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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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 内向きにカールした長い髪の女性。モデルとか、芸能人、と言われれば信じてしまうだろう女性。

 そしてその人は、何より俺がよく知っている女性(ひと)だった。

「影山くん!」

 冴島さんはそう言うと、駆け出した。

 看護師さんは、パッと両手を広げて冴島さんを受け止める。

「落ちついて。彼は病人です。ここは病室ですから、もっとやさしく接してください」

「……すみません」

 赤井さんが冴島さんを放すと、俺の頭の方へ近づいてくるなり、涙をこぼした。

「気が付いたのね…… もう、目が覚めないと思ってた」

「ご心配をおかけしました」

「なによ…… その言い方」

 冴島さんはハンカチで顔を覆っている。

 赤井さんがそっと病室から出ていく。

 俺はたずねた。

「そんなに…… やばかったんですか?」

「……」

 冴島さんは何も語らない。

「冴島さんたちが現れた後、ほとんど記憶なないんです。教えてください」

「そう、よね」

 冴島さんは椅子を出してきて座った。

「あの時あたしとかんなで駆け付けたけど、状況を知っているわけじゃないのよ」

「そこまでの状況は俺が話します」

 以前から、俺のことを恨んでいる、という女性につけられていた。問題の日は、その女性に背後を取られたこと。背後から、ナイフなのか拳銃なのか、突き立てられて河原に連れてこられると、ピートとトーマスが待っていた。トーマスは死んだエリーの仇、と俺を投げ飛ばし、殴り、蹴ったのだ。

「……そこで突然、冴島さんと橋口さんが現れたんです」

 冴島さんはハンカチで目じりを抑えながら話し始めた。

「長くなるから省略するけど、私のスマフォに、影山くんがつけているGLPから異常値を検出した通知が届いたの。異常な心拍数と血圧から、ピンチだと思った私とかんなは、いち早く向かう為、やむなく時空転送魔法陣を使って移動することを決断したの」

「時空転送魔法陣ってなんですか? 名前からすると、どこでもドア的な奴じゃないですか? そんな便利なものがあれば俺も使いたいです」

「そんな簡単に使えるものじゃないの。使用する為の正当な理由がいるし、かなり高額な使用料を請求されるのよ。Amaz〇nだってプラチナム会員が使える『特急便』の時しか使えないんだから」

「もしかして、マリアがAmaz〇nから送られてきたときはそれだったんですか?」

「そうよ。今回も、あの時も、影山くんの命にかかわるから使えたのよ」

「なるほど」

 冴島さんはつづけた。

「たどり着いた先には、影山くんに恨みを持つ女性がいた。女性は人質としても利用されていると考え、女性を奪回した。トーマスは計算外の出来事で動揺したらしく、とどめを刺すのに失敗したようだった。けど、影山くんの反撃は強い霊光によってはじき飛ばされた」

「ああ、そうか…… 俺の零弾が効かなかったのは、トーマスが何かしたからだったんだ」

「トーマスとピートは私たちが現れたせいで、状況が不確定になったため、退散したんだと思うわ。トーマスとピートが逃げ出した時、突然、銃弾が影山くんを貫いたの」

「えっ? 銃弾?」

 冴島さんはうなずきながら俺の視線をそらした。

「当たった、と思ったの。私は胸を貫いたように見えた。かんなは頭を撃ち抜かれた、と言ったわ」

「あ、頭?」

 冴島さんは病室の扉の方を向いてしまった。

「確かめてみるといいわ。どこにもそんな跡はないから」

「えっ? 当たった、って」

「あたったわよ。当たったとしか見えなかったもの。けれど、よくみるとどこに当たったか、まるで分からない。けれど体は撃ち抜かれたように息もしていない」

「……」

 どういうこと、と言おうとしてやめた。

 俺はその時、死んでいた、あるいは死んだような状態だった、と言いたいのだろう。

 さっきから話している雰囲気からすれば、冴島さんにもそれがどういうことなのか、どんな意味なのか分からないだろうし、説明できないのだろう。

 俺自身が、自分が死んでいたなんて認めたくない。死んでいたとしたら、今のこの状態はなんだ、となってしまう。

『えっと』

 冴島さんと声がぶつかった。

「影山くん、なに?」

「助けてもらってありがとうございます」

 あの時、必死に誰かの助けを求めていた。それが通じたのだろうか。

「GLPの通知が来なかったら、時空転送魔法陣を使わせてもらえなかったら…… 危なかったわね」

 俺は、ハハ…… と少し笑う。

「……」

 冴島さんは、俺に顔を近づけてくる。

 も、もしかして……

 俺は冴島さんから視線を逸らす。

「ん?」

 何事も起こらなかった。

 冴島さんは俺の枕の横に顔を載せて寝てしまっていた。

 俺はそれを見て、安らぎを感じていた。

 ベッドの反対側の座席にあった毛布を冴島さんにかけた。

「おやすみなさい」




「麗子! ちょっとやばいんだケド」

 病室のドアが開くと、橋口さんが入ってきた。

 冴島さんはぐっすり寝ていたし、俺もウトウトしていたので、橋口さんが何を言ったのかわからなかった。

「どうしたんですか、橋口さん?」

「えっ、カゲヤマ、気が付いたの?」

「ええ。ついさっき」

「そう。目覚めたばかりなのに悪いニュースが入ったわ。カゲヤマを狙っていて、一緒に入院した女性がいるでしょ?」

 女性は覚えているが、ここに入院していたのかは知らなかった。

「その女性()が逃げたんだケド」

「えっ?」

 橋口さんは腕を組んだ。

「河原のグランドで、麗子がその女性()にかかっていた暗示というか催眠は解いたはずなんだけど……」

「催眠? あのピートとかいう奴の?」

 橋口さんはあごに指を付けて言った。

「あのピートという金髪の男はおそらく吸血鬼ね。吸血鬼にはそういう人を操る能力を持ってる」

「そ、そうなんですか? 吸血鬼って、血を吸って吸血鬼を増やすって思ってたんですけど」

 橋口さんは両手を大きく広げる。

「それは相当強い力を持った吸血鬼ね。それこそ、マリアを作ったイオン・ドラキュラが若ければそれが出来たかも」

「じゃあ、その女性(ひと)は吸血鬼になってはいないんですね」

 また橋口さんはお腹の上あたりで腕を組んだ。

 大きな胸が腕に乗っかって、激しく強調される。

「……それは断言できないんだケド」

「だってさっき」

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