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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(39)

『ソウ。パペッッターノヨウナ』

 パペッターって…… まさか、四聖人の『エリー』じゃないのか?

『まさか、エリーの仕業ってこと?』

『カノウセイハアル』

 俺がマリアの顔を見ると、目を合わせてうなずいた。

 そのまま立ち上がって教室を出ていく。

 マリアも無言で付いてくる。

 教室を出ると、外の喧噪が聞こえてきた。

 大学構内まで救急車が入っていて、飛び降りた生徒を乗せたストレッチャーが入るところだった。

「君、何をする!」

 俺は強引に救急隊に近寄って、ストレッチャーに乗っている生徒の、頭から足先まで手をかざす。

 ポッ、と足のあたりで小さく燃えるものがあった。

「ほら、邪魔しないで」

「すみません」

 救急車のハッチが閉じ、サイレンを鳴らさずに構内を走り、構外にでるなりサイレンを鳴らして走り出した。

 マリアが俺の後ろにやってくる。

「今のは……」

『カミノケデスネ。タンササレナイヨウニ、ツヨイレイリョクニフレルトショウシツスルヨウデス』

「……手口が同じだ」

 ホテルのレストランや、居酒屋で俺を操った時も、蘆屋さんの式神が暴れた時も、髪の毛が付着していた。

 そして、今回の飛び降り自殺した生徒の靴からも、同じように髪の毛が出た。

 同じ髪の毛か、証拠はない。証拠を残さないように燃してしまうのだ。

 どの場面にもエリーがいたのか、というとそれも同じく証明できない。

 しかし、やれるとすればパペッターのエリーに違いない。

 可能性がいくら高くても証拠がない。

『オーナー。カンガエテイルヒマハナサソウデス』

「なんだって?」

 俺は思わず聞き返した。

「うっ!」

 刃物を持った生徒が、俺に向かって近づいてくる。

 その生徒に向かって、マリアはものすごい勢いで拳を振り下ろす。

「マリア、やめろ!」

 アンドロイドのパワーで叩き落としたら、骨折してしまう。

 打撃直前で、ピタッとマリアの手が止まる。

『シカシ……』

「強く握って刃物を取り上げろ」

『ハイ、オーナー』

 マリアは刃の部分を指でつまんで取り上げた。

 スピードが速すぎて良く分からなかった。

『マダキマス』

 どれが操られている生徒かは分からなかったが、俺の方にゆらゆらと向かってくる学生が何人かいる。

 人影に隠れている者も合わせれば、十数名いるだろうか。

 同時に来られたら、今と同じように、一人一人対応していたら刺されてしまう。

「どうすればいい?」

 マリアが俺をヒョイと脇に抱えると、言った。

『トリアエズ、ヒロイバショニニゲマショウ。ヒロイバショ、ドコデスカ?』

 俺は河原の方を指さすと、マリアは俺を脇に抱えたまま、どこにぶつかるわけでもなく、素早く構内を出た。

 道を細かく教えないにも拘わらず、マリアは河原までたどり着く。

「は、速いね……」

『マダ、ハチワリイジョウパワーヲセーブシテイマス』

ーーー(77)

「そうなんだ。わかったから、おろしてくれない」

 マリアは俺をチェスの駒を置くかのように軽々と立たせてくれた。

『ケレド、モウ、オイツカレソウデス』

 確かに学校からの道に、大勢の学生がゆらゆらと肩を左右に振って歩いてくる。

 奴らの目は、俺に向かっている。

「霊力で髪の毛を焼けばいいんだよな?」

『アノシュウダンニツッコムノデスカ? ワタシデモ、オーナーノイノチノホショウハデキマセン』

「……」

 だとして、どうすればいい。

 個別にやるには、隠れて不意打ちを掛けなければならない。

 そうだ、GLPに……

「『助退壁』を使う事は出来るか? あれで、全員の髪の毛を取り除くことは……」

 俺は腕のGLPを指差しながら訊いた。

 マリアが答えるために何か考えている。

『シミュレーションシマシタガ、カミノケガチイサイタメ、『ジョトウヘキ』ノメニカカラズ、コウカガアリマセン』

「まじか…… マリア、なんかない?」

『ワタシノレイアツヲカイホウシマス。タダシ、レイアツガニゲナイケッカイガヒツヨウ』

 結界?

『デンシレンジナカノヨウニ、カイホウシタレイリョクガモレズ、キントウにアタルヨウニスルヒツヨウガアリマス』

 蒸し料理を作るときのようにきっちり蓋をして、蒸気が漏れないようにするのと同じ意味だろうか。

「結界の作り方は?」

『ケッカイノツクリカタハワカリマスガ、ワタシニハツクレマセン』

「どういう意味?」

『ワタシガカタチヲエガキマスカラ、オーナーガケッカイヲツクッテクダサイ』

「わからないよ!」

 マリアは俺を引っ張り河原にある野球グランドに連れ出した。

 マリアがピッチャーマウンドに立ち、俺の方を見下ろした。

『ワタシガエガクトオリニ、オーナーガユビデナゾッテクダサイ』

「指で?」

 俺が言うと、マリアがうなずいた。

 程なく、マリアの目が昨日壁に映像を映した時のように変化した。

 俺のいるグランドに円形の図が描かれる。

「これ、魔法陣?」

『ケイッカイデス。スバヤクユビデエガイテクダサイ』

 指で? 俺は手を付いて地面に円を描き始めた。

 自分の足で消してしまったり、マリアからの投影が俺の体に当たって分からなくなったり、そうこうしているうちに図は描けた。

 指は砂だらけな上に、切れて血が出ている。

 見上げると、操られた連中が河原の土手を越えてきた。

 ここに来て、ようやくこの作戦の欠陥に気付いた。

「ちょっとまて、この結界、連中が入ってきたときに消されてしまう」

『エガキナオシテクダサイ』

 マリアは冷たくそう返す。

「馬鹿を言え、全員が俺を狙っているんだぞ?」

『ソレシカアリマセン』

「つーか、そもそも、どうやって誘い込むんだ……」

 声に出さなかったが、この結界が発動するかも分からない。

 初めて作る結界だし、最後にこれを発動する方法も知らない。

『キマシタ』

 俺は紙に自分の血を付けて、俺の姿の式神(デコイ)を作り上げた。

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