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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(61)

「そんな細工ができるような技術、俺にはないですよ」

「けど! 実際に……」

「……確かに自分自身の霊なので、俺に惚れるとかはあるのかもしれないですけど」

「ほらっ! 白状した! ねぇ、なんとかしてよ。このまま一緒に暮らしてたら私頭おかしくなっちゃう」

 『おかしくなっちゃう』などと女性に言わせるなんて、男冥利に尽きるところだが、今回は俺の悪意を疑われているわけで、そんな風に感じることはできなかった。

 とても自分で解決できることではないので、もう一度立ち上がり、冴島さんに電話した。

『はい』

「冴島さんですか。あの、相談があります。加藤さんが」

『えっ、どうしたの? 霊が抜けちゃった?』

「違うんです」

『じゃあ、どうなったの? 霊圧は安定しているの?』

「霊圧は安定しているんですが、加藤さんが……」

 俺は冴島さんに今状況を話そうとして、『抱かれたい』などと言えないことに気が付いた。

 電話でそんなことを言って、『えっ、何て言ったの?』と返されたら、聞こえるまで言い直さねばならないし、どんどん大声で言わなければならない。

「ご、ごめんなさい。メッセージを入れるので見てください」

『わざわざ電話してきてんだからそのまま言いなさいよ』

「本当にごめんなさい。一度切りますね」

 俺は座ってメッセージアプリを起動し、冴島さんに顛末を伝えた。

 加藤さんが手を伸ばしてきて、俺の腕を引っ張った。

「どうですか?」

 紅潮した顔。さっきの言葉のせいで、加藤さんが俺を求めているかのように錯覚する。

 しばらくして、はっ、と自分を取り戻す。

「ちょっとまってて」

『……ある程度予想はつく内容だわ。影山くんの一部であるものが加藤さんを埋めているわけだから。けど、時間がたてばそれは加藤さんの一部として昇華されるわ。我慢して待つしかない』

 結局、対応方法がなくて、待つしかない。ということか。

 言い出しづらい。

「ねぇ……」

 加藤さんは俺の腕を離していなかった。

 うるんだ瞳、ほんの少し開いたつややかな唇。俺を求めてくるような手。

 体を求められている、と思うと変なところを意識してしまう。

「嫌いなの。あなたは嫌いなんだけど…… からだが……」

 その言葉で、天国から地獄に突き落とされた。




 何日かすると、加藤さんの様子は落ち着いてきた。

 食事が出来ないマリアには外を巡回させて、俺と蘆屋さん、加藤さんの三人でいつものように学食にいた。

「うん。霊圧も安定している」

「……」

 加藤さんは何か浮かない顔だった。

「体調悪いんですか?」

「ううん。そんなことはないんだけど」

 俺は『抱かれたい』と言っていた件があるので、踏み込んだ質問を控えていた。

「そういえば、加藤さん、夜寝れてる?」

 蘆屋さんがたずねた。

 加藤さんは慌てた様子になる。

「えっ、急に何を言うんですか。寝れてますよ」

「けど、昨日の晩、夜中にちょっと目が覚めたんだけど、加藤さん、ロフトで寝てなかったでしょ?」

 加藤さんは、手を膝に乗せ、縮こまったようになり、

「と、トイレよ」

 と言う。蘆屋さんが続ける。

「だと思ってたんだけど…… しばらく後も帰っていなかったし、トイレにしては長かったような。トイレで流す音が聞こえれば、あたし、目が覚めちゃうし」

「や、やぁ、ねぇ…… 私、トイレは蓋閉めて流すから聞こえないんじゃない? あ、あと、トイレが長いとか『男の人』の前でそんなこと言わないでよ」

「大丈夫、他の人には聞こえないよ。聞こえてのは影山だけだからいいじゃない」

 加藤さんの顔が赤くなる。

 俺はこの一連の流れをどう受け止めていいのか悩んでいた。

「とりあえず、体調は悪くないんですね」

「う、うん……」

 午後の授業が始まると、俺と蘆屋さんはそれぞれの講義の教室に入り、マリアと加藤さんは一緒に図書館に入った。

 俺は、受けていた授業が終わると、図書館に向かった。

 近道だったので、校内でも使う人の少ない小道を歩いていると、後ろから抜いていく人影があった。

「?」

 その人影は、俺の前に出ると、行く手をふさいだ。

「あなた、カゲヤマね?」

 それは女性だった。髪は茶髪のショートで、小柄な人だった。

「なにかようですか?」

 女性は、俺を睨みつけていた。

 ポケットに手を突っ込み、スマフォを取り出すと、何かが映っていた。

「見なさい!」

 女性が見せながら近づいてくる。

 誰が撮った動画なのか、俺の後ろ姿が映っている。

 その前には、ビルが見える。

「このビル……」

 エリーが最上階にいた、あのビル(・・・・)だった(・・・)

「校内で二人。ビルで一人。わが校の学生が『自殺』したわ……」

 俺は、この後に起こった駅のホームでの惨事も、頭の中に蘇っていた。重苦しい、自責の念が心を塞ぎ始めた。

「この、落ちてきた人…… わたしの彼だった。就職も決まって、明るい未来が待っていたのに。自殺なんかするはずないわ!」

 俺には何も返せなかった。ただ橋口さんの言葉が思い出された。

『エリーが人を操った、というのは言わないで。これ、絶対に守って欲しいんだケド。私たち除霊士や、エリーとその仲間のような力は、一般の人間が理解出来る力ではないから、絶対に誤解されるから』

 自殺じゃない、エリーという『人形使い(パペッター)』の能力で操られたんだ、と説明はできない。

 そもそもそんな映画や漫画のような力を、理解してくれないだろう。

「私知ってるわ。彼が死んだ理由、あなたのせいだって」

「えっ……」

 エリーたちが俺を狙っている、俺を狙っているから、エリーは人を操り、人をビルから落とした、つまり、それは俺のせい……

「責任を取ってもらう。罪を償ってもらう」

 かざしていたスマフォをポケットに突っ込むと、女性は斜にかけていた小さなバッグから光るものを取り出した。

「あっ、いたいた! カゲヤマ、なにやってるのよ!」

 図書館の方向から蘆屋さんの声がする。

 目の前にいた女性は道を外れ、全速力で走り去っていった。

「……」

「誰かここにいなかった?」

 蘆屋さんはそう言って、女性がいたあたりに立ってあたりを見ていた。ちょっとして、マリアと加藤さんもやってきた。

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