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夏の約束  作者: XJQKA
4/5

夏の約束4

 給食を食べ終わってから調査を再開した。私と鍵谷君の2人だけで幽霊が出た資料室へと向かう。

 千秋と椿も誘ったけど、2人とも用事があると言って断った。絶対わざとだ。

 

 私はふと、鍵谷君を横目で見る。

 鍵谷君の身長は私より10センチは高い。私は女子の中でも背は低めだから鍵谷君も男子の中では特別背が高いわけではないが、今の彼はなぜかいつもより大きく感じる。

 鍵谷君が私の視線に気づいたようで、どうかしたかと聞いてきたので、私はなんでもない、と返した。

 椿たちが()()()()()を言ったせいで、一緒に歩いているだけなのに気恥ずかしくなってしまった。


 そうして私たちは図書室に着いた。私たちの教室から資料室に行くには図書室を通過するのが一番早い。

 カウンターには本間先生が書き物をしていた。

 私たちが図書室に入ってきたことに気づいて顔を上げた。

「あら、安藤さん。また会ったわね」

「こんにちは」

「今度は鍵谷君も一緒なのね」本間先生が微笑む。

「はい。これから資料室の調査をするんです」鍵谷君が答える。

「調査? 何か捜し物?」本間先生が首をかしげる。

「まあ、そんなところです」幽霊の調査に来たことは言わなくて良いのだろうか。

「そう。――――そうだ、1つ頼み事をしても良いかしら」

「何ですか?」

「資料室に行くのよね、ならついでにこれを資料室の前に貼ってきてもらえないかしら」

 そう言って本間先生は一枚の画用紙と画鋲を差し出した。それは「読書感想文にもオススメ!心揺さぶられる本5選」とタイトルを掲げた手書きの図書の紹介のポスターだった。

「これ、先生が書いたんですか」ポスターを受け取った鍵谷君が先生に聞く。

「ええ。どうかしら」

「良いと思います。先生らしくて素敵です」

「俺もそう思います」

「本当に? 2人ともありがとう」先生はにっこり笑う。

「あ、そうだ。先生、ちょっと聞いても良いですか」鍵谷君は何か思いついたようだ。

「あら、なにかしら」

「昨日、図書室はいつまで開けていたんですか」

「六時半頃だったと思うわ」

「そのとき誰か図書室にいましたか」

「誰もいなかったわ」

「先生は何時頃図書室を出ましたか」

「・・・・・・七時過ぎかしらね。時計をみたわけではないのだけど、掃除や図書の整理をいつも通りしたからそのくらいだったと思うわ」

「そうですか・・・・・・変なことを聞いてしまってすみません」

「ふふっ、いいわよ」

「あっ、俺たちそろそろ行きますね」

 そう言って私たちは図書室をあとにする。別れ際、本間先生はポスターのことをもう一度頼んだ。


「ねえ、さっきのはどういうつもり?」私は聞かずにはいられなかった。

「さっきって?」

「質問のこと。まさか本間先生が犯人だと思っているの?」本間先生が犯人だとはとうてい思えなかった。

「別に犯人だとは思ってない。ただ、図書室に犯人がいないか確かめただけだ」

「それなら良いけど・・・・・・」本当にそう思っているのだろうか。


 資料室は図書室の隣にあるため、歩き始めてすぐに資料室に着いた。

 はじめに本間先生から頼まれたポスターを資料室の前の掲示板に貼り付けた。

 そのあと、鍵谷君は問題の――――幽霊が開け閉めしたらしいドアを調べ始めた。

 問題のドアの大きさは幅1メートルくらい、高さ2メートル半くらいのごく普通の引き戸だった。薄い板を2枚貼り付けて作られているらしくて、中に空洞があるのかノックをすると乾いた高い音がする。鍵谷君がドアを開け閉めすると、ドアは軽いためかとてもスムーズに動いている。ドアが動くたびにガラガラという音を立てる。

 そうか、と鍵谷君が呟いた。そのあと、ドアを開いたかと思ったら手を離した。するとドアはゆっくりとした速度で閉まり始めた。

「何か分かったの?」

「半分、いや4分の1くらい謎が解けた」

「えっ、もう分かったの?」まだ調べ始めてから2分もたっていない。

「ああ、女の子が2回目に聞いたドアの音をどうやって出したのかが分かった。――――ドアは勝手に閉まったんだ」

「どういうこと?」

「こういうことだ」そう言って、資料室の中に入った。

 戻ってきた彼の手には一本のペンがあった。

 彼はペンを廊下と垂直になるように置いた。すると、ペンは静かに転がり始めた。

「この廊下はドアが閉まる方向に少し傾いているんだ。だからドアに少し勢いをつけてやれば勝手に閉まるようになっているんだ」

「なら、ドアの動く音はたまたまドアが勝手に動いただけってこと?」

「2回目はそうだが、1回目は違う。1回目の方は傾斜の問題で勝手にドアが開くことはない。

 1回目のドアの開く音は、やはり誰かがドアを開けたからで間違いない。

 ――――問題はなぜドアを開けたのかだ」

 私はふと思いついたことを言ってみることにした。

「糸を使えば出来るんじゃない?」

 ドアに糸をつければ離れたところからでもドアを動かすことは出来そうだ。

 しかし、鍵谷君は首を振る。

「ドアを開けるだけならそれでいいが、そうなるとどこから糸を引いたのかという問題が出てくる。

 犯人が糸を引くとすれば、ドアが開く向きから考えて図書室の方からだ。でも本間先生は不審な行動をする人物をみていない。もっとも、本間先生が犯人ならそれは解決するが」

「だったら、犯人は機械を使って糸を引いたのかも」これなら犯人は現場にいる必要がなくなる。

 それにも首を振る。

「そうなると今度はどうやって女の子が資料室に来ることを知ったのかと言う問題が出てくる。女の子は忘れ物を取りに行くことを彼女の友達にしか話していない。

 女の子が資料室に戻ったのは偶然だ。女の子の私物を隠せば女の子を資料室に行かせることが出来るかもしれないが、それでも狙った時間に女の子が資料室に行ってくれるとは限らない。少しでも時間がずれれば女の子にドアの開く音を聞かせることが出来なくなってしまう」

