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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(78)

 ピートは俺の方に手を甲を向け、指を三つ立てて見せた。

「ほらっ!」

 まったくの前振りなしのノーモーションから、指を胸に突き立てられた。

 構える時間もなかったせいで、叫ぶこともできない。

 手の構造上、これまでより中指部分が胸を深くえぐっていて、全身を走る痛みで体が震える。

「どうだ…… 耐えられるか……」

 俺は瞼を閉じた。

 頭の奥で何かが切れた。いや、切り替わった。

「……」

 ピートが俺の頬に手をあてると、その手を唇に動かした。

 動かした指を使って、口を開かせる。

「ふっ、フフフ……」

 ピートが何かを見つけて、笑い始めた。

「勝ったぞ…… カゲヤマに勝った…… 俺はカゲヤマを手に入れた!」

 ピートは両こぶしを振り上げて、勝ち誇ったように言った。

 俺を見てずっと笑い続けている。

「これで、屋敷の力は俺のものだ。俺の……」

 ピートが突然、両手を顔の前に上げ、自らの手のひらを見つめ始めた。

「なんだ…… なんだこの模様は……」

 開いた手が震えていた。よく見ると、十本すべての指の爪の周りから血が流れ始める。

「お前は、なに…… なにをした?」

 俺はピートの瞳に映っている、手のひらに描かれた模様を見た。二重円の中に五芒星がある、何かの魔法陣だった。

「くっ……」

 ピートが頭を抱えて苦しみ始める。

 カラン、と音がして三島優子が持っていたナイフが落ちる。

 絢美が抑えていた俺の腕を離した。

「!」

 俺は立っていられなくなって、地面に膝をついた。

「……」

 ピートが真っ黒なシルエットになり、黒い粒子に分解されていく。

 空を漂う煙のようになり、気が付くとピート姿は跡形もなく消えていた。

 三島優子はふらふらと歩いたかと思うと、風に吹かれた小枝のように地面に転がった。

 警察官の絢美も、両手で腹部を抑えながら倒れてしまった。

「なぜなんだ……」

 なぜ、とどめを刺す前にピートは消え去った? 俺は本当にドラキュラになったのか? それとも、俺が勝った?

 胸の痛みのせいか、意識が朦朧としていく。

 俺は地面に突っ伏してしまった。同時に血が抜けていくように目の前が真っ白で見えなくなった。




 屋敷の前に一台のバイクが止まった。

 足をそろえて後ろに座っていた女性が、跳ねるようにバイクから降りた。

 ヘルメットを取ると、冴島は門から見える奥の屋敷を見つめた。

「影山くん、本当に中に入ったの?」

 バイクを運転していた橋口もヘルメットを取って、バックミラーに被せる。

「GLPの位置情報はあんたが確認しているはずなんだケド」

 屋敷を見つめていた冴島は、橋口にヘルメットを投げた。

「とにかく、急ごう」

「あんた鍵、開けれられるの?」

「影山くんのと契約上、あたしにも権利はあるから」

「……」

 通用口の小さい格子戸に冴島が手を当てると、しばらくして、カチャリ、と音がした。

「入るわよ」

 冴島が入り、橋口が入る。冴島が内側から鍵をかける。

 橋口が遠くを見つめながら、ボソリと言った。

「もういない」

「何? どういうこと?」

「いや、カゲヤマはいるから、急いだ方がいいのは間違いないんだケド」

 二人は屋敷に通じる真っ暗な通路を走った。

 近づいていくと屋敷は、何に照らされているわけではなく、ぼおっと浮かぶように見えた。

 屋敷の庭先に横たわっている人影を見つける

「影山くん!」

 冴島がスピードを上げて人影に近づく。

「!」

 橋口はもう一人倒れている人影を見つけ、その確認に向かう。

 冴島が影山を確認する。服の胸ははだけていて、血だらけになっている。

「影山くん」

 呼びかけに反応はない。脈はあるが、体も冷たくなっている。

「救急車……」

 言ってから、この屋敷の大きな門が開かないことを思い出す。

 車両は入れない。門の外に救急車を待機させたとして、ストレッチャーをここまで持ってくる…… いや、屋敷が一般人を受け入れるだろうか?

「こっちは三島優子だわ。どこにも外傷はない。下着姿だケド」

 冴島は一瞬、影山がまた何かやらかしたのかと考えるが、即座に首を振った。

「とにかく二人を外まで運ぼう」

「バイクを屋敷に入れれるかな?」

「……やってみよう」

 二人は走って屋敷の外に戻り、バイクを通用口から入れようと試みる。

 高さも幅も、人が押して入るには低すぎて狭すぎた。

「乗った状態で入るから、そこ開けといて欲しいんだケド」

 冴島はうなずいて、通用口の扉を手で持っている。

 加速するバイク。前輪を少し上げると同時に、頭をバイクに押し付ける。

 スッと、バイクが屋敷の中に入っていった。

「やったね! かんな!」

「あったり前なんだケド」

 二人は屋敷の前で倒れている二人を橋口の背中に重ね、最後に冴島がサンドイッチするように乗った。

 二人は、三島と影山を落とさないように門までバイクを走らせる。

 運び終えたころ、屋敷の外に救急車が止まった。




 俺は座敷に仰向けに寝かされていた。

 そこら中に鑑識や制服の警察官が動き回っている。

 遠くで声が聞こえる。

『通報者の話からすれば死んでるかと思ってましたがね。そいつ、怪我一つしていないんです』

『面白いわね。霊的に守られているのかもしれないし、死体に強力な霊が憑いたのかもしれない』

『死体に霊が乗り移って生き返るなんてこと……』

『私も実際は見たことないですが、ありえない話じゃないです』

 一人は女性の声だった。

 それだけではない。聞き覚えのある声。

 聞き覚えのある声が言った、聞いたことのない言葉。『死体に霊が乗り移った』ってどういう……

 考えていると、奥から、白い手袋をしたスーツのおじさんが、若くて髪の長い女性を引き連れて俺の方にやってきた。

『このかた?』

 さっきの声だ。

 俺の目の前にいた警察官が返事をして、場所をあけると、スーツのおじさんが来て警察のものだ、と言った。

『影山くんだね? 今回の件で少し話を聞きたいのだそうだ』

 すると、後ろをついてきていた女性が俺の前に立った。

 肌が透き通るように白く、髪は胸元あたりまであり、少し内向きにカールしていた。女性は警官とは違う上等そうなジャケットとスカートをまとっている。

 目鼻立ちは整っていて、モデルだ、芸能人だ、と言われれば信じてしまうような雰囲気だった。

 その女性はスーツのおじさんに耳打ちした。

 すると、周りにいた警察官が散っていき、最後におじさんもいなくなった。

 俺の目の前にその女性が一人立っている、という状況になった。

『あなたが、店長を取り押さえたんですって?』

『え?』

『……もしかして、記憶ないかな?』

 俺は手の平に包丁が貫通した瞬間、意識がなくなっていたのだ。店長を取り押さえることなんて出来ないだろう。いややったかもしれないけれど、そこから先は一切憶えがないのだ。一年以上前の記憶がないのと同じような感覚だ……

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