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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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75/103

(75)

 ない…… イオン・ドラキュラの研究書に記載があったドラキュラ・ヴァンパイア病ならばあるはずの犬歯がない。

 俺は立ち上がって、窓を開けた。

 まだ陽の光はある。

「三島さん!」

 俺は三島さんの脇から手を入れて持ち上げるように起こした。そして、窓から顔を出させる。

 陽の光を浴びれば、石化して砂のように…… いや、発火したように溶けてただれて……

「どうしたの? まだ夕暮れまでは時間があるみたいだけど」

 そんなに高い位置の陽の光ではないものの、ドラキュラ・ヴァンパイア病なら危険な陽の光のはずだった。

 まったく問題ない…… はずがない……

「……」

 三島優子は無言で俺の顔を見つめていた。俺はその視線を避けるしかできなかった。

 俺はスマフォを取り出して、ピートの顔写真を探した。

 その画面を三島優子に見せる。

「こいつ、知ってるだろう?」

「知らない」

 俺は三島優子の肩をつかみ、揺さぶるようにして言う。

「嘘つけ。もうこいつに会ったらだめだ。ドラキュラ・ヴァンパイア病が慢性化したら、もう人間には……」

 三島優子は平然とした表情で、俺のスマフォを指さす。

「……この人が、ドラキュラってこと?」

「こいつだろ? 君に恋人がビルから落ちる映像を見せたのは」

「だから、知らないって。私が彼がビルから飛び降りたのを知ったのは、警察…… 関係者よ。こんな男じゃない」

「警察関係者?」

「……」

 言ってはいけないことを口にしたように、三島優子は急に黙ってうつむいた。

「けど、俺に銃を突き立てた時は、ピートやトーマスのいるところに俺を連れて行った。知らないはずはない」

「あの時、初めて彼らと会ったわ」

 三島優子は顔を上げ、怒ったように言った。

「ほら、やっぱり知っているんじゃないか。なぜ知らないって」

「ちがう、本当に違うの。あの時、私はその警察関係者からの指示であなたを河原に誘導した」

 警察関係者…… とすれば、あの時の女性警官? だが明らかに警官である人物を、ワザワザ『警察関係者』という言い方をするだろうか。

「四角くて硬いものを押し当てて、銃のように思わせるところも、今回の強姦で訴えるのも、全部その警察関係者の考えよ」

「それは、あの警察署にいた、女性警官か?」

 あの女性警官は…… そうかあの女性警官がドラキュラ・ヴァンパイア病で、ピートの眷属であれば、留置場から姿を消すこともできる。

 女性警官がピートとつながっているなら、ピートのいる場所に誘導するように指示したり、無実の罪を作り上げることもたやすいだろう。

「ね、だから私の条件を聞いて」

「条件?」

「ここにくる時にメッセージを入れたでしょう?」

 三島優子は俺の体を登ってくるかのように顔を近づけてきた。

「ああ、訴えを取り下げる条件のこと?」

「私は、その警察関係者に脅されている。あなたを社会的に抹殺するようにしなければ、殺す、って。けど、あなたを社会的に抹殺しても私は殺されるに違いない。いろいろ知りすぎた」

「条件てのは、その警察関係者から守れ、ということか?」

 三島優子はうなずいた。

 俺には、目の前の女性が嘘をついているようには思えなかった。

「お願い……」

「俺が守れ……」

 三島優子は窓を閉め、カーテンを引いた。

 そして俺に飛び込むように抱き着いてきた。

 俺は勢いに負けて、床に倒れた。

「守って…… お願い……」

 再び、桃のような、甘い果実の香りがあたりを包んだ。

 顔を近づけてくる妙齢の女性に、俺は状況も忘れて夢中になっていた。

「ねっ…… いいでしょ」

 互いの体に触れて、気持ちが高ぶってくる。

「……いいって、どういう……」

 やわらかい感触といい匂い、耳をそっと刺激してくるような声、吐息。

 俺は床にべったりと寝転んでしまった。

 三島優子が、俺の服を脱がし始めると同時に、自ら服を脱いでいく。

「!」

 彼女が下着だけになった瞬間、俺の手の先に球状の霊光が輝き始めた。

「……ちょっと、これ…… なに?」

 俺の意思とは無関係に、霊光は勝手に大きくなっていく。俺の体の上で大きくなった霊光は、三島優子の体を弾くように震えた。

「えっ?」

 霊光の圧力を受け、三島優子は驚いたように飛び退いた。霊光はもはや床から腰上までになるほどの大きな球になっている。

 俺もさすがに重く感じ始めて、体から霊光を下して立ち上がった。

 俺の手とは関係なしに、まだまだ大きくなっている。

「なんだ、これ」

 霊光の中に、何か映像が映った。

 大学のキャンパス。女性の警官がメモをもって学生に話を聞いている。

「あれ、この女性警官」

 見たことがあるというより、俺の留置場に来て、消えた、あの女性警官だった。

 じっと見ていると、警官は別の学生にも声をかけている。

 何人かに話を聞いた後、女性警官に近づいてきた人物がいた。

「これ君だよね」

「……」

 三島優子は黙っていた。

 霊光の中の映像で女性警官が何か話すと、三島優子は突然顔を覆って泣き始めた。

 そうか、三島優子がマリアの撮影した映像を見ることができた理由(わけ)だ。俺はようやくそのことに気付いた。ピートが直接マリアの映像を入手していなくても、警察関係者を使えば見せることはできる。

 まてまて…… とすると、女性警官(こいつ)がピートの眷属(けんぞく)、つまりドラキュラ……

 映像は、突然、ベッドに寝転ぶ女性二人の映像になる。

 裸の二人は、楽し気に話しながらお互い体に触れている。そしてそのうち、お互いの唇が引き寄せられていく……

「やめて! もうやめて!」

 この霊光を誰が作って、何のためにこんな映像を流したのか。

 女性警官がピートの眷属(けんぞく)だとすれば、三島優子はこの女性警官の眷属(けんぞく)なのだ。直接ピートは知らなくても、結果としてピートに協力できるのだ。

「じゃあ、今近づいてきたのも……」

 霊光は急速に小さくなって、消えてしまった。

「そうよ。あなたをドラキュラ・ヴァンパイアにして操るため」

 三島優子は内ももを床につけるように足を開いて座り、顔を両手で覆った。

「けど、そうしないと私が殺されるのよ」

「もうあの警官に会っちゃだめだ」

 俺はそう言って三島優子の肩に手を置いた。

 覆っていた手をどけて、俺を睨んだ。

「イヤよ」

 開いた口の両端にはドラキュラ・ヴァンパイア病特有の犬歯が伸びていた。

「うわっ!」

 三島優子の肩を後ろに突き飛ばし、俺は立ち上がって後ずさりした。

 三島優子はまるで頭を紐で吊られているかのように、勢いよく立ち上がる。

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