「つまり、犯人はどうやって女の子が資料室に行くことを知り得たのか、どこから糸を引いたのかと言うのが問題になるのね」

「それと、なぜ犯人はそのようなことをしたのかということもある。安藤さんの言った2つをクリアしたとしても、犯人はその苦労に見合う対価は得られない。幽霊の噂を流したかったと犯人が考えたとしても、女の子が幽霊に遭遇したことを誰にも話さなければ噂を広げることが出来ない」

 そう語る鍵谷君はとても同じ中学生には見えなかった。彼の頭の中ではどのようなことが考えられているのだろう。

「ともかく、資料室の中も調べよう」

 私たちは資料室の扉を開けた。


 資料室は私たちの教室より少し狭かった。

 部屋の中央には2つの長机がくっついて置かれている。机の上には何も置かれていない。

 ドア側の壁にはキャスター付きのホワイトボードが置かれている。それ以外に物がないので隠れる場所はなさそうだった。

 入って左側の壁には掲示板とコンセントが着いていて、掲示板には何年も前の張り紙が貼られている。その壁に沿うようにプロジェクターと一緒に使うスクリーンが筒状に丸められて置かれている。

 その反対側の壁には作り付けのスクールロッカーがあり、そこにはほとんど物が入っていなかった。

 窓側にはいろいろな物が置かれている。まずは野球応援の際に使う大きなドラムが目に入った。その隣にはプロジェクターが置かれている。その近くには段ボール箱がいくつか置かれていて、その中には書類や古い教科書などが入っている。その近くの部屋の隅には掃除機が置かれている。

 資料室の中には人が隠れられるだけの大きさのロッカーや段ボール箱は置かれていなかった。資料室は2階にあるため、窓の外から何か仕掛けるということも出来そうにない。私がみただけでは資料室の中からドアを操作することは難しいように思える。

「何か気になるものはあった?」

「いや、まだなんとも・・・・・・」鍵谷君は左手でさっき転がしたペンをもてあそぶ。

 窓の外を見ると昨夜とは対照的な青空が広がっている。鍵谷君は辺りを見回しながら何かを考えている。その様子はまるで意識だけ別の世界に行っているようだ。

 鍵谷君はしばらく考えた後、口を開いた。

「なあ、何か気がついたことはないか」

「何かって?」

「何でもいい。些細なことで良いんだ」

 些細なことか・・・・・・。

「思ったより片付いて見えるかな。てっきり物置みたいだと思っていたから」

「そういえばそうだな。掃除もちゃんとされているみたいだ」

「あとは・・・・・・そう、掃除ロッカーがない。どの教室にもあると思っていたけど、ここにはないみたい」

「掃除ロッカーか・・・・・・」

「あと・・・・・・うーん・・・・・・・・・・・・暑い」

 鍵谷君は小さく笑ってくれる。

「そろそろ昼休みも終わるから教室に戻ろう」

「うん」

 

 教室に戻ると既に千秋達がいて、調査のことを聞かれたのでまだ分からないと答えた。

 午後の授業が終わり、千秋と椿はそれぞれ部活と生徒会に行った。私も部活があるので美術室に向かうことにした。

 鍵谷君は同じ一階の職員室に用事があるというから途中まで一緒に歩いた。

「幽霊の正体、わかった?」

「いや、まだ・・・・・・もう少しで分かりそうなんだ。考えがここまでは来ているんだ」そう言って手をのど仏のあたりに持って行く。

 私たちはしばらく無言で歩いた。

 窓の外では陸上部がハードルを跳んでいるのが見える。名前も知らない男子がすねをぶつけた。

 ハードルって飛べなくても失格にならないんだっけ。痛そう。

 私と並んで歩いている鍵谷君も同じ所をみている。いや、よく見ると意識だけ別の世界に行っているみたいだ。

 鍵谷君は考え事をするとき、周りの様子が見えなくなるみたいだ。目は開いていても、そこから入ってくる情報には意識が行かなくなるようで、池沢君が鍵谷君の前でトンボを捕まえる時のように鍵谷君の顔の前で指をクルクル回してもそれに反応を示さなかった。ほかの男子が面白がって池沢君の真似をしても、考え事が終わるまで彼の周りに何人もの男子が集まっていることに気がつかなかった。

 私は考え事をしていたとしても誰かに呼ばれたらすぐに気がつくけど、鍵谷君はなかなか気づかない。脳のすべてを考え事に使うからほかのことには気が回らないのかもしれない。脳のすべてを考え事に使えるから私の何倍も難しいことを解決できるのかもしれない。

 私たちは一緒に歩いているけど、心は違う場所にあるみたい。なんだかさみしい。

「そうか・・・・・・」異世界から鍵谷君が戻ってくる。

「どうしたの?」

「分かったんだ。――幽霊の正体が」

「えっ、ホント!」どうして急に分かったんだろう。

「ああ。部活が終わったら資料室に来てくれないか。確かめたいことがある。

 ――上手くいけば幽霊を実際にみることが出来るかもしれない」

 本当に幽霊の正体が分かったの?



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