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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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33/103

(33)

 地面に頭をこすった時に切れたようだった。

 軽く体を上下左右に振りながら、男はこっちに向かってくる。

 俺は人差し指を伸ばし、手で銃の形を作ると、指先から霊弾を撃った。

 的は大きいはずなのに、まったく当たらない。

『次で仕留める』

 音は全く理解不能な外国語だ。頭に直接話しかけてくるから、そう理解できるだけだった。

「そんなことを宣言したってっ!」

 と、言う俺の言葉も、向こうにはたぶん理解不能なのだろう。

 大男は大きく振りかぶった。

 両手を、左右開くように。

「えっ?」

 両拳で挟むつもりか? そんな軌道で力が入るのか? 相手はもう打撃のモーションに入っていて、俺に考える猶予はなかった。

 足…… は動かない。バックステップすれば挟まれずに済んだかもしれないが、もう足運びで避ける時間はない。

 上体反らし(スウェー)しかない。

 背中から倒れるぐらいの勢いで体を反らす。

 大男の拳が、反応して少し奥に軌道修正する。

 ガツン、と建築機械が何かを掘っているような、大きな音がした。

 俺は上体を反らしながら、大男の拳と拳がぶつかり合うのを見た。

 おそらく、手の甲から霊力を発しているのだろう。音とともに拳がぶつかったところから閃光が起こった。

 俺はそのまま頭の先に手を伸ばし、地面を捉えた。

 足が地面をけると、体が回転して再び手が地面を離れた。

 大男と少しだけ距離が生まれた。

『じゃ、次だ』

 俺は手の指を絡めるように両手を合わせて伸ばし、先端から霊弾を放つ準備をした。

 巨大で、強力なやつだ。かすっても大怪我するような……

『無駄だよ』

 その声をトリガーに、俺は霊弾を放った。可能な限り大きくて、威力のあるものを。

 放たれた霊弾は、まっすぐ大男の腹に向かって進んでいった。

 着弾したか、と思った瞬間、ボディブローを繰り出すように、短いモーションから左手を振るうと、俺の霊弾が弾かれた。

 霊弾は倍のスピードで俺に返ってくる。

 避けることも、撃ち返す間もなかった。

「……」

 球体である霊弾の中心が腹に当たり、胸、足と上下に接触箇所が増えて行き、体が曲がって行く。

 全身くまなく被弾すると、霊弾が中心からはじけたように消え去った。

 俺は宙を何回転かしたのち、地面に叩きつけられていた。

『とどめ』

 何とか仰向けに向き直ったが、それは大男が俺にに向かって拳を振りあげた瞬間だった。

 終わった……

 俺は恐怖に目を閉じてしまった。

『なんだお前は』

『宅配業者ですよ。Amaz〇nからお届け物です』

 明らかに別の男から、大男と同じ理解不能な言語が発せられた。と、同時に俺に意味を伝えてきた。

 どうやら、何者かがこの屋敷の敷地に入ってきたらしい。

 俺は薄目を開けた。

『だんなが、受取人かい?』

 緑色の帽子をかぶった配達員は、俺と大男の間に割って入って、大男に受取のサインを迫っていた。

 大男は配達員に殴りかかるわけでも、押し戻すわけでもなく、ただ後ずさりする。

『知らん知らん、受け取るとしたら、そこに寝転がっている奴だろう』

『そうですかい』

 緑色の帽子をかぶった配達員は、俺の方に向かってきた。

 この配達員も同じように俺に意味を伝えてくるということは、霊術を使う者なのかもしれない、と俺は感じた。

 何かを感じて、大男はこの配達員に手を出さないのだ。

『寝転がってるだんな、ここに受け取りのサインを』

 全身の痛みがまだ続いている。

「無理……」

『じゃあ、この国では拇印でもいいことになってるんで失礼して』

 配達員は俺の指を紙に押し付けた。

『受け取り完了。荷物をお出しします』

 何もない空間が、配達員の頭のあたりで円を描いて裂け、そこから長細いAmaz〇nの箱が降りてきた。

 ゆっくり降りてきた箱が地面に付くと、裂けていた(サークル)に配達員が手を突っ込む。

『それでは、失礼します』

 配達員が突っ込んだ手は、その奥にいる何者かに引き上げられ、配達員が裂けた(サークル)に消えていく。

 俺はまだダメージが深くて起き上がれない。

 また状況はもとに戻ってしまった。

『こんどこそ、とどめ』

 大男が俺の真上に来ると、大きく腕を振りかぶった。

 また俺は目をつぶってしまう。

 すると今度は、バリバリバリっと、段ボールが裂ける音がした。

 俺が薄目を開けて確かめると、再び大男はモーションを止めて、アマ箱の方をじっと見ている。

『今度はなんだ』

 アマ箱がゆっくりと倒れると、そこにはカチューシャをした金髪の女性が立っていた。

 女性は長く、真っ黒なコートを着ていた。

「……」

 大男が判断に迷っているところを、俺は体を回して地面を転がり、大男から距離を取った。

 霊弾の力で、服のあちこちが裂け、血が出ていたが、ようやくなんとか立ち上がった。

『ワタシハマリア。ウケトリニンノセイメイヲマモリマス』

「はあ?」

『!』

 大男は金髪カチューシャの女性に向かってファイティングポーズを取る。

 金髪女性は身動き一つ、というか瞬き一つしていない。

 左右に小さくステップしながら、大男が金髪女性に襲い掛かる。

 ビュン、と女性の顔面目掛け、腰を軸にして回転した高速の左フックが決まった。

 いや、決まったかに見えた。

 女性は顔の横で拳を受け止めている。

 ただそれだけではない。

 最小限の動作で、だ。

「?」

 大男が固まったように腕を戻さない。

 手の震えから、そのまま振り切ろうとしているのだ。

 俺はおかしなことに気が付いた。

 体重差だった。

 二メートル超えるかという大男の、体を使ったパンチを、右手一本で、立っている体勢を変えずに受け止める。

 足のしたに杭でも打ってあって、相当鍛えているのなら別だ。

 そして、今も大男は押し切ろうとしている。

 もし、そういうギミックが無いのだとしたら……

『コナイナラ、コッチカライクワヨ』

 金髪の女性は、右手で押さえた拳を握り返しながら、押し戻していく。

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