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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら
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(6)

「俺はいつまでこんな状態なんですか?」

「エレベータに乗って、駐車場までいくわよ」

「あの……」

 俺はレストランの方向を見ながら、後ろに歩いていく。エレベータの扉が閉まると、冴島さんがため息をついた。

 ようやく背中に当てられていた手を外された。

「……あいつら、人間じゃないわ」

「そうね。波動パターンからして普通の人間ではないんだケド」

 スマフォを眺めながら、橋口さんがそう言う。

「あの大男、物理的な破壊力も凄そうだけど、霊能力も強いわね」

「波動パターンを解析すればわかるけど、霊力があるのは出てきていた二人だけじゃないわ。部屋の中にもいるわね」

「かんな、霊圧と波動パターンの解析は任せるわ」

「指示されなくてもやるつもりなんだケド」

 蘆屋さんが、言った。

「こっちも全員で掛かればやりあえたんじゃ?」

 エレベータが地下駐車場につく。

 全員で下りると、松岡さんが車を回してきた。

「いつのまに連絡したんです?」

 俺は冴島さんに聞くが、無視された。

「さっきもいったけど、やりあったらタダでは済まなかったわ。逃げるしかなかった」

 冴島さん、蘆屋さん、橋口さんは後部座席に座る。俺はいつものように助手席だった。

「けど、いつかはやらなきゃいけないんじゃないですか」

 ルームミラーを見ながら、後ろに向かってそう言う。

相手(かれら)は何をしたわけじゃないわ。現状は霊力が強いだだけよ。しいて言えば、影山くんにちょっといたずらを仕掛けただけ。犯罪者なら、捕まえて国外追放出来るけど、犯罪者でも、何でもない人を捕まえたり、殴ったり、拘束したら外交問題になるわよ」

 蘆屋さんが言う。

向こう(かれら)からやってきたらやるしかないでしょう?」

「正当防衛が成り立てばね。あるいは、かれらが国際的な犯罪者かなにかなら、ね」

 スマフォを触っていた橋口さんがぽつり、と言う。

日向(ひなた)に波動パターンを送って調べてもらケド」

「……あいつの手を借りるのは嫌だけど、このさい仕方ないわね」




 俺と蘆屋さんは大学にいた。同じ教室の、隣の席。授業が始まる前だった。

「この前の二人のことってなんかわかった?」

 レストランで人形遣いの女と、霊力の強い大男とちょっとした衝突があったのだ。おそらくその二人だけではなく、個室の中にもいたらしいのだ。

「なんであたしがそんなこと知ってるのよ」

「だって、橋口さんが波動を調べるって言ってたし、蘆屋さんは橋口さんの弟子だろう?」

「そりゃ、そうだけど……」

 蘆屋さんはもともと陰陽師の家系で霊力を使いこなせた。冴島さんにあこがれていて、俺が弟子だと聞いて冴島さんに俺との交代を申し入れてきた。その時、蘆屋さんと俺は霊力をつかった戦いとなって、結局俺がそのまま弟子になったのだ。

 その後、いろいろあって、橋口さんの元に弟子入りし、除霊士の資格を取ろうとしている。

「まあ、いいや。分かったら教えてよ」

「なんであんたなんかに」

「さやかに言ったんだよ」

「……」

 蘆屋さんの体がぶるっと震えた。

 蘆屋さんの中には、俺の妹『さやか』の意識があって、時折、本人よりワントーン高い声で表に出てくるのだ。

「へんな言い方しないでしょ。ここでさやかと交代するわけないでしょ」

「……」

 そうだったのか、と俺は思った。蘆屋さんからさやかを見ることは、家に帰ってからしかなかった理由がわかった。蘆屋さんの強い意志で、『さやか』が表に上がってくるのを抑えているのだ。

「なによ、じろじろこっちみないでよ」

「……」

 と、そこで授業が始まった。

 授業を終え、本やノートをカバンにしまうと、蘆屋さんから声をかけてきた。

「次の駒、授業あるの?」

「一コマ空きだけど」

「ちょっと付き合って」

「うん」

 学校を出て、喫茶店の前を通り過ぎた。

 どこにいくのだろう。この先は河原しかないんだが……

「ね、どこいくの」

「河原よ。あんたに私がどれだけできるようになったか、教えてあげる」

「えっ、なんか術を使う気?」

 俺は、漠然とした恐怖を感じた。

 河原の土手を上り切ると、河岸の方へ降りていく。

「?」

 一瞬、知っているような顔とすれ違った。

 今の、確か……

 俺が振り返ると、そこに人影はなかった。

「消えた?」

「何やってるの。時間はないのよ」

 河岸に立つと、蘆屋さんはカバンから紙を取り出し、書いては投げ、書いては投げた。

 投げられたハガキ大の紙はクルクルと円を描きながら飛び続けている。

「なに、これ? 式神?」

「黙って! 気が散る」

 ヤバい。本格的にヤバい感じがする。

 クルクルと円を描く紙が次第に増えていく。

 俺は慌てて紙切れを探し出し、一字を書いて飛ばした。

 蘆屋さんは俺の飛ばした紙には気付かなかったようだ。

「出でよ、蘆屋家代々に伝わる伝説の龍よ」

 うわっ、やっぱり、こりゃ…… 無茶だ。橋口さんだって、冴島さんだってそんな大物だしたのを見たことないのに……

 回転している紙が、円運動からある一枚を先頭として、宙を舞うヘビのように動き始めた。

「ほ、本当に龍になるのか?」

「当たり前でしょ!」

 そう言いながらも、蘆屋さんは人差し指と中指を合わせて伸ばし、顔の前に構えている。

 式神として龍を呼び出しているのだ。ものすごい集中力と、霊力が必要になる。

 俺は祈った。

 そして、蘆屋さんと同じように人差し指と中指を合わせて伸ばし、顔の前で構えた。

 頼む成功してくれ。成功してくれ。龍になってくれ……

「ほら! 来たわよ!」

 蘆屋さんの喜ぶ声が聞こえた。

 波を描くように宙に並んだ紙が、実体化して龍の姿を形作った。

「ほんとだ!」

「失礼ね」

 龍、と言っても西洋のドラゴンではない。沖縄や、中国の南方で見られる、角があって、足がいくつか生えているヘビのような龍だった。

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