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蘆屋さんは俺が座っているところを押し出し、横に座った。
「あんたパソコンで調べものしたことないの?」
そう言うと検索キーワードを入れる場所に、『霊力』と『大災害』のキーワードを入れた。ただ、それだけではなく、間に記号のようなものを入力していた。
「この指定で、このキーワードとこのキーワード二つが含まれるものを探すのよ。どちらか一方の結果はなくなる」
「……」
蘆屋さんが、パン、と実行キーを叩くと、画面のカーソルがクルクルと回り始める。
しばらくすると、止まった。
「ゼロ件ね」
「……」
「なによ。分かったわよ。これ、あいまい検索がオフになっているせいよ。あいまい検索は……」
蘆屋さんがマウスを動かす手が止まった。
「……えっと、すべての国の結果を」
言いながら、画面を確認するが、やはり同様だった。
「……なにこれ」
「一つずつはでてくるんですよ」
俺はキーワードを一つにして検索して、結果を見せる。
万を超える数の検索結果が表示される。
「こっちも、ほら。こんな数」
「……ありえない」
この二つのキーワードで記述したサイトやページがないとは思えなかった。『大災害』と組み合わせなくなるオカルトキーワードの上位五つには入りそうなキーワードだ。なのにまったく検索結果に反映されていない。何かを見つけられることを恐れている、いや、逆に『見つけてくれ』と言っているようにも思える。
「あれよ。キーワードを似たような別の言葉で置き換えてみればいいんだわ」
蘆屋さんが、あれこれと試してみる。
やはり肝心なものを見つけようとしたとたん、検索結果がゼロになる。
「逆に目立つ気がするわね」
「俺もそう思います」
「……検索サイトの運営者に問い合わせる?」
「意図的なのだとしたら、答えてくれないと思います」
蘆屋さんは机に肘をついてこっちを見た。
「……運営者、外国企業だしね」
「外国企業って言ったって、問い合わせ窓口は…… 外国?」
外国。そうか、国内の結果はコントロール出来ていても、外国の検索結果はどうだ? 別の単語で検索するとか。
「どうしたのよ?」
「外国語で検索してみますか?」
「……やってみましょうか」
蘆屋さんが、『霊力』と『大災害』を外国語に変換する。本当にそれでいいか、何度か確かめる。
この二つのキーワードを含む外国のサイトを検索する……
「あった…… けど…… 読めないわ」
「サイトを表示するときに、翻訳するってボタンを押せばいいんじゃないですかね?」
リンク先を表示して、『翻訳する』と書かれたところをクリックする。
カーソルがグルグル回り始める。しばらくすると、回りが止まる。
「えっ?」
翻訳結果が表示されると期待していたのに、表示はまるでサイトが見つからなかったかのような『404 Not Found』表示だった。おかしい。繰り返して同じサイトや別のサイトも開くが、状況は同じだった。
俺と蘆屋さんは顔を見合わせる。
「……これ、何かありますよね?」
「あたしもそんな気がする」
マリア宛に抗ドラキュラ・ヴァンパイア病の薬が届くと、再び赤井さんがやってきて、俺たち三人に投与された。
今回違っていたのは、以前出ていた過去が見える現象が誰にも起こらなかったことだった。
その代わり、俺にだけ『加速感』だけが現れた。
すくなくとも上戸さんと三島さんは順調にドラキュラ・ヴァンパイア病が治癒に向かっているように思えた。
「影山くんだって、悪化している訳じゃないんだから」
「冴島さん、そうは言いますけど……」
何も根拠はない。血中のドラキュラ・ヴァンパイアウイルスの個数を数えるわけでもない。治っているかどうかは、ドラキュラ・ヴァンパイア病の症状が緩和されたかどうかで判断しているのだ。
その時、マリアの目が光った。
「カゲヤマ、イオン・ドラキュラカラツウワノヨウセイガアリマス」
「えっ、すぐつないで」
「ツナギマス」
マリアは壁に向かって目から光を出した。
壁に映像が映る。
動画が動き、マリアが音声を出す。
「ワタシハ、イオン・ドラキュラ。ソコニカゲヤマハイルカ?」
「はい」
俺はマリアの前に出た。
マリアの声で、話し続ける。
「カンカクガカソクシテイル、トイウノハ、ホントウカネ?」
「間違いないです」
少し反応が遅れる。
「コレハカテイダガ、クスリニタイコウシテ、ウイルスノチカラガ、ツヨマルノデハナイカ。ソノカテイデケンショウヲツヅケル。ヒキツヅキトウヨト、ケイカノホウコクヲタノム」
「……」
本当にそれでいいのだろうか、俺は不安になったが、この人の決定に逆らう理屈も答えもない。
「わかりました」
「タノフタリノケッカカラカンガエテ、クスリノコウカハマチガイナイ」
映像の中で、イオン博士が立ち上がる。西欧風のデザインの椅子が映った。
通話を終えようとする時、俺はあることを思い出した。
「あっ、待ってください!」
「ナンダネ」
イオン博士は西欧にいるのだ。この国と通話しているが、あくまで向こうの国にいる。
「あの『大災害』のことを知りたいんです」
「影山くん、いきなり何を聞くの」
冴島さんが俺の腕を引いた。
「イオン博士はそんなに起きていられないのよ」
「すぐ終わります」
「ダイサイガイ? ソノクニノ『ダイサイガイ』ノコトカ?」
「そうです。そちらで『大災害』と『霊力』の関係を調べてください」
しばらく間がある。
イオン博士は、分からない言葉を話しかけている。マリアはそれを訳さない。
「イオン博士?」
「ジョウホウトウセイデシラベラレナイ、トイウコトダネ」
俺はうなずく。しばらく遅れて、イオン博士が反応する。
「……イマスグハワタシモワカラナイ。モウスコシダイサイガイノコトヲ、シラベテカラコタエルヨ」
「お願いします」
こちらの音声が届いたか、と思った瞬間に映像は切れてしまった。
マリアの目がいつもの状態に変わると、言った。
「ハカセハスイミンニハイッタヨウデス」
上戸さん、三島さんの経過は良好。俺だけがよくなっているか、悪くなっているか、わからない。そもそもドラキュラ・ヴァンパイア病の兆候は、この犬歯だけだのだ。
俺は部屋に戻ってずっと考えていた。
ドラキュラ・ヴァンパイア病のこともそうだが、『大災害』のことについて、イオン博士から返事がくるのはずっと後だろう。
どちらの話も、回答を待つのでなくて、こちらから解を探さないと……
考えながらウトウトと落ちていた。
気づくと、部屋に上戸さんが入っていた。
「なにか?」
上戸さんの反応がない。
自分の声が吸い込まれているような気がする。
立ち上がって上戸さんに近づくと、上戸さんが俺の両肩に手をかけて押してきた。




