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「わかったよ!」
トーマスの反対側にピートが座った。両手の指を絡めるようにして、テーブルに突き、そのまま肘を曲げた。指を絡めた手で自らの頭をなんどか叩く。
「どうしてこんなことになった。一体、何者なんだ『カゲヤマ』ってのは」
トーマスはタブレットを切って、机に置いた。
「ピートは見たのか?」
「少し」
そう言いながら、ピートは自身の手を何度も頭にぶつける。
「死ぬところを?」
「ああ、そうだ。電車に飛び込んだ」
トーマスとは目を合わせようとしない。
「何て言っていた?」
「何て言っていたかだって? こっちは怖くて逃げるのに必死だった。強烈な霊光で何も見えなくなってた」
怒ったように激しい口調だった。
トーマスは少し机の方に身を乗り出した。
「強烈な霊光?」
「ああ。霊光が消えた後、エリーが仕掛けた術が全部解けた。付いていた髪の毛が全部燃えたんだ」
「それだけか?」
「逃げださなきゃ、と思った。体から湧き上がってくるような感情だった。もう、理由は分からなかった」
「……エリーは?」
「わからない」
「何か言ってなかったか?」
ピートは指を絡ませた手を、激しく頭にぶつけだした。
「こっちは逃げるのに必死だったって言ったろう。逃げないと死ぬと思ったんだ」
「埒が明かないな」
トーマスは立ち上がった。スマフォを取り出して電話を掛けた。
そして、しゃべりながらゆっくりとピートの背後に回った。
トーマスに肩を叩かれ、ピートの体はビクッと反応した。
「お前をGPAにかける」
「なんだって?」
ピートが立ち上がろうと手を机に突いたが、肩に乗せたトーマスの手で抑えられ、体はビクともしなかった。
「記憶をトレースさせてもらう」
「やめろ!」
「我々が生き残るためだ」
トーマスの力で押さえつけられていて、ピートは身動きが出来ない。
開いていた扉にエリックがやってきた。
「トーマス。例のを持ってきたぜ」
電極のついたヘルメットのようなものを持っていた。
「ピート、少し眠ってもらおうか」
トーマスが、手の平をピートの顔面に押し付けると、ピートは目を閉じ、手足の力が抜けたように椅子にだらっともたれかかった。
「何があった?」
エリックは、ピートの頭にGPAをセットしていた。
「エリーが死んだ。ピートは見ているはずだが、覚えていない。だからGPAにかける」
「……ピートはGPAに耐えられるのか」
「これは簡易型のGPAだ。問題ない。耐えられるだろうさ」
「いや、逆だろ? 簡易型は出力調整が雑で危険だと……」
トーマスがエリックの顔を『だまれ』と言わんばかりに指さした。
「ピートが耐えられなくて死んでも構わん」
「……」
慎重なトーマスが、『死んでも構わん』という発言をしたことに、エリックは内心驚いていた。
表情は落ち着いているが、トーマスはかなり焦っている。
「行くぞ」
ノートパソコンに映像が映し出された。
駅のホームだった。
帰路を急ぐ会社員や、買いもの帰りの女性客、学校帰りの学生などがごった返している。遠くで、何かが光っていたか、と思うと消えた。そして、発火現象が起こった。
ピートの小さい声が聞こえる。
「エリーのコントロールが解けた」
映像の右隅には、エリーが見える。
「……」
辺りにいた人々が突然一直線状に分かれて退き、エリーの正面にカゲヤマの姿が現れる。
エリーは声が出ないのか、口を動かすだけだった。
エリーはそのまま、目を見開くと、反対側に入ってきた電車へ飛び込んだ。
ドン、と鈍い音がして、その列車も緊急ブレーキをかけた。
線路の砂利がぶつかるような音がして、電車が止まった。
「何て言ったんだ?」
GPAに接続したパソコンを操作しながら、トーマスがエリックに聞いた。
「聞こえなかった」
トーマスは無言でパソコンを操作する。
集団がごちゃごちゃとしている映像に戻り、また、一直線に割れるように人が退いた。
「ここだ」
やはり音声は出てこない。
トーマスはまた映像を戻す。
そして、スローモーションにし、エリーの映像を拡大した。
「唇を読むしかないか」
トーマスとエリックがエリーの映像の通りに口を作るが、何と言っているのかは判明出来なかった。
トーマスが言う。
「スマフォのアプリでないか探してくれ」
「ふん……」
エリックがスマフォの操作を始める。
トーマスは何度もエリーの口マネをして、なんの音が出ているのかを推測していた。
「神…… 罪…… 自殺…… 耐えがたい?」
エリックがアプリを見つけたらしくて動画を送れとゼスチャーする。
「送ったぞ」
「ちょっと待ってろ」
トーマスは自らの頭でエリーの唇を読むのを諦めた。
「どうなってる?」
そう言ってトーマスがのぞき込むと、スマフォは処理中のバー表示をしたまま、進行する様子が見えない。
「……」
「ピーシーのアプリで似たようなのがないか探す」
トーマスはパソコン画面の前に戻り、検索を始める。
「簡易モード? こっちにしてみるか」
エリックがスマフォを操作すると、読唇した結果が表示された。




