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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(42)

「変わったもなにも、突然、俺を狙ったように落ちてきてるんです。様子なんてわかりませんよ」

「君を狙って落ちてきてる? なんでそう思う」

 そこに食いつくのか。俺は口をゆがめながら言った。

「別に俺は何もしていませんよ。悪いことなんて一つもしていない。けど狙われてるんだ」

「……とりあえず話を聞こうか」

 俺はビルを見ていて警察に言いたいことを思いついた。

「あっ、ちょっと待ってください。一つ思い出しました」

 俺は最上階のレストランにいたエリーの事を話した。事件後、不自然に姿を消したことも。

 警察は興味を持って俺を連れて最上階に上がった。

 店員と話をしながら、俺の申告通りにエリーがいたであろう部屋に向かう。

「その女性客は、ほとんど言葉が話せなくて。ジェスチャーだけでした」

「その女性は、この部屋に」

「どうしてもここでなきゃいけないようでした。一人だったから本当はもっと中の席に案内したかったんですが」

 刑事が個室の中を見る。

 窓がきっちり締まっていないところに気付き、取っ手をしげしげと見た後、電話した。

「鑑識を最上階のレストランに回せ。調べたいことがある」

 俺はここにいた女がずっと見ていたことを話した。

「君はその女性ともめていた?」

「別にそんなことはないですよ。一方的にその女性から恨まれているかもしれませんが」

「はっきり言いたまえ。金銭トラブルか? 男女関係のトラブルなのか?」

「どっちでもないですよ」

 鑑識がくると、窓に指紋がないか、人のいた形跡らしきところを全部採取しておくよう命じた。

「すまなかった。どちらでもないとしたら、なんなんだ」

「説明しづらいな……」

 俺が説明に困っていると、後ろから声がした。

「カゲヤマ、ここに居たのね」

 刑事の方が先に反応した。

「は、橋口さん。本日はどうしてこちらに」

「霊的な事件だからよ」

「霊的な事件、ですか?」

 俺は振り返って、橋口さんに言った。

「橋口さん、俺がエリーに狙われている理由を言っていいの?」

 橋口さんは俺に向かって手のひらを向け、止めろ、といった仕草をする。そして橋口さんが言った。

「鈴木巡査。このカゲヤマは霊的な団体に追われているの。理由を簡単に言うと、カゲヤマの持っている能力が、他の団体には邪魔なの」

「そんなことで? というか狙われるほどの能力を持っているようには……」

「団体からすれば、その能力がなければ、大きな利益になるんだケド」

「……良く分からないが、その利益の為にこの男を消そうとしている」

「そうね」

「……」

 巡査は、俺のつま先から頭のてっぺんまで何度も視線を往復させた。

「落ちた人の中で一人、助かった者がいたときいたケド」

「まだ下にいると思います。落ちる前から意識がなかったようで、助かった経緯をたずねても非常にあいまいです」

 橋口さんが俺のところに来て耳打ちする。

「(あんた、どうやって助けたの)」

「(マリアが…… アンドロイドが受け止めたんです)」

「はぁ??」

 橋口さんは驚いたように大声を上げた。

「(声が大きい)」

 俺は指を立てて口に当てた。

 巡査はわざと気にしない風に振舞い、鑑識の人に指示していた。

「(なによアンドロイドって)」

「(イオン・ドラキュラの作ったアンドロイドが、俺のところに来てるんです)」

「(あのじいさんが作ったアンドロイド!? ならあり得るわね)」

 橋口さんは目を閉じて何度かうなずいた。




 ビルの一階に降りると、鈴木巡査がフロアの椅子にぽつりと座っている男の所に、俺と橋口さんを案内してくれた。

 男はくたびれた表情で俺たちを見上げた。

「彼が落ちてきたけど助かった人物です」

「ちょっと話をききたいんだケド」

 橋口さんが言うと、座っている男はびっくりしたようだった。

 そして顔を見るふりをして、橋口さんの胸を何度も見返していた。

「ちょうどいい、その椅子に横になってもらっていいかしら?」

 そう橋口さんが言うと、  

「ええ」

 と言って男は横になった。

 橋口さんがトレンチコートの中からムチを取り出した。

 男は驚いたように、ビクッと反応する。

「何するんです」

「探査ね」

 俺には橋口さんが何を始めようとしているのか分かった。

「ちょっと待ってください。過去の経験からすると、探査すると証拠が燃えちゃいますよ」

「うん…… そこは大丈夫」

 輪になったムチを俺に向けた。

 そしてその輪の内側をなぞるように指を動かした。

「このムチがアンテナね。ごく弱い霊波を当て、このムチで読み取るの。霊波が弱いから、燃えるほどの反応は起こらないハズ」

 橋口さんは、横になっている男の体すれすれに輪になったムチを動かす。

 横になっている方の男は、上体を傾けた為により大きく見える橋口さんの胸をみていた。もう、見ていることを隠そうともしていない。

「橋口さん、どうですか?」

「シッ。微妙な霊波を出し続けるのは意外と集中がいるんだケド」

 輪になったムチが、男の足先に達した時、橋口さんの手が止まった。

「?」

 さっとムチをトレンチコートの中にしまい、鈴木巡査の方に耳打ちする。

 すると鈴木巡査が、鑑識を連れてくるとともにコンビニ袋を持ってきた。

「君、その靴下を証拠物件としていただけないかな。コンビニの靴下でわるいが、これを代わりにしてくれ」

 もう問答無用で靴下をもらうような言い方だった。

 横になっていた男は、慌てて靴下を抜いて、鑑識へ渡す。

 鑑識の人はそのまま袋に入れるとともに、本人の足の方もいろいろな方向から眺め、気になるものがあると足をブラしで払って袋に落とした。

「ありがとう」

 鈴木巡査が言うと、男は靴下をはいて立ち上がった。

「もういいですか?」

 鈴木巡査が橋口さんに目配せする。

「もういいんだケド」

「ご協力ありがとう。もう帰っていいよ」

 男は無言で会釈をするとそのままビルを出て行った。

「何かあったんですか?」

「わからない。あるとすれば靴下のあたりだから、証拠として取得したんだケド」

「……被害者の方の衣服も同じように調査していますよ」

 と鈴木巡査が言った。

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