(22)
「そう。これは誰かをターゲットにして仕掛けたものね」
自分の鼻を指差して言った。
「俺?」
「そうよ。紫宮あおい、つまり、トウデクアは、あなたの記憶を調べようとしているに違いない」
「記憶?」
「ワザと過去の出来事と同様のことを起こし、カゲヤマくんが過去の出来事を思い出す時の霊波を計測する。後で、常態波として出ているものと比較しながら、過去の記憶を読み取ろうとしているのよ」
確かに俺には二年前より以前の記憶がない。
意図的に封印されているのだ、と冴島さんは言っていた。
強い霊が憑いていて、俺が思い出すことが出来ないのだということだ。
それが、常態波、いつも俺の体から漏れ出ている霊波から推測がつくとしたら……
「そんなこと出来るんですか?」
「残念だけど普通の人間には適用できないケド。ただカゲヤマの持っている霊圧から考えて、かつ、カゲヤマは霊に記憶を抑えられているのだとすれば、そのアイディアは悪くない」
回りくどい。
「つまり出来るってことですか?」
「そう。だから、こっちも先回りしてやってやろう、ってこと」
「?」
「忘れちゃった? こっちにもGPAがあるんだから、同じようにすれば出来るってこと」
「ああ、なるほど」
「じゃあ、さっさと準備するわよ」
俺は事務所にあるシャワールームで、禊をした。
真っ白い着物が用意され、それを着るより他なかった。
「準備できたわね」
所長室に入ると、すでにGPAはセットされていた。
それと、見かけない男がいた。
眼鏡をかけて、何か独り言を言っている。
歯並びが極端に悪く、同じように姿勢悪い。
「ああ、こちらはGPAのエンジニアの方よ」
俺の視線を読んだのか、冴島さんがそう言った。
「影山です。よろしくお願いします」
「おおっ…… もう霊圧が掛かってるじゃん。すげえ、こんなにはっきりした波長を見たのは初めてだ……」
エンジニアは名前を言うわけでもなく、GPAにつなげたノートPCのモニタを見つめながら独り言を言っている。
「始めましょうか」
「……」
エンジニアの人は何かノートPCを操作している。始めていいのだろうか、と戸惑う。
「なにやってるの、早く準備して」
「けど……」
また俺の視線を読み取って、冴島さんが言う。
「大丈夫。こういう人だから。始めちゃだめなら、大声で騒ぎだすから気にしないでいいわ」
俺が横目でエンジニアをみるが、エンジニアは見られているのを感じていないのか、無視しているのか、まったく反応がない。
「ほらっ!」
俺は冴島さんに押されるようにGPAに横になった。
そして、拘束ベルトで一切身動きが出来ないようにがっちり固定される。
「これがすごく嫌なんですよ。改良してもらえませんかね」
そう言った直後、鼻をさけて口は固定されてしまった。
そして、俺の頭の上あたりにある円筒状の内側が光り始めた。音を立てて暗い赤がクルクル回りはじめたかと思うと、あっという間にスピードが上がって青白い光になった。
冴島さんは機械の表示をじっと見つめた。
エンジニアがノートPCを見つめながら言った。
「測定開始」
キュィィィィィンと音がなり、ゆっくりと縛り付けている板が動く。
青白い光の下をくぐるあたりで、俺は目を閉じてしまった。
俺は自分の手を口に突っ込み、さっき食べた高級な肉を吐き戻そうとしていた。
『やめなさい!』
冴島さんの手が俺の背中に当たる。
『あ、ありがとうございます』
俺が振り返ると、そこにいたのは冴島さんではなく、由恵ちゃんだった。
『影山くん、危ない!』
言われるまま正面を向くと、上下に二本、包丁がまっすぐ俺の胸に差し込まれた。
『うわぁぁぁぁぁぁぁああああ!』
シャツがアッと言う間に血で染まっていく。
胸を開くように包丁を左右に振って広げようとする。
手の感覚がなくなるにつれ、俺の右の手と左の手が腫れていく。
腫れるという度を超して大きくなり、今度は肌の色が青く変色していく。五倍、いや十倍ほどの大きさになった時、その手の爪は男がもっていた包丁より鋭く、硬そうに見えた。
『反撃だ』
俺がそう言った。
その大きな青い肌の手を振り上げ、包丁を刺してきた男を叩く。
俺の爪の軌跡を、追うように閃光が走る。
そのままなすすべもなく男は床に倒れんでしまう。
『おおおおお……』
その大きな手からすると、小さく見える包丁を器用につまみ、抜き取る。
そして両手を重ね、その手で胸を覆った。
『まさか、こういうことだったのか?』
まったく別の意識として俺はそうつぶやいた。
青い色の手が次第に正常な肌の色に戻り、同時に大きさも普通の大きさへ縮んでいく。
シャツから滴り落ちていた血も止まり、痛みもなくなっている。
『あっ? 由恵ちゃん……』
両手が普段の手になったのを確認してから、俺は振り返る。
そこには由恵ちゃんはいなかった。
しかし、三方は壁。俺と男の方以外、どこかに逃げれるとは思えない状況だった。
それとも初めから由恵ちゃんがいたわけではなく、さっき倒した店長の霊が見せていた幻覚か何かなのだろうか。
『聞こえる?』
それは空気が震えて聞こえる声ではなかった。しかし、冴島さんの声だとわかる。
『冴島さんですか?』
『そうよ』
俺は厨房の中をきょろきょろと見回す。
『どこにいるんですか』
『GPAを使って話しているのよ』
『GPAって?』
さっきまで感じていた冴島さんの反応が、急に薄くなった。
『ゴーストフェノミナアナライザーよ。あなたは今それにかけられているの』
あっ? ああ、そういうことか。
まるで自分の足で立っているかのように感じるが、実際はあの板状のところに横たわって縛り付けられているのだ。
『今の…… 今のが俺の記憶なんですか?』
『おそらく、としか言えないわ』
なんだろう、変な感じがする。




