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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(100)

「服を着なさい、服を!」

 大声を出していると、扉がガチャリ、と開く。

「どうしたのかんな。大声出して」

 冴島さんはそう言いながら入ってくる。

 橋口さんが背中を向けたまま俺を指さす。

「こいつが裸で寝てやがって」

 冴島さんは俺の恰好をゆっくり確認してから、背中を向けた。

「キャー」

 うまく誤魔化したな、と俺は思った。

 俺が裸で、その部屋の中に冴島さんがいたという状況が知られてはまずい。俺にはその正当な理由を答えることができないし、正当な理由を答えたとしても『命令(コマンド)を外した』ということを知られてしまう。

「ちょっと待ってください。服着ますから」

 皆が、俺とは反対を向ている時、机の上に置いてあった紙が一枚、スルスルと動き出した。

 それはクモのように足を複数出して床を這いまわった。

 式神だ! 俺はとっさに冴島さんを見た。俺の視線に気付いたのか冴島さんは少し横を向き、口に人差し指を当てて、黙っているよう俺に促した。

 見ているとクモの形をした式神は、床に散らばっている俺の服の端切れを集めていた。

 端切れが残っていれば、俺の服が何故端切れになって部屋に散らばったか、疑問に思われてしまう。

 ……いや、俺も何故服が端切れになっているのか、理由が分からない。

 突然、部屋が揺れ、揺れと同時に地響きが聞こえてくる。

 キャタピラーのような何度も何度も地面を削り続けるような音だった。

「なに?」

「なんの揺れ? 変な音もするんだケド」

 冴島さんと橋口さんが顔を見合わせた。

 俺は言った。

「工事車両かなにかじゃないですか? キャタピラーの音に思えますけど」

「よくわかるわね」

「勘ですが」

 再び激しい揺れが起こると、金属同士が削りあうように軋む音が聞こえてくる。

「近づいてくるわね」

 冴島さんがそう言った時、ドン、と音がして再び部屋が激しく揺れた。

「工事車両じゃない、これって戦車じゃない!?」

 俺たちは一斉に部屋の外にでて、廊下から外を眺めた。

 音は門の方からこちらに近づいてくる。

 突然、土がえぐれて土砂が飛び散り、土煙が上がった。

「撃ってきてる」

 屋敷の扉の方から、三島さんと上戸さんがやってくる。

「何、あの戦車」

「上戸さん、戦車、見たんですか?」

「正面の扉を開ければ、真正面にこっちを狙ってる戦車が見えるわよ」

 俺は三島さんと上戸さんとすれ違うように正面の扉に向かった。

 外に出ると、戦車が見えた。

 正面を狙っている砲から、火花と、黒煙が見えた。

「また撃った!?」

 一直線に屋敷に向かう砲弾が、急に下方に捻じ曲げられて床に落ちた。

「結界?」

「……そうね。私たちが気付かないだけで、強い零場が形成されているのかも」

 声に振り返ると、そこに冴島さんがいた。

「この雰囲気だと、至近距離から撃ち込むつもりね」

「止めましょう!」

 俺は思わず飛び出して、戦車に向かって人差し指を伸ばして銃の形を作った。

 意識を集中すると指先には霊光が光りだす。そして…… 撃った。

 輝く零弾が甲板に当たるが…… 傷一つついていない。

「くそっ!」

「影山くん、無駄よ。あれだけの金属の塊を壊そうと思ったら、どれだけの霊力が必要かわからない」

「けど、このままじゃ屋敷が壊れてしまいます。屋敷が壊れたらまた『大災害』が……」

 俺はGLPに手をかけた。

 『助逃壁』を選ぶ。これは霊体を通さない光の壁が出来て、相手を霊体を遠ざけることができる。

「操縦者が霊体なら、これで止められるはず!」

 何も考えずにGLPの竜頭を押し込む。

 腕時計型の装置(GLP)から光の壁が大きくなりながら戦車に向かって進む。

 光の壁がかかっても戦車は微動だにせず、進行を続ける。が、光の壁が戦車の途中で止まった。同時に戦車の進行も止まった。

「何か、霊体がいるってことだ」

 おそらく、操縦席か砲手席、どちらかにいる霊体で『助逃壁』が引っかかって、止まっているのだ。

 しばらくすると、再びキャタピラーが回転を始めた。

 『助逃壁』と力比べでもするように激しく回る。

「まさか強硬突破するつもりじゃ」

「影山くん、このまま戦車自体がぶつかったら屋敷側が壊れるかも」

「……」

 このまままともに動き出したら、衝突して屋敷が壊れてしまうかもしれない。

 走行できないように何か……

 俺は再び霊弾を戦車に向かって放った。

「影山くん、何やってるの!」

 俺の霊弾は、戦車の金属で弾けて消えてしまう。

「キャタピラーです。戦車はあれを壊せば進めませんから」

 俺は強く意識をして、大きく霊光をためてから霊弾を放つ。

「さっき言ったでしょう? あれだけの金属の塊を……」

 もう一度、霊弾の飛行速度を上げるように意識して、撃つ。

「分かってます。けど、やるしかないんです」

 わずかだが、戦車のキャタピラーが勝っているのか、『助逃壁』を引きずりながら戦車が前に動き始める。

「……」

 『助逃壁』の光がゆらゆらと揺れ始める。もう何分も『助逃壁』は維持できない。

 俺は考えた。細く、鋭く、収束させるように霊弾を撃ってみよう。

 俺はそう意識して、霊弾をビーム状に放つ。

 霊弾の先端が触れると、ガッ、とキャタピラーが止まる。

 霊弾は弾かれ、再びキャタピラーは動き出す。

「行ける!」

 俺は左手を添えてもっと意識を先端に、強く、鋭くするように意識する。

 そして、十分な力をためて霊弾を放つ。

 ガガッと音がして、キャタピラーに引っ掛かり、動きが止まった。

 震えながら、キャタピラーの金属が弾けた。

「やった!」

 直後、『助逃壁』が消え去り、戦車の片側のキャタピラーだけが進み始めた。

 左側は前進しようとし、右側はキャタピラーが外れて動かない。

 ものすごい勢いで、土砂を、土煙を巻き上げながら、戦車はその場で回転を始めた。

「わっ!」

 そう言って冴島さんは腕で顔を覆った。

 俺は冴島さんを庇うように戦車との間に入って、冴島さんを屋敷方向へ押し戻した。

 回転するたび、激しく土砂が背中に飛んでくる。

「ウッ……」

 なんどか同じ動きをした後、戦車が止まった。

「だ、大丈夫?」

「大丈夫です」

 冴島さんにそういうと、俺は戦車を振り返った。

 動きの止まった戦車は、あさっての方に砲塔を向けていた。

「……」

 何か機械音がして、止まっている戦車の砲塔が回り始めた。

 屋敷を正面にとらえると、間髪入れずに砲弾を発射した。

「なっ……」

 再び屋敷の周りの結界が働き、弾丸が弾かれた。

 再び機械音がすると、砲塔上のハッチが開いた。

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