらに言えば…… セクハラになるから記述できない……

 俺は慌てて下半身を手で隠した。

「バカバカバカ!」

 俺は尻を叩かれると、シーツを引き込んで丸くなった。

「冴島さん、何があったんですか?」

「思い出せないなら忘れなさい。命令(コマンド)はもう一度入れてるから。とりあえず結果としては失敗よ。失敗」

 冴島さんがベッドから出ると、俺に背中を向けて服の乱れを整えている。

 一体何があったのだろう……

「さっきのことを聞こうとしたら、セクハラ減給ね」

「えっ」

 もう聞くな、ということのようだ。

「いいわね」

 冴島さんが扉の封印を剥がして、扉の取っ手をつかみかける。

「は、はい」

 俺は従うしかなかった。

「麗子、もしかしてここにいる?」

 言うなり、ガチャリ、と外から橋口さんが入ってきた。

 同時に冴島さんは扉から飛び退いた。

 飛び込んできた橋口さんと、俺の目が合って、こっちに向かってきた。

「影山、なんでベッドにいるの?」

「あっ、えっと…… ここ俺の部屋ですし……」

 橋口さんが近づいてくると、後から蘆屋さんも入ってくる。

「冴島さんいました?」

 蘆屋さんも、俺に気付いてこっちに近寄ってくる。

「あっ、影山、そこで寝ちゃダメってことになってるでしょ!」

 冴島さんが、そろそろと部屋を出ていくのが見える。

「何かシーツで隠してるんだケド」

 橋口さんがそう言って、俺の手からシーツの端を奪い取ると、引っ張った。

「あっ!」

 俺は後ろに手をついて体を起こした。

『……』

 一瞬、二人が固まったように動かなかった。視線は俺の腹の下の方に向けられていた。

「カゲヤマ裸なんだケド」

「何シーツにつけちゃったのよ!」

 二人は叫びながら後ろを向いた。

「ごめんなさい」

 俺はそう言って、手で股間を隠しながらベッドを出た。

 テーブルか床か、どこかに服が落ちていないかと探すが、服の形をしたものは落ちていなかった。代わりに、引きちぎられた端切れがあちこちに散乱していた。端切れの柄から、俺が来ていた服が破け散ったのだろう、と思った。

 とりあえず、自分の棚から下着を取り出して履いた。

「もういい?」

「また裸だったら、今度はムチ飛ばすケド」

 二人は背を向けたままそういう。

「とりあえず大丈夫です」

 二人が、パッと振り返る。

「パンツしか履いてないじゃない!」

「マッパよりはいいでしょう!」

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