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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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88/103

(88)

 空中を旋回しながら高く上がると、今度は垂直に落下してくる。

 犬がそれに気づくと、慌てて下がって避ける。

 神鷹は地面すれすれで向きを変え、再び上昇する。

「一、ニ、三、四、五……」

 俺は何羽いるのか数えた。

「あっ」

 突然、急降下し、絢美が跨っていない方の犬を狙った。

 死角を突いたのか、犬の動きが鈍い。

 犬の腹を鷹の爪がえぐった、と思った瞬間だった。

「えっ!」

「なんだ? 剣山!?」

 犬の体に尖った針が、背中のあらゆる個所から伸び出ていた。

 神鷹はその一つに貫かれてしまった。

 式神はそこで元の紙に戻る。戻った紙にも、真ん中に穴が開いている。

 上空に残っている神鷹は、下りるに下りれないといった様子で、ぐるぐると旋回を続けた。

「どうする?」

「どうするって言ったって……」

 死角をついて背中に突っ込めば串刺しだ。針が出てこない場所を攻撃するしかない。

「顔…… そうだな、目を攻撃すれば」

「分かった」

 蘆屋さんの伸ばした指先が、口元に軽く触れる。そのまま呪文を唱えると、神鷹(かみたか)の方へ手を振り上げる。

「うまく行ってくれ」

 隙あらば俺たちを襲って来ようとしている化け犬に指を向け、霊弾を撃つそぶりを見せる。

 犬は反応して下がったり、左右にステップする。

 本当に霊弾が効かないのだろうか。

 蘆屋さんが空に向かって指示する。

「やれっ!」

 三羽がドリルのように螺旋を描きながら化け犬の頭に降りてくる。

 顔の直前で、二羽が上空に方向転換し、残りの一羽が犬の目を狙う。

「そうか、どれが来るかわからないように」

「!」

 化け犬は、神鷹に向かって口を開けた。

 まぶしいばかりの霊光で何も見えなくなる。

 光が弱まると、神鷹は消えていて、化け犬は俺たちを睨みつけていた。

「どう…… なったの?」

「私の式神がやられたのなら、紙があってもいいはず」

 化け犬の、のど元が動いた気がした。

「あっ……」

 犬の一連の動きは、何かを飲み込んだように思える。

「まただ。飲み込んだんだ」

「うそっ」

「ヤツはなんでも飲み込めるのか?」

「勝ち目無いじゃない……」

 蘆屋さんはそう言って震える体を寄せてきた。

「どうするの……」

 俺はずっと指を伸ばして、化け犬に霊弾を撃ち込むポーズをしている。

 これをしているだけで、ヤツは襲ってこない。

 本当に霊弾がきかないわけじゃないんじゃないか?

「霊弾、本当に効かないのかな?」

「何言ってるの? 飲まれたじゃない。神鷹も」

「けど、それなら俺がこうしていても無視して襲ってこれるはず」

「他の攻撃があるのか警戒しているだけなんじゃない?」

「……試してみよう。さっきと同じように、同時に撃って、避けれない、逃げれないように」

 蘆屋さんがうなずく。

「どっちにする?」

「さっきと同じ」

 俺と蘆屋さんは、指先を伸ばして狙いをつける。

 指先に霊光が光るか、光らないか、というところで俺が合図する。

「撃って!」

 絢美を乗せている化け犬に向かって霊弾が放たれる、その犬の頭で、交差するように左右の光跡が残る。

 犬は避けようとピクリと動いたが、さっきと同じように大きく口を開けた。

「やっぱり霊弾を食う気なんだわ」

 開けた口に霊弾が飛び込む。周りに様々な影を落としながら、霊光が輝く。

 俺は必死になって、何が起こっているのかを見極める。

 光が弱くなったかと思うと、光が消えた。

 犬ののど元が動いている。やっぱり霊弾を食ったのだ。

「もう一回!」

 蘆屋さんが慌てて指を化け犬に向ける。

「せーの」

 もう一度タイミングを合わせて霊弾を放つ。

 頭でクロスするように霊弾が進んでいく。化け犬は避ける間もなく口を開く。

「ねぇ、これ意味あるの?」

 言っている間に、霊光が辺りを照らす。

 そして、闇。

 また霊弾を食われた。

「続ける!」

 俺たちが霊弾を撃つと、今度は、絢美を乗せていない方の犬が霊弾を食らった。

「あっ、今度は、もう一匹の方に食われた」

「……」

「なんか言ってよ」

「とにかく次の霊弾を撃つ用意をして」

「霊力無限じゃないのよ! 理由を教えて」

 俺は言うべきか悩んだ。根拠はあまりに薄い。

「ねぇ!」

「さっきも言ったけど、霊弾を全部食えるなら、怖がる必要は全くない。すぐに襲い掛かってきていいはずだった」

「まさかそれだけ?」

「いや、今のでわかったよ。ヤツも全部を食いきれるわけじゃないんだ。だから代わりにもう一匹が出てきたのさ」

「撃ち続ければ勝ち目があるってこと?」

「食えなくなれば、よけるしかなくなる。避けれなければダメージを受ける」

「わかった。それに賭けるわ」

「ありがとう」

 こっちの霊力が尽きるのが先か、向こうが食いきれずに霊弾に倒れるのが先か。体力勝負だった。

 何度も何度も霊弾を撃ち、何度も食われた。

「……まだ? 練習でもこんなに撃ったことないよ。霊力絶倫のあんたについていくの、必死なんだから」

「霊力絶倫(ぜつりん)って、精力絶倫(ぜつりん)みたいに言わないでよ。誤解されるじゃん」

「だって、その通りでしょ」

 俺は蘆屋さんから視線を外して、犬の様子を確認する。

「ほら、化け犬の動きが鈍ってきた」

「あっ、ほんとだ、もしかしてあいつ、腹が地面を擦ってるんじゃ?」

 蘆屋さんが言う通り、真っ黒い犬の腹が膨らんで、下についていた。

 必死に足を突っ張って動いているが、どうしても着いてしまうようで動きが鈍い。

「霊弾って質量あるの?」

「あたしに聞かないでよ」

「と、とにかくもう少し頑張って」

 俺と蘆屋さんはタイミングを合わせて霊弾を放つ。

 絢美を乗せた化け犬に大きな霊弾が二つ集まっていく。

 動けない犬は口を開ける。その時、もう一匹の化け犬が出てきて、その霊弾に当たってしまった。

「!」

 輝きながら霊弾が化け犬の体を破壊していく。破壊された腹の内側からも、光が漏れ出てくる。

「あいつ盾になったんだわ」

「それより腹の中の霊弾が」

 とっさに蘆屋さんの体を庇うように体を重ねる。

「爆発する!」

 化け犬が食らった時の何倍も明るい光で、何も見えなくなる。

 同時に爆風があたりのものを吹き飛ばす。

 俺と蘆屋さんも、重なりあったまま吹き飛ばされた。

 俺は腕をついて、体の下にいる蘆屋さんを確認する。

 蘆屋さんは、目を閉じたまま動かない。

 えっ…… まさか、今の爆風で何か飛んできて……

「蘆屋さんっ!」

 反応がない。

「蘆屋さんっ!」

「……」

 俺の腕の下で、蘆屋さんがゆっくりと(まぶた)を開いた。

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