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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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32/103

(32)

 蘆屋さんの顔が真っ赤を通りすぎた。

「そんなわけないでしょ!」

「けどしたのは蘆屋さんじゃなくて『さやか』なんでしょ。蘆屋さんが気づかないところでそうなってる可能性だって」

 また不思議な間をおいて、首を振る。

「じゃ、自動的に(ビー)ってことになるけども」

 蘆屋さんはうつむいて、もじもじしている。

 また変に間をおいて俺はうなずく。

「ふーん」

 冴島さんは冷静な顔ををしてそう言った。

「まぁ、でもそれは『さやか』なのよね。蘆屋さんとは清い関係なのよね」

 命令(コマンド)が解かれた俺は声に出して言った。

「そうです。蘆屋さんはさっきちょっと抱きしめただけです」

「それなら、私だって今抱きしめられたもの。付き合っているには相当しないわね」

 そう言いながら、冴島さんは俺に向けて手を向けて、掃うような仕草をした。また、何か命令(コマンド)を入れたようだった。

「は、はい。そうです」

「今日は、頭を冷やしてきなさい」

「はい」

 俺はそのまま部屋の扉の方へ向かって歩き出した。

「カゲヤマ、どこ行くの?」

「頭を冷やしてきます……」

 俺の意志ではないが、口がそう言っていた。

 外に出た俺は、あてもなく道路に出た。

 いつになったら、頭を冷やしたってことになるんだろう。もしかして、しばらく帰れないんだろうか。

 ……なんて、そんなことを思いながら、アパートの周りの、夜中の風景を眺めている。

 道路を挟んで、正面には屋敷が見える。

 近いのに、とても遠い場所。

 自分の家なのに、住めない家。

 もう一度、この屋敷に踏み込んで、俺の記憶とともに謎が解ければいいのに。

「……」

 なぜ、この屋敷に入らないんだろう。

 日向さんが言っていた、霊的に光り輝く場所。あれは、ここのことを言っているのではないのか。

 ヨーロッパ便のような高高度を飛ぶ飛行機からも見える霊光。

 本当にここなのだとしたら、俺が確かめるしかない。

 失われたものは、俺の記憶、俺の家族。しょせん俺自身の問題なのだ。

 除霊士になる訓練をしているんだ。俺は、以前の無力な俺ではない。

 俺が立ち入って、俺が解決すればいいだけじゃないのか……

 そうだ。入ってみよう。

 俺は道路を渡って、屋敷の入り口に向かった。

 二本指をスッと伸ばし、扉に当てて、勝手口の鍵を開ける。入ったら鍵をかける。

「出来るのか…… 俺に」

 無意識にそう言って、俺は屋敷の方へ歩き始めた。




 どこからか、霊弾が俺に向かって放たれる。

 小さい。あまりにエネルギーが小さい。何故かそう思えた。俺は霊弾を手のひらで受けると、その霊弾は体に取り込まれるかのように消えてしまう。

 一つ消えると、また別の場所から俺を目がけて降ってくる。軌道からすると、砲撃のようだ。

 同じように手で受け止めると、それも取り込まれるように消えてしまう。

「しかし、誰が撃っているんだ」

 周囲を見渡すが、霊圧を感じない。

 空気のゆがみも、オーラも何も、霊的気配がない。

「……」

 俺は後の霊弾を無視して歩き続けた。

 屋敷が見えてきた頃には、霊弾は止んでいた。

「さあ、ついた」

 自分に言い聞かせるようにそう言っていた。

 屋敷に入れば、俺の記憶が戻る。家族のことが分かる。そんな気がした。

「?」

 GLPに違和感があった。

 あまりいい予兆ではない。GLPが何かに反応にしているということは、霊的な何かがあるということだ。GLPのマニュアルには掲載されていない機能に違いない。

 俺は周りを見渡した。

 何もいない。

 というか、何かいる、という気配が徹底的にない。なさすぎるのだ。

 草を踏む音、枝が揺れる音、とにかく音はしない。目に入るものはすべて静止していて、虫や鳥、小動物も動いていない。

 返って不気味だ。

 これは『何かいる』ことの裏返しに思える。

 俺は、決意して屋敷の入り口に進む。

 ドアを開けようとした瞬間、屋敷が抵抗した。

「!」

 正面の扉が、爆音で鳴らすスピーカーのように激しく振動した。

 音はしなかったが、まるで発せられた音に飛ばされたかのように、体が後ろに吹っ飛んだ。

「なんだ……」

 そうだ…… 以前入った時は、蘆屋さん、いや『さやか』を使って鍵を開けた。

 だが、今日はそれをしていない……

 もう一度近づいて、扉に触れるか触れないか、という瞬間。

 ブンッ、と音でもしそうなくらい、扉がブレて俺に波動を当てる。

 吹き飛ばれる俺の体は、またさっきの位置まで戻ってしまっている。

『入れないのか』

 後ろから声がした。その声は、俺にはまったく理解できない言語だった。

「誰だ?」

 木々の間の闇が裂けたように見えた。

 そこから巨大な人影が現れる。

 岩のような男、という表現がぴったりくるような人物だった。

 口から下、顎部分が広く、大きい。縫ったような傷跡と、こめかみにネジが刺さっていれば、まんまフランケンシュタインのような輪郭の顔を持った男だった。

 どこかで見たことが…… ある。

 こいつ、レストランで、エリーという女がいた部屋から出てきた男に違いない。

『お前がここの鍵じゃないんなら、エリックが良く言うように、死んでもらった方が都合よさそうだな』

 知らない言語で耳の中に、言葉の意味が頭の中に響いた。

 まるで同時通訳を聞いているような感覚になる。

「お前は誰だ」

『ここで死ぬんだから答える必要はないな』

 振り上げた大きな拳が霊光を放った。

 音を立てて俺に振り下ろされる。

 顔面を守るように手の平を差し出すと、ドン、という大きな音が弾ける。

「ぐあっ……」

 まるで側転をするように頭、足先、頭、足先、と地面をこすり、吹き飛ばされてしまう。

 屋敷に飛ばされた時の力より百倍強いように思える。

『初弾を耐えたのは、あいつら三人以外じゃ、初めてだ』

 目に血が入ってくる。

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