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「何か見つかると良いんだケド」
巡査は返す。
「そのエリーとかいう人物の証拠ですか」
「そう。上のレストランで取得したDNAと一致すれば、少なくとも被害者とエリーは接触していたという証拠にはなるわね」
「そこまで分かれば十分です」
俺はそう言った後、エリーに対する怒りが込み上がってくるのを感じた。
無関係の人間を三人も落としたのだ。まるで石を拾って投げるかのように、人を落としたのだ。
鈴木巡査が急に俺の目の前に回って来て、言った。
「君、何があっても自分の判断で他者を罰してはいかんぞ」
そう言いながら、俺の両肩に手を置いた。
「えっ?」
「何か思いがあるのは分かる。だが私刑はダメだ。いいな。この件は警察に任せてくれ」
俺は唇をかみしめた。
「鈴木巡査が言う通りよ」
橋口さんがそう言った。
「除霊士になろうというなら、なおさら」
俺は頭を下げた。
そして両手の拳を握り込んだ。
俺の中では明白な事だった。エリーが何らかの形で髪の毛を撒き、それを利用して人々を操った。操られた人は校舎から飛び降りたし、俺に向かって刃物をもって向かってきたし、ビルの上から飛び込んできた。世界を混乱に陥れる為なのか、自身の教団の繁栄の為なのか。なんにせよ、まったく無関係な人を巻き込み、殺した。
一方的に殺された相手からすれば、犯人も同じ目にあってもらわねば割にあわないだろう。
罪を暴いて、罰を与えるのはいいが、時間がかかりすぎる。下手をすれば罪を確定できないこともありうる。罰が罪に合わないものになることもあるだろう。
その時、人を殺した犯人が、のうのうと生き延びているのを許せるだろうか。
「……」
「鈴木巡査。私が後で良く話しておきます」
鈴木巡査は橋口さんの方を見てうなずいた。
「まずいな」
ピート・ウイリアムズは足を組んで、机をトントントン、と苛立ちげに叩いた。
「ちょっと派手だったかな。この国の警察に目を付けられるのは間違いない」
口調は落ち着いていたが、トーマス・ホーガンも怒りを隠せなかった。
「やっちまえばよかったんだ!」
エリック・ジャクソンは、そう言って短い髪をかき上げるように何度も頭をなでつける。
「やっちまえば問題ないものを、半端にして逃げ帰ってくるから厄介なことになる」
「……」
トーマスが無言で部屋を見渡す。
「張本人はどこにいる?」
机をトントンと叩きながら、ピートが答える。
「シャワー浴びてる」
「……」
「トーマス。先に俺にやらせろ」
エリックが立ち上がった。
「ダメだ。お前がやるとすれば、屋敷に入ってからだ。都心ではお前の技を使うのは無理だ」
「この前屋敷に入ったそうじゃないか。何故俺を呼ばない?」
「まさかあんな時間に外をうろつくとも思わなかったし、まして屋敷に入るとは思わなかったからな」
「ふん…… 一人で始末して手柄を独り占めとか思ってたんだろう?」
トーマスはエリックの前で立ち上がった。
二メートルの壁のような男に見下ろされ、エリックは少し後ずさりした。
「トーマス。だいたい、なんでお前が仕切ってんだよ。お前の仕切りが悪いから」
「そこは謝る」
そこに黒髪をタオルで拭いながら、バスローブ姿のエリー・フォックスが戻ってきた。
「おい」
エリックが勢いよく進み出るところを、トーマスが制した。
「シャワー浴びるまえに説明を済ますべきだったな」
エリーは三人の顔を一人ずつ確かめるように見てから、ピートの反対側に座った。
「ピートに説明したけど」
トーマスはエリックを抑えたまま言った。
「なんで人を落とした」
「殺せると思ったから」
「やれてないぞ」
「そこは謝るわ」
エリーは誰もいない方を向いてそう言った。
「なぜパペッターの特性をいかして、もっと隠密にやれなかったんだ。この国の警察に目をつけられたのは間違いない」
「あれは自殺なんだから目をつけられたりしないわ」
トン、と机をたたく音がする。
「あまいな……」
ピートが言った。
「もうこの警察の手に君の髪の毛が渡っているぞ。今度DNAが分かるようなものを採取されたらDNA鑑定される」
「DNA鑑定での本人断定は法的に……」
「そういう話をしているんじゃない。エリーが捕まるかではなく、こっちに目が向けられている状況が問題なんだ」
トーマスが椅子に座ると言った。
「ほとぼりが冷めまで、しばらく活動を止める」
「ふん。殺してくりゃ文句ないでしょ」
エリーは立ち上がって、髪に巻いていたタオルを机に叩きつけると、部屋を出ていく。
「まて、エリー」
ピートはひょい、と机を飛び越すと、エリーを追いかける。
エリックがトーマスの肩をポン、と叩き、トーマスの前に回って、エリーがいたところに座る。
「活動停止。そこは俺も同意見だ」
トーマスはエリックを見てから、扉の方を不安気に眺めた。
俺と蘆屋さんとマリアは電車に乗って家に帰る途中だった。
エリーがどこで髪の毛を撒くのかを考えた。
普通にやったのでは飛んで行ってしまう。
うまく密着するような場所に仕掛けなければ、風が吹いて飛んでしまうようなところでは意味がない。
だから靴下、というのは、エリーからすれば非常にいい場所だった。
しかし、靴下に仕掛けるのは難しい。
どこでやったのか。
「被害者って、みんな大学生?」
「ビルから落ちてきた人も、大学生風ではあったけど…… あんた学校で見たことある?」
俺は首を傾げた。
「けど、学校で落ちた二人、俺を追いかけてきた刃物をもった連中、は生徒だよ。ビルから飛び降りたのは……」
「師匠に連絡してみる」
しばらくすると、蘆屋さんがスマフォをこっちに向けた。
「メッセージアプリ?」
「そうじゃなくて、師匠からの回答を見て」
「橋口さんの?」
俺は差し出されるスマフォのメッセージを読んだ。
『落ちてきた三人ともおたくと同じ学校の生徒なんだケド』
「橋口さんて、メッセージアプリでも、『ケド』って言うんだ」




