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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(11)

 それはさっきの妄想と違わぬラッキースケベな風景だった。目の前に横たわっているのは若く可愛らしい女性で、俺の手はまだ胸の膨らみを鷲掴みしたままだ。

 女性はわざと視線をそらして、口元に手をやり、顔を赤くしている。女性はスカートをはいていて、転んだ拍子に開いた足の間に、俺がのしかかっているような格好だった。

「は、早く退いてください」

「あっ、ごめんなさい。すみません」

 俺は慌てて立ち上がるとともに、女性に手を差し伸べた。

「あ、ありがとう」

 俺の手に、女性の手が掴まると、力を込めて引き上げた。

「えっ?」

 気付いたときには、またその女性の胸に顔をうずめていた。

「あっ、あのっ! 困るんですけどっ」

 二度目なので、すこし心に余裕があった。

 いい匂いだ。何故女性はこういういい匂いがするのだろう。

「重いです……」

 女性の手で、顔を押し上げられた。

「すみません」

 言いながら、女性の顔を確認する。

 前髪はまゆのうえあたりで切り揃えられていて、輪郭はどちらかというとまる顔だった。どちらかと言えば童顔で、幼い感じがした。

「……」

 それに比較すると、胸は幼くなかった。大きく丸い胸にも関わらず、体形はスリムに見える。頭が小さくてバランスが良いせいだろう。

「すみません」

 俺はもう一度手を差し伸べた。

 女性は俺の手を掴みかけて、ひっこめた。

「結構です」

 女性が立ち上がって、お尻のあたりを掃っていると、ようやく部屋の全体が確認できた。

 事務机が四つと、キャビネットが一つ。電話機が一つ。電話機がない方の机に、ノートパソコンが置いてある。

 殺風景というか、何かこれで仕事が出来るのか疑いたくなるような感じだった。

「何か事務所に用ですか?」

「ご、ゴメンなさい。廊下が真っ暗で間違えてしまって」

「廊下が真っ暗? ああ、またどこかショートしたのかしら。管理人さんに連絡しないと」

 机に戻りかけたところで、立ち止まって俺を振り返る。

「すみません。用がないのなら、帰ってください」

「えっと……」

「いきなり入ってきたうえに人の体を触って、出ていく様子もないなら、あなた、訴えますよ」

 俺はその女性に押し出されるように廊下に出た。

 バタン、と扉が閉まった。

 暗闇と静寂。

 あれ、と俺は思った。中の女性は扉を開けようとしたから、俺は引き込まれるようにして中に入ってしまったのだ。

 つまり……

 俺は扉の方を振り返ると、女性が部屋から出てくるのが見えた。

 そしてそのまま……

 俺は廊下で仰向けに倒れてしまった。今度は女性の方が突っかかってきた。

 廊下が暗いから、どこかに足をつっかけたのだろう。

 俺は顔の上に乗った柔らかい部分を押し上げた。

「いやっ」

 と声がすると同時に、頬を叩かれた。

「ごめんなさい」

「あんたまだいたの?」

「暗くて動けなくて」

「……」

 体の上に乗っていた女性の気配が消えた。

 誘導灯のあかりで、女性が廊下をあるいているのが見えた。

 バン、と小さい音がして、廊下の明かりがついた。

 俺は立ち上がると、後ろから声が聞こえた。

「これでいいかしら。早く出て行って」

 女性は腰に手をあてて、じっとこっちを睨んでいた。

 俺は後ずさるようにエレベータに入り、一階に降りた。

 エレベータを降りると、GLPをつけたあたりにあった違和感がなくなっていることに気が付いた。

「あれ?」

 いろいろなことが起こって、はっきりと覚えていないが、このGLPの違和感には覚えがあった。

「もしかして、さっきの女性(ひと)……」

 俺は過去の経験を思い出していた。

 なんどか、このGLPを付けた手首に違和感を感じることがあった。それはどれも霊的案件があった時だった。

 つまり、さっきの女性も、霊的案件絡みの人物ということになる。

「まさか」

 俺は自分の考えを確かめるようにそう口に出してから、ビル内の他の部分の確認を始めた。

 歩き回ってビルの中の確認を終えて、再び一階に降りてきた。

 このビルの中で出会った人間はさっきの女性だけ。あとの部屋は完全に無人だった。

 無人のビルで不思議な事務所で働く女性。

 GLPの違和感。

 怪しい。トウデクアに何か関わりがあってもおかしくない。

 俺はビルを出て、このビルを見張ってみることにした。

 女性のいた怪しいビルが見えるあたりにある、車が四台とめられるだけの小さな駐車場いた。

 駐車場にある自動販売機で缶コーヒーを買い、飲みながらちらちらとビルの方を見ていた。

 十分、二十分と時間がたっても、誰の出入りもなく、見える限りビルの部屋にも変化がなかった。

 日も暮れてきて、歩いている人の向きが駅へと向かい始めた。

「そろそろ退社時間なのか」

 もし俺の予想通りなら、2Fの明かりが消え、ビルから女性が出てくるはずだった。

 俺は駐車場の看板の柱に背中を預けて立っているうち、眠気が襲われた。

 冴島さんに術を習ってから、本当の鍵を開ける、ということに応用するのも初めてだった。

 万一中にいる人に気付かれないように、とか緊張感の中で高度に集中が必要な作業でビル一つ確かめたせいで、非常に疲れていた。

 俺は、背中を預けたそのままの恰好で、いつしか眠りに落ちていた。




 ドカッ、と腹に強い打撃が入った。

 俺は腹にぶつかってきたボールのようなものを、両手で押し戻した

「あれ? あなたは?」

 怪しいビルで見た女性だった。

 女性は俺の手で頭を抑えられながら言った。

「ご、ごめんなさい。そこでつまづいじゃって」

 指をさした方向には確かに段差があった。

「あっ、いえ、別に、平気ですよ」

 俺は慌てて女性の頭を押さえていた手を放し、スクリューのように手を回してそう言った。

 女性は少し微笑んでから、上目遣いで言う。

「……あの、この後なにかありますか?」

 食事でも、という意味だろうか。だとしたら、のってみる価値はある、と俺は思った。

「あっ、人を待っていたんですけど、すっぽかされたみたいなので、何もないですよ」

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