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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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66/103

(66)

 トーマスは異変を感じて振りかぶった腕を止めた。

 丸く開いた輝きの中から人影が降りてくる。一人、二人。

「影山くん、大丈夫?」

 冴島さん!

「このシステム怖いんだケド」

 橋口さんも!

「その()が人質ね?」

 どうやったのか、この場の状況を理解した。

 バシン、と大きなムチの音が響くと、ピートは女性を離して飛び退いた。

 冴島さんが女性を引っ張ると、額に手を当てる。

 一瞬で気を失う女性。

 その間も何度も撃ち込まれるムチ。右へ左へ下がりながら避けるピート。

「悪いけど、こっちは撃つから」

 俺はトーマスに向かって霊弾を放つ。

 大きな光球が渦を巻きながらトーマスへ向かう。

「……」

 トーマスは霊光が不十分ながら拳を俺の方へ振るう。

 俺の光球と衝突して、あたりが明るくなる。

 光が強くて、何も見えなくなった。

「もらった」

 そう聞こえた。

 いや音が聞こえたのではなく、何か直接的な意味が頭に浮かんだのだ。

 同時に、何かが俺の体を震わせ…… 何も見えなく、考えられなくなった。




 二メートルはある大男が、川沿いの道に止まっていたワンボックスに乗り込む。

 助手席には金髪の美形、運転席には額の広い、短髪の男が座っている。

「出せ」

「言われなくてもだすぜ」

「今回はエリックに助けられたな」

 助手席の男がそう言った。

 後ろに乗っていた大男が言う。

「ああ。最初からこうしていればよかったのかもな」

 運転席のエリックが、ニヤリと笑った。

「トーマスがあの零弾に対し、かわすに徹したからな、もしあれを食らっていたら」

「どのみちエリックがとどめを刺していただろう?」

 エリックは笑い出した。

「零弾を弾いたときの光がなければ撃ち抜けなかったさ」

「さすがにあれで生きてはいまい」

 運転席でエリックは、額に指を立てた。

(まぼろし)を見せられているのでなければな」

 トーマスは椅子を後ろに下げて、寝てしまった。

「はぁ? そんなことあるわけ」

 エリックが助手席のピートに同意を求めようとすると、ピートはドアに肘をついた手で、口を押えてしまっている。

「……」

「まさか、大丈夫だよ。おれはスコープで確認したんだからな」

 車は、川沿いの道を曲がって、大きな通りを帰っていった。




「何今の?」

「弾丸? いや、零弾? とにかくカゲヤマが撃たれたんだケド」

 冴島は女性をマウンドの上に横にし、影山の方へ走った。

「影山くん、返事して」

「うわっ…… 全身ボロボロじゃない。そのせいで、どこを撃たれたのか分からないんだケド」

「零弾を放ったんだから、すくなくともそこまでは生きた」

 橋口は冴島の肩に手を置く。

「息してるの?」

 冴島が頬を影山の顔に近づける。

 呼吸が頬に当たるか、呼吸音が聞こえると思ったのだ。

「……」

「麗子? ねぇ、どうなの?」

 冴島は返事をしない。

「とにかく救急車呼ぶんだケド」

 橋口が電話をかける。マウンドで横たわっている女性と、影山のことを告げる。

 そして場所を告げる。住所がわからないから、河川の名前が書いてある看板があること、左右の端の名前、野球のグランドがあることを伝える。

 しばらくすると、河原の土手を超えて、救急車が下ってくる。

 橋口が大きく手を振る。

「麗子?」

 橋口が見ると、冴島は影山の手を握って涙を流している。

「ねぇ、麗子。しっかりして」

 橋口が言うと、冴島も立ち上がり手を振る。

 救急車が『確認しました』と言う。

 広い場所で救急車をとめ、ストレッチャーをおしてやってくる。

 救急隊員たちが、女性と影山の状況から優先する方を判断する。

「こちらの男性から運びます」

 隊員たちが影山を載せて救急車に向かいながら、言う。

「知り合いの方であれば、載せていきますが、どうなされますか?」

「麗子、あんたがいきなさい」

「……」

 冴島は肩を押されて、ようやく歩き出した。

「乗るなら、早くお願いします」

 走っていく。

 救急車に乗り込むと、後ろのハッチを閉めた。

 サイレンを鳴らして走り始めると、交代するようにもう一台の救急車が土手を下りてきた。

「……」

 橋口は冴島と影山の乗った救急車が見えなくなるまで、じっと見つめていた。




 消毒用アルコールの匂いがする。俺は、長く続く廊下においてあるソファーに座っていた。

 同じソファーにも、遠く離れた方のソファーにも、誰もいない。

 その廊下の、ぼんやりと光の差し込む方向をみていると、そちらから人影が向かってくる。

 シルエットから判断して、女性だった。

 内向きに少しカールしている、長い髪。

 俺は立ち上がる。

『冴島さん?』

『彼の恨み……』

『えっ?』

 どこかであったような女性が俺を睨みつけている。

 アッという間に近づいてきて、俺に向かって拳銃を構える。

『な、何するんですか?』

 女性は躊躇せずに引き金を引く。

 俺は撃たれた方向とは垂直になっている壁に背中を付けて、背中をするように座り込んでしまう。

『エリーの恨み』

 女性だったはずの人影が、二メートルはある大男に変わっていて、俺の腹を何度も蹴ってきた。

『エリーの恨み』

 腹が足の裏で押し込まれるたび、口からいろんなものを吐き戻してしまう。

『やめろ、俺じゃない』

 言いながら、何度も零弾を大男に放つが、男に実態がないかのようにすり抜けてしまう。

『大丈夫ですか?』

「?」

「影山さん、大丈夫ですか?」

「えっ?」

 キラキラと何か光が見えた後、目の前にあるものが何か、わかってきた。

 何か、天井を見ている。

 自分の呼吸音が聞こえてくる。

 目の隅から、女性が呼びかけている姿が見える。

 ナースキャップを被っているショートカットの女性…… 看護師だろうか。

「気が付きましたか?」

「……えっ?」

「気が付いたんですね?」

「……ええ」

「私のこと、見えますか?」

 ああ、何度かお世話になっている病院の…… 確か…… 看護師の赤井さん。

「ああ、ごめんなさい無理にしゃべらないで。安静にしていてください」

 さっきまで見ていたのは、きっと俺の記憶だ。

 事実としては、トーマスに叩きのめされ、俺に恨みを持つ女性にはめられ、冴島さんが突然現れるものの、何者かに撃たれてしまった。

 見ていたのは、順番や誰に何をされたとか、事実とは異なりバラバラだったが、脳が記憶の整理をしている過程をみていたのだろう。

 ノックの音がして、扉が開いた。

 音に反応して、俺は扉の方を向くと、入りかけたその女性は、立ち止まった。

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