表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/103

(82)

 頭髪のかすかな輝きが、周囲を照らした。

 光のない闇においては、その僅かな暗い輝きで十分だった。声の主が動く移動するにつれ、部屋のすべてが浮き上がるように見え始める。

「これはまた、強力な力だ」

 立ち上がり、自らの入っていた棺を出ると、テーブルに向かった。

 テーブルに座ると、机の引き出しから、ノートPCが出てきた。

 ノートPCのバックライトは一番暗い状態だったが、その者の頭髪の何十倍もの光で周囲を照らし出した。

 その部屋に文字を読む者がいたら、棺に刻まれた名前に気が付いただろう。『イオン・ドラキュラ』と。

 ノートPCでパスワードを入れると、自身の秘密のサイトを開いた。

 そこにはアジアの小国から、メッセージが入っていた。

「サエジマ? この前も何かきていたな」

 モニタに指をあてながら、まぶしそうに文字を読み始める。

『先生の研究のドラキュラ・ヴァンパイア病を治療する方法はないでしょうか。とても重要な人がドラキュラ・ヴァンパイア病に(かか)ってしまったのです。わずかの可能性でも構いません。治療の方法を教えてください』

「はっ!」

 イオン・ドラキュラは吐くようにそう言った。

「まさかさっきの強力な力は、このサエジマの知り合いのものじゃないだろうな……」

 PCのモニタに指を添えながら、届いたたくさんのメッセージをを読み続けた。

 メッセージを読み終えると、イオン・ドラキュラは画面を切り替えた。

 進化の樹のように始まりの一点から伸びたり分かれたり、途切れたりしている。分岐や消えたところ、線の途中に中抜きの丸と、中のある丸があり、それぞれ人の名前が書きこまれている。始まりに近い方は中抜きの丸が多く、終わりに近づくにつれ、中が塗られた丸が増えていた。

 イオン・ドラキュラがそのツリー状の図をスクロールすると、端についたときに点滅する二つの点があった。

 指を当てて、その点滅する部分の名前を読み上げる。

「ピート・ウィリアムス。ダイゴ・カゲヤマ」

 読み上げた後に点滅が終わり、ピートの点は中抜きの丸に、カゲヤマの点は中のある丸にかわった。

 イオン・ドラキュラが立ち上がり、部屋の壁にある肖像画の前にたった。

「マリア。聞こえるか?」

 すると肖像画に書かれた女性の顔に変化が生じた。

 まるで話すように口が動き始めた。

『ヨウケンハ、ナンデショウ。イオン・ドラキュラハクシャク』

 イオン・ドラキュラは肖像画に話しかける。

「ダイゴはどこにいる」

『イマ、ダイゴトハナレテイテ、イバショガワカリマセン』

「一番大事なことを実行できんのか。ダイゴを見張れ。それが最優先だ」

『ワカリマシタ』

 そういうと、肖像画は元の状態に戻った。

 イオン・ドラキュラがふと気付くと、ノートPCのツリーの形が変わっていた。

 ピートから派生していた枝が、カゲヤマの方へ付け変わっていたのだ。

眷属(けんぞく)の関係を乗っ取った…… というのか」

 イオン・ドラキュラは目を見開いた。

「まさか…… ね」

 その後、真っ暗な部屋に、イオン・ドラキュラの笑い声が響いた。




「三島さん、その女性を離すんだ!」

 俺は言うとおりにしてくれたらいいな、と思ってそう言った。

 三島さんが、若い看護師を盾にしてじりじりと通路を下がっていく。

「赤井さん、助けて」

「郁美!」

 そう言って飛び出そうとする赤井さんを、冴島さんが背中で止める。

「あなたが出て行ったら、被害者が増えるだけよ」

 俺は指を伸ばして霊弾を放つ姿勢をとる。

「ほら、妙な事したら、こいつをガブっと」

 三島さんが、口を開いて、若い看護師の華奢な首筋に歯を立てようとする。

 俺は霊弾で狙おうと上げかけた手を開いて、手を振った。

「わかった、撃たない。撃たないし、追いかけない。だから、その看護師を離せ」

 感染した時にどうやって治せばいいのかわからない限り、逃げられるより感染者が増えることが重大だ。

 後は、どんどん感染させた方が自分が有利になる、と三島さんが気づくかどうかだ。

 俺は黙って三島さんに近づいた。

「こらっ、許可なく近づくなと……」

 もう首筋に歯が当たっているのではないか、と思うくらいに近づいてしまった。

「頼む。三島さん。その女性を離してくれ」

 俺は胸の前で手を合わせてそう言った。

 その時、看護師の首筋に顔を近づけていた三島さんが、スッと、姿勢を戻した。

 そして、不思議そうな顔をして首をかしげる。

「?」

「三島さん、わかってくれたの?」

 すると俺の横で赤井さんが声も上げずに必死に手招きを始める。

 三島さんが看護師をつかんでいた手を離したのだ。

「カゲヤマ…… カゲヤマ……」

 繰り返しそう言いながら、三島さんは俺を指さす。

 うつろな調子で言葉を繰り返す。

 その間に、若い看護師は赤井さんのと抱き合った。

「郁美、怪我はない?」

「はい」

 そう答えながら泣いてしまっている。

 ゆらゆらと三島優子が近づいてくる。冴島さんが、赤井さんと若い看護師を押すようにして三島さんから遠ざける。

「影山くん、手錠!」

 俺は手を伸ばして、三島さんの腕をとる。

「!」

 勢いあまってか、三島さんが俺に体を預けてくる。

 首をかしげてから、襟を開いて首筋を俺に見せた。

 なんだろう、まるで噛みつけ、血を吸えとでも言わんばかりの仕草だった。

 俺の中で、強い衝動が湧き上がる。

『目の前の娘の血を吸え。ウィルスを蔓延しろ』

 誰の声とはわからなかった。だが、ドラキュラ・ヴァンパイア特有の衝動に違いなかった。

 俺は三島さんを持ち上げながら、きつく抱きしめた。

「冴島さん! 俺に、俺に命じてください。俺、止められないっ!」

 冴島さんが俺の方を振り返り、右手をかざす。口元が何かをつぶやくように動くと、手を横に動かした。

 俺は、三島さんの首筋に噛みつく寸前、口を閉じた。

「……」

 イオン・ドラキュラの書いた研究書のことを思い出していた。

 眷属(けんぞく)の上位者対し、下位の者が服従を示す行為がある。まさにそれに思えた。下位の者は血を与え、上位の者の力を代わりに受け取るのだ。

 俺が、何もせぬまま体を離すと、三島優子が目の前で泣いた。

「影山くん、手錠」

 俺は三島さんの手に手錠をかけ、反対側を自分の手にかけた。

「冴島さん。今の…… ドラキュラ・ヴァンパイアの下位の者が上位の者にする行為です」

「どういうこと?」

「結果として、俺が上位の者だ、ということなんですが。理由は分かりません」

 俺は確かに胸に直接傷をつけられる形で、ドラキュラ・ヴァンパイア病の進行度が強いのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