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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら
5/103

(5)

「……」

 冴島さんが真剣な表情で橋口さんのスマフォをのぞき込む。

「圧が高いのもそうだけど、見かけない波動パターンね」

「カゲヤマの屋敷でみかけるようなパターンなんだケド」

 二人が同時に俺を見た。

 口いっぱいに肉があって、何も答えれなかった。

「波動パターンで照会出来ないの?」

「ああ、なんか日向がそんなことできるようになるって、昔言ってたケド」

「けど?」

「犯罪者の霊の波動パターンを取る、っていう意識が少ないし、波動パターンから捜査するときには、もう相手の姿が見えているんじゃないかって。あと波動パターンは個人情報にも相当するらしくて管理も面倒らしいし。そういう訳で、実用化になるか分からなくて、誰もシステム構築にお金を出せないみたいよ。だからまず、日向が個人的に作るって」

「あいつにそんな才能あるの?」

 橋口さんは手を広げて上にあげた。

「知らないわよ。以前は作るって言ってた」

「!」

 俺は立ち上がると同時に、自分の手を口からのどの奥に突っ込んでいた。

 間髪入れずに吐き気がして、胃のあたりから激しい勢いで戻ってくるのが分かる。

「ちょっとカゲヤマ? わけわかんないんだケド」

「やめなさい!」

 冴島さんの手がかざされた。

 全身が呼応して、消化液とともに上がってくる砕かれた食べ物が、胃に戻っていく。

 物凄いにおいだけが口、鼻の奥に広がり気持ちが悪い。

「ん、ん、ん……」

 口のなかから出した手がどこに行っていいかわからず、ブルブルと震える。

「影山くん?」

 冴島さんも立ち上がって、首をかしげなら俺の方にやってくる。

 橋口さんが奥の扉を指さす。

「見つけたんだケド」

 個室の扉が開いていて、こちらの様子を覗いている。

 俺は、フラフラと一歩、また一歩とその個室へ歩きだしていた。レストランの他の客が、奇異な目を俺に向ける。

「待ちなさい!」

 と言って、冴島さんの手が背中に当たる。同時に俺に命令(コマンド)が入る。

 フラフラと出していた足の動きが止まった。

 個室の方から、女性が一人出てくる。

 真っ白い肌に、黒髪。目立つような真っ赤な口紅。

 女は何か話すが、何を言っているかさっぱり分からない。

 言葉を理解した給仕が、個室の方へ駆け寄るが、女性が指先を向けると、踵を返して行ってしまう。

 背中に当てられた手が、熱く感じた。そして何かに動かされたように言った。

「エリー」

「それがあいつの名前ね」

 個室の前に立っている女性は、見えないキーボードにタイプするように指を動かす。

 すると俺の口が、また別の何かに動かされた。

冴島(さえじま)

「馬鹿!」

 熱い! 俺の背中にあたっている冴島さんの手が、体温以上に熱く、直接触れているように感じる。

「見つけた」

 冴島さんが、俺の耳に手を当てると、何かが炎を出して燃えた。すぐにそれは燃え尽きて、消えてしまった。

 背中に当てられた手が、熱く感じなくなった。

「なんですか、今の炎?」

「髪の毛が燃えたのよ。影山くんに付いていた、あそこにいるエリーとかいう女の髪の毛」

「……ってことは、あの女は人形使い」

 と橋口さんが言う。

「……すくなくともその要素は持っている、ってことかしら」

 ムッとした顔をして立ち上がってきた。

「なら人形使いでいいじゃない」

「蘆屋さん……」

 と、冴島さんは小さい声で蘆屋さんに何か指示している。俺は背中に手を当てられて、冴島さんの盾のような位置から動けない。

 すると、背中の手を伝ってなのか、冴島さんの意識(・・)()聞こえた(・・・・)

『後何人かが個室の中にいるわ。警戒して』

 エリーの後ろの扉が開いた。

 中の様子をみようと、体を動かすが、死角になって見えない。

 扉から、大きな体を屈めながら男が出てくる。

 扉の枠だけではなく、もう天井の照明に頭が付きそうだった。

 男が出てきただけで、一瞬にして、あたりの緊張度が高まったのがわかる。

 橋口さんはコートを手に取り、鞭に手をかけた。

 大男が何か話し始めた。

 だが、誰も分かるものがいない。大男は、エリーという女性に話かけた。

 エリーは近くにいた給仕の手を取り、後ろ手にひねり上げるようにしてこちらに向けた。

 大男が何か話し始めると、合わせたようい給仕の男が話しだす。

「我々は君たちと戦うことは望まない」

 冴島さんが俺の後ろで言った。

「そっちから仕掛けたくせに」

 俺は自然とそれを言い直していた。

「そっちから仕掛けてきたんだぞ」

 大男がまたなにか言うと、エリーという女性に腕を取られている給仕の口が動く。

「すまない。少し賭けを楽しんでいた」

「掛けってなんだ」

「そこにいる男が思い通りに動くかどうか賭けていた」

「他人をなんだと思ってるんだ」

「君たちが何者かは知らないが、すまないことをした」

「……」

「すまない。あやまるから忘れてくれ。こちらも食事をしたい」

 俺は小さい声で冴島さんに言った。

「どうします?」

「あの男、ものすごい殺気を秘めているわ。ここでやり合ったら勝ち負けを別にして、被害が大きすぎる。逃げるわよ」

 冴島さんの選択は正しいと思えた。

 俺はまた冴島さんの言葉を代わりに発した。

「わかった。戦わない。代わりにそっちも我々を追わない、ということでいいかい?」

「ああ。何もしない。ただ食事をしたいだけだ」

 大男は両手を開いて、横に広げた。

「部屋に戻って」

「部屋に戻ったところを攻撃されてはたまらない。このまま動かないから、去ってくれ」

 俺はうなずいた。橋口さんと蘆屋さんが俺と冴島さんの荷物を受け取った。

 対峙しながら、後ずさりしてレストランを出ていく。

 会計は冴島さんが一喝で払っていた。

 俺は冴島さんの手のひらを当てられ、人間の盾のように、冴島さんの正面をガードしていた。

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