(25)
「……精神病院に急患ってこんなに多いんですか」
精神病院だから救急対応がない、あるいは少ない、と思って勤務していたのに、実際入ってからはこんな急患が多かった。
「ここの病院は急患っていっても、隣の除霊事務所から運び込まれてるだけよ」
「けど……」
答えは返ってこなかった。
しかし、赤井が勤めているうち、徐々にその除霊事務所でGPAという機械を導入してから急患が増えたことが分かってきた。
「GPA…… ゴーストフェノミナアナライザーですか。何する機械なんですか?」
「さあ…… たまに、除霊事務所に付き添いで勤務するときあるでしょう? その時、除霊士に聞いてみたら?」
確かに持ち回りでGPA対応の当番が回っていた。
ただ赤井にはまだ実際に除霊事務所で待機したことはなかった。
やがてその日がくる。
「GPA当番って…… 赤井さん? 今日は除霊事務所でGPAを使うって。除霊事務所で待機してね」
「はい」
先輩看護師に言われ、隣の除霊事務所に移動する。
外は真昼だというのに、黒い雲が空を覆っていて、今にも降り出しそうだった。
「あの……」
「?」
「あの、GPAとかを使うとかで呼ばれて来ました」
「ああ…… 看護師さんだよね。えっとGPAはそっちの部屋にあるから、そっちで待っていて。使う時は被験者の様子をしっかり観察して欲しいんだ。マズい状態になる前にね、言って欲しい」
「マズい状態?」
「いや、そんなことはないんだけどね。病院から先生もくるし、念のため」
赤井は待っていてくれ、と言われGPAの部屋で座っていた。
しかし、なかなか被験者が来ない為に、赤井はトイレに行きたくなった。
「トイレの場所、聞いておけば良かった……」
GPAのある部屋を出て、とにかく部屋の端に行けばいいと思っていた。
廊下をウロウロと歩いていると、大きな声が聞こえた。
「開け、開けって言ってんだろっ!」
さっきの除霊士の声だった。声に続いて、平手で叩いたような音。
赤井は体を屈めて見つからないようにして、声のした部屋に近づく。
扉がしっかり締まってないせいで、半開きになっているその部屋から、女性の声も聞こえてきた。
「いや…… いやっ……」
「どうせ強姦されたんなら、何回やられても同じだろうがっ」
赤井がのぞき込むと、着衣の上半身にも関わらず、下半身がむき出しになった男女の姿が見えた。
足元には赤いスカートが落ちていた。
「!」
酷い…… これが除霊士のすることなのだろうか。赤井は目をそらした。
いや、だめだ、これは止めないと。
「赤井くん?」
声が聞こえるとともに、赤井は肩に強い痛みを感じて振り返った。
「何も見なかった。そうだね」
肩に手を置いているのは院長だった。
「これを口外したら、どうなるかはわかるね。言っておくけど、クビとかそういうレベルの話をしているんじゃないよ」
背筋が凍りつくような戦慄を感じた。
同じような目にあわされる…… いや、それどころか殺されるかも……
赤井は小さくうなずく。
その廊下を離れ、GPAのある部屋に戻った。
赤いは自分のふがいなさと、被害を受けている女性のことを思って、泣いた。
外は雨が降っていて、部屋の中にも雨音が聞こえていた。
雨音が時折、さっきの女性の声に聞こえ、赤井の心を責めていた。
MRIのような、大型の機械のある部屋に移動すると中で除霊士が作業をしていた。
これがGPA? 赤井は、その時始めてGPAというものを認識した。
大型の円筒形をした部分が奥の方にあり、その筒の中を被験者を載せた板状のものがスライドする。まさにMRIのような形をしていた。
準備が整うと、除霊士が言った。
「さあ、GPAでの検査を始めるから、その女性の状態を見てくれないか」
赤井は女性の血圧・脈拍を確認して記録を取った。
女性は前髪を前に垂らして、表情が分からないようにしていた。
「あっ……」
女性は、赤いスカートをはいていた。それは、つまり……
「どうした? あかいくん、だっけ?」
「いえ、なんでもありません」
赤井は心のなかで手を合わせ、目の前の女性に謝っていた。
「これからGPAで解析した後、除霊します」
「私はどこにいたら?」
「そこで被験者の状況を見ていてくれ」
除霊士はノートPCを操作しながらそう指示した。
そして、円筒部分に青白い光がともると、台が動き出して被験者がその輪の中に入る。
赤井は被験者の様子を見ようと、GPAが動く度、いろいろと場所を動いた。
動いている時、ふと、気になって除霊士が見ているノートPCの画面を見た。
すると、まるで動画を再生するかのように、その女性が性的被害を受けている状況が画面に映った。
「!」
今のって、さっきこの除霊士がやっていたこと……
女性が自らの足と床に落ちたスカートを見ている状況だった。
そして除霊士は画面で削除ボタンをクリックした。
「うわぁ……」
赤井は慌てて被験者の様子を見に戻る。
苦しそうなその表情を見て、除霊士に言う。
「これ、何をしているんですか、止めてください」
「大丈夫だ」
赤井は立ち上がってもう一度言った。
「止めてください」
「この機械はすぐには止められないんだ」
除霊士がノートPCで何か操作する度に、被験者は苦痛を受けたように叫び声をあげる。
赤井は『止めてください』を連呼し、そのまま涙が流れていた。
「止まった…… GPA後の状況を記録してくれ」
泣きながら赤井が被験者を拘束しているベルトを外し、話しかける。
「大丈夫ですか? ねぇ、大丈夫?」
被験者は激しく呼吸を繰り返すだけで言葉が返ってこない。
赤井は指示の通り血圧と脈拍を測る。
激しい呼吸と同じく、血圧は上昇し、脈拍が増えている。
命に関わる、と判断した赤井は慌てて部屋の電話を取る。
「先生、除霊事務所で急患です」
赤井が状況を先生に話している時、除霊士の顔が目に入った。
笑って…… る? こいつ、最初からこうなることを狙ってこの|装置(GPA)に……




