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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(48)

「おっ、出たぞ」

 トーマスはエリックを見て言った。

「読んで見てくれ」

「なんだこれ、文章じゃないな。単語だ。神、罪、許し、耐えがたい、自殺、恐怖?? 恐怖にはクスチョンマークがいっぱいついているな」

「俺の見立てと大して変わらん…… 自殺が罪なのだから、神にこれから自殺することの許しを請うているのだろう。問題は、どんな理由で自殺したか、だが……」

 エリックがスマフォの画面を触りながら言う。

「まあ、残りの単語からすれば『耐えがたい恐怖』と並べるのが普通か」

「『耐えがたい恐怖』って、カゲヤマのことか」

 GPAにかけたピートの頭から取り出した画像を、トーマスはもう一度再生する。

「もっと細かい情報はないのか」

 パソコンを操作すると、ピートの頭に乗せられたヘルメット状のデバイスから音が出た。

『ピー』

「なんだ?」

「トーマス、切断しろ。この音は……」

「?」

 エリックがスマフォを捨てるようにテーブルに置き、立ち上がって、ピートの頭についたヘルメット状のデバイスのケーブルを外した。

「GPAの接続が切れたぞ」

「馬鹿、出力過剰状態で、ピートが危ないところだったんだぞ」

 エリックはトーマスの襟を持って締め上げる。

「分かっているのか?」

「死んでもかまわん。これは最初に言ったはずだが」

 エリックの口が怒りで歪んだ。

 そして口を開いた。

「三対一なら勝てるところを、こんなことピートを失って二対一になったら、引き分け、あるいは負けるかもしれないんだぞ」

 トーマスはエリックの顔を見ずに言う。

「当初、一人で撃ち殺すとか言っていたエリックとは思えない発言だな」

「エリーが殺されているのに、まだ分からないのか」

「ちゃんと解析しないで何を言っている」

「いまので、これ以上何が分かる?」

「……」

 すぐに答えなかった。

 しばらくして、トーマスは両手で顔を覆った。

 そして謝った。

「……すまん」




 俺はのどが渇いて目が覚めた。

 隣で寝ているはずの蘆屋さんはいなかった。

 結界が解けていて、下に降りるとテーブルに蘆屋さんのメッセージがあった。

『学校に行っています。カゲヤマは今日、休んだ方がいい』

 拾い上げたその紙を、そのままテーブルに戻した。

「ありがとう」

 そして台所へ行き、コップに水を汲み、一気に飲み干す。

 俺はこんなやさしい人に囲まれて、のうのうと生きてる。

 無関係な人を大勢巻き込んで殺してしまったのに。俺は……

 昨日と同じだった。警官に質問されたわけでもないのに、何度も人が死ぬところを思い出していた。

 ビルから飛び降りる人。

 電車に飛び込んでしまう人。

 俺が居たために、無関係なのに巻き込まれた人々。

 窓を割り、体をそのガラスの中に飛び込ませる。

 ホームから、走り込んでくる電車が見える。俺はそこに自らの体を投げる。

 それをしたら命が終るのが分かっている。

 分かっているのに、体が勝手に動いていく恐怖。

 ブレーキの利かない乗り物に乗っているような気分。一生懸命ブレーキを踏み込むのに、加速していく感覚。

 その先は、二度と目覚めない闇。永劫続く無。

 部屋が涙で歪み、そして頬を涙が伝って落ちた。

 何であんな判断をしたのか……

 蘆屋さんの言う事、橋口さんの言う事を守るだけでよかったのに。

 ブブーッと俺のスマフォが振動した。

 俺はスマフォを確認しようともせず、無視していた。

 部屋の壁に背中を付け、擦るようにしながらお尻を床に着き、座り込んだ。

 頭の中で同じ映像が再生され、涙は尽きなかった。

 涙で何も見えないまま、俺はいつの間にか寝ていた。




 呼び鈴が鳴って目が覚めた。

 またビルから飛び降りる、ホームから電車に飛び込む映像が繰り返された。

「宅配便でーす」

 その言葉に、俺は現実に引き戻された。

 俺は扉を開けて蘆屋さん宛の宅配便の受け取りをした。

 受け取った小さな荷物をテーブルに置いた。

 スマフォのLEDが点滅しているのに気が付いた。

 俺はスマフォの画面を確認すると、そこには紫宮さんからのメッセージが表示されていた。

「なんだろう?」

 紫宮さんはエリー達と共謀していた、とか火狼(ほろう)のパートナーだ、と言われていた。

 居酒屋の件で、橋口さんにかなり突っ込まれていたから、もうこんな形でメッセージのやり取りは出来ないと思っていた。

 俺はメッセージを確認した。

『外で会えないかしら。カゲヤマくん家の近くにいるの?』

 俺はこのメッセージを冴島さん、あるいは橋口さんに知らせようか考えた。

「ダメだ……」

 連絡したら、きっと、紫宮さんは捕まってしまう。

 紫宮さんがそれに抵抗すればその場で殺されてしまうかもしれない。

 エリーのように他人を巻き込んでまで戦おうという人間ではない。そこはエリーと紫宮さんの違いだ。

 俺は誰にも知らせずに会う事を決めた。

 メッセージの時間を見ると、数時間前なことが分かる。

『まだ近くにいますか?』

 返答も既読にもならない時間……

 何度もメッセージを上下に送り、以前のやり取りを読み直したりする。

 既読、と付いて数十秒。

『まだいるわ。外に出てきて』

 俺は部屋を飛び出した。

 アパートの階段を降りていく途中で、紫宮さんに気が付いた。

 同時に、GLPに違和感。やっぱりこれって、何か霊的なものを検知しているのではないか。

 紫宮さんは道路の反対側、屋敷の門の前で、スマフォを見つめながら立って待っている。

 俺はワザと正面に立ってから、スマフォでメッセージを入れる。

『顔を上げてみて』

 正面にいる紫宮さんのスマフォで通知音が鳴る。

 素早く操作して、メッセージに目を走らせ、顔を上げる。

 パッと笑顔になる紫宮さんに、俺も思わず微笑み返す。

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