(46)
背中を叩かれ、俺はホームを歩き始めた。
その後、俺は警察署の中で様々なことを質問された。
すぐに夜になった為、警察署の中で寝た。
翌日になると、本格的な聴取が始まった。
警察官に聞かれるたび、何度も何度も駅のホームから電車に飛び込む人のことを思い出し、話した。
その最後には、エリーに操られていた人々全員を解放した方法と、エリーがなぜ電車に飛び込んだのか、を聞かれた。
「わかりません」
俺は、そう答えるしかなかった。
なぜ霊弾が放たれる訳でもなく、その場で光り始めたのか。
なぜその光を受けた者の髪の毛が発火したのか。
なぜエリーが電車に飛び込んだのか。
自分でも分かっていない。
特にエリーがなぜ電車に飛び込んだのか…… そして死んだのか。分からなかった。
警察側は駅の防犯カメラの映像を入手していて、何度もそれをみているようだった。俺にはその映像は見せてくれなかった。
「……こまったな」
警察官がペンで頭を掻いてそう言った。
「俺は何を疑われてるんですか?」
「……」
事件の真相を知りたい、それだけなのかもしれない。それは、俺も知りたかった。
丸一日、警察署の中で過ごした後、俺は解放された。
「……橋口さん」
トレンチコートを着た橋口さんが小さく手を振った。
「お疲れさま。バイクで送って行ってあげる」
「ありがとうございます」
俺は警察署の裏手に出て、橋口さんのバイクの後ろにまたがった。
「しっかりつかまって」
エンジン音とヘルメットのせいではっきりと聞き取れなかったが、俺は橋口さんにつかまった。
人が押し合いながら、逃げ道を探している。
おかしい、時間が戻ったようだった。
駅のホームで大勢の人のベクトルが、それぞれバラバラな方向を向いてしまって、どこへも動けない。
『目を覚ませ!』
俺は言った。
拳から放たれる光が大きくなる。
『なんなの、それ』
……あの時聞こえなかったこえが聞こえた。
いや、聞こえた気がしているだけなのか。
夢なのか、現実なのかが区別できない。
『あなた、いったい何なの?』
聞きなれない外国語とともに意味が頭に伝わってくる。
広がった光が消え去り、元の明るさに戻る。
光に触れた人の体についていたエリーの髪の毛が、燃える。
誘爆するように、次から次へと。
俺の目の前の人の列がさっと直線状に裂けると、正面にエリーの顔が見えた。
引きつったように口が動くエリー。
『何を言っている?』
ついさっきまで聞こえなかった声が聞こえていたのに、肝心なところは聞こえない。
『何だって言うんだ!』
そう言った時には、エリーは電車に飛び込んでいた。
「ほら、着いたわよ」
ドルドルドル…… と振動とともにエンジン音が聞こえてくる。
俺は橋口さんの胸から手を外した。
ゆっくりバイクから降りると、橋口さんが俺の顔をみて言う。
「もしかして寝てたの?」
「……」
俺はヘルメットを外しながら、小さくうなずいた。
はっきり分からないが、たぶん、寝ていた。
だから、エリーが言った、肝心な答えが分からないのだ。
夢の中で、どうでもいい言葉が、聞こえたように思っただけだ。
俺はヘルメットをバイクにロックした。
「誰かも言ったとおもうケド。あまり自分のせいだと思いつめないことね。悪いのは相手よ。エリーのせいで人はビルから飛び降りて、電車に飛び込んだの。カゲヤマのせいじゃない」
「……」
自分でもそう考えたかった。だが、出来なかった。
もしあの光で人を救えたのなら、なぜもっと早くできなかったのか。そうも思っていた。
そして犯人ではあるが、そのエリーを殺したのは俺ではないか、と思っていた。
なぜ口をひきつらせ、何かを言いかけて死んでいったのか。
「おかえりなさい」
声に振り返ると、そこに冴島さんがいた。そばに蘆屋さんも立っていた。
「……」
俺は二人の顔がまともに見れなかった。黙って下を向いた。
「じゃ、カゲヤマは任せたケド」
「ありがとね」
橋口さんが手を振ると、大きな音をさせながらバイクを走らせ、帰っていった。
冴島さんが言う。
「早く部屋に戻りなさい。警察署じゃ良く寝れなかったでしょう。ぐっすり寝て、やなことは忘れなさい」
そしてポンと俺の肩を叩くと、冴島さんは部屋へ戻り始めた。
「……」
俺もその後をついて行く。
蘆屋さんは何も言わずに俺の後ろを付いてきた。
「おやすみ」
冴島さんが自身の部屋に入ると、蘆屋さんも俺たちの部屋の扉を開けた。
「……」
蘆屋さんが扉を開けて、俺が入るのを待っていた。
「ありがとう」
部屋に入って、俺と蘆屋さんは言葉を一つも交わさないまま、眠りについた。
俺はいつもの結界の中で。蘆屋さんは自身の布団のなかで。
暗い部屋の中で、トーマスが一人椅子に座りタブレットで本を読んでいた。
他には誰もいなかった。
タブレットからの光が、ごつごつして大きなトーマスの顔を照らしている。
ガタガタと慌てて誰かが入ってくる音がした。
廊下の明かりが部屋に差し込む。
扉には男の姿がシルエットになっていた。
「どうした。ピート」
パチッと音を立て、ピートが部屋の灯りを付ける。
「エリーが死んだ」
「……」
「自殺だ」
「……自殺? おい、それは言うな」
ピートは大きく両手を広げた。
「ここが監視されてるって? クソくらえだ」
「殉職なら教団からエリーの家族に対して金が出る。だが…… 自殺は駄目だ。自殺は地獄に落ちるんだぞ。地獄に落ちた人間に教団は何もしてくれない。今後自殺だ、とは言わないことだ」




