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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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13/103

(13)

「裏にプライベートな連絡先が書いてありますから」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、また」

 紫宮さんが手を出してくる。俺もその手に応えて握手をする。

 駅方向に戻っていく彼女が、小さく手を振った。

 俺も同じような感じに手を振り返す。

 優しい微笑み。

 はっ、と気づきビルを振り返る。

 どこにも灯りがつかない。

「……まさか」

 入ったふりだけされて、裏口から抜け出てしまったのだろうか?

 俺は慌ててビルの入り口に駆け寄った。




 真っ暗だった。

 このビルの廊下は昼間も暗かったが、日が落ちた今は真っ暗だった。

 ゆっくりと確かめるように歩く。

 蜘蛛の糸に引っかかったようだ。手を動かしてそれを絡みとる。

 さらに歩いていくと、エレベータがあった。エレベータの表示灯は、一階に静止していることになっている。

 ガタン、と大きい音がしてエレベータの扉が開く。

 エレベータ内の明かりは点いている。

 逆光で、シルエットしかわからなかったが、女だった。

 女は、なにか分からない言葉を話した。

「?」

 つづいて、女はクルリ、と指を回した。

 背中を向けて、入り口の方を向く。

 まるで、何かに押し戻されるように、ビルの廊下を歩き始めた。

 ビルを出ると、後ろを突いてくる女もビルを出た。

 駅の方へ歩いていくと、(・・)は言った。

「エリー、待て」

 と同時に俺はエリーの背中に手を当てた。

「!」

 エリーは両手を上げて止まった。

 エリーは何か話しているが、その言葉は分からなかった。

 俺は(・・)()(・・)いている(・・・・)式神(・・・・)に「お前が通訳しろ」と言った。

 俺の姿そっくりの式神が立ち止まり、エリーと俺の方に向き直った。

 そして、式神はよくわからない言葉を話した。エリーが変な言葉を言い始めると、式神はほぼ同時に話し始めた。

「人形使いが人形(しきがみ)を見破れなかったなんて」

 俺も答える。

「お前はなんの目的でこの国に来た」

 式神がほぼ同時に、外国語を話していく。

「パスポートに書いてあるわ。観光目的よ」

 式神の声は男の声だったが、話し方は女性風だった。

「何故俺を狙ってくる」

 式神が通訳する言葉、つまりエリーが話す言葉はよく聞き取れない。英語なのか、他のヨーロッパ言語なのかもわからなかった。

「はぁ? だいたい、今日は、あなたの方から仕掛けてきたのよ」

「真剣に答えろ。喫茶店にいた時から俺がいるのが分かっていたんだろう?」

「ふん、何もしていない外国人観光客に、手出しできるのかしら。こっちは痴漢、って叫ぶことが出来るのよ」

 エリーは顔を横に向け、片目で俺を睨みつけて、そう言った。

 俺もにらみ返し、言った。

「背中に手を置いたこの状態なら、そう叫ぶ前に君を気絶させることも出来るぞ」

「……」

 しまった! 式神から意識を離しすぎたっ……

「うわっ!」

 後ろに回られた自身の式神に、首を絞められてしまった。

 背中から手を放してしまうと、(エリー)は駅の方向へ走って逃げていった。

「くそっ」

 俺は人差し指と中指を伸ばして口元につけ、念じ、指を払う。すると、俺の姿をした式神が紙に戻る。

 戻った紙に絡みついていた髪の毛があった。髪の毛は燃えはじめ、紙にも火をつける。

 落ちたアスファルトの上で、紙が燃え尽き、真っ黒い灰が残った。

 スマフォに電話が入った。冴島さんだった。

「今、たまたま近くにいた『かんな』を向かわせたから」

「ごめんなさい。逃げられました」

「……そう。まあ、影山くんが無事でよかったわ。とりあえず、かんなと合流して、かんなに家まで送ってもらいなさい」

「は、はい」




 バイクが止まると、俺はそっと足を抜くようにしてバイクを降りた。そしてヘルメットを指示されたところに固定する。

「橋口さん、ありがとうございました」

「いいのよ。こっちも霊力(ちから)をもらったから」

「?」

「いいから、いいから。じゃあね」

「運転気をつけてください」

 橋口さんは軽く左手を挙げて、バイクを飛ばして帰ってしまった。

 俺は道を渡ってアパートの二階に上がる。

 自分の住んでいる部屋の扉の呼び鈴を押す。部屋の奥から声がする。

「はーい」

 芦屋さんの声だった。

 扉の向こうに気配を感じる。

「あ、なんだ」

 そう聞こえると、鍵だけがガチャリ、と開く。

 俺は扉を開いて中に入る。

「ただいま」

「……」

 芦屋さんは何も返してくれない。

「芦屋さん、もうご飯食べた?」

「……食べてないけど」

「一緒に食べに行かない?」

 俺は戸口の方を指さして言った。

「なんであたしがあんたなんかと」

「そう」

 俺は歩き出した。

「また出ていくの?」

 立ち止まってお腹を軽く抑える。

「お腹空いてるし……」

「冷蔵庫の材料は使っていいわよ」

「えっ? 本当? なら、蘆屋さんの分も作るけど、いい?」

 俺は冷蔵庫に戻り、開けて中を確認する。

「どうしても、って言うなら」

「うん。じゃあ、そうするね」

 料理は居酒屋のバイトで多少経験があった。と言っても作るのは目玉焼き、野菜炒め、ペペロンチーノ、ナポリタンぐらいだが、俺自身は毎日それらのの繰り返しでも問題なかった。蘆屋さんも同じとは限らないが、今日つくるぐらいは問題ないだろう。

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