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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
ルビィどろぼう

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ルビィどろぼう8

◇◆◇◆◇◆◇


 冗談ではない。とルビィは心底震える。

 探っていたデータの張本人である、アベル=フォン=レインが突如として、目の前に現れたのである。

 古竜であるガブリエルの弟。もし、その情報が本当ならこの男も古竜ではないのか?

 しかし、そもそも古竜がどうこうという以前に、単純にこの男は上級魔法使い。

 アベルが使う魔法のなんと速く美しい事か。

 見よう見真似で何とか魔法を発動させているルビィとは、まったく次元が違う。

 地面を這う《フリージングチェイン》。どう見ても飛んで避けてください、と言わんばかりの魔法。

 迎撃の難易度を上げるために、複雑に蛇行するという念の入りようだ。

 明らかに飛べば狩られる。これはそうした用途の魔法であることは明らか。故にルビィは走った。

 即座に追撃の青白い光球が放たれる。

 ……やっぱり!

 とルビィは思い、予想があっていた事に安堵するが、飛来する光球をなんとかしないと、根本的な解決ではない。

「やっ!」

 だから雑貨の入ったポシェットを、この光球に向かって投げつける事をルビィは選択した。

 着弾炸裂型の魔法は、何かにぶつかればその場で炸裂する。

 こういったシチュエーションは、チンピラ同士のいざこざでも時々あるのだ。

 確かに、アベルの魔法の弾速は桁違いに速いが、だからといってどうにもならない程速いわけでもない。

 実際、ルビィが投げ放ったポシェットは《フリーズブリット》の投射体に衝突した。

「……!?」

 再びルビィは戦慄する。

 ポシェットは確かに《フリーズブリット》の投射体にぶつかったはずだ。

 しかし、ルビィの思惑に反してポシェットは光球を貫通、地面に落ちる。

 ……ただのフェイク!?

 などという考えが、一瞬頭をよぎるがそんなわけは無い。

「……っ!」

 ルビィは飛び込み前転で、なるべく《フリーズブリット》から距離を放そうとする。

 あるいは、跳んでいれば魔法の衝撃波を緩和できるかもしれない、程度の機動。

 だが、アベルの魔法はそのルビィをあざ笑うかのように、爆ぜる。

 ルビィには何が起こったか理解できなかった。ルビィはそもそも近接信管という物の存在を知らない。

 そして《フリーズブリット》は炸裂しても衝撃波などは出さない。

 ……一体、なに!?

 混乱の中、炸裂した《フリーズブリット》の冷気に曝露した皮膚が激痛を伴って、凍り付く。

 貧弱な性能のルビィの保護障壁は、アベルの攻撃に耐えられなかった。

 結果的にルビィは、左腕の大部分と左大腿部に重度の凍傷を負う事になる。

 そんなルビィをあざ笑うかのように、最初の《フリージングチェイン》が追い付いて来る。

 ……完敗。

 地面から足へ這い上がってくる青白い光の糸を横目に見ながら、ルビィはそう思った。

 アベルの魔法は、その辺でお山の大将を決め込んでいる、チンピラとはまさに次元が違う。


◇◆◇◆◇◆◇


 アベルがルビィを圧倒しているその脇で、銃撃戦を繰り広げているのはシルクコットとレクシーである。

「きっついわ」

 シルクコットは積みあげてある、廃パイプの裏で隣にいるレクシーに対して言う。

 アベルがノンリーサルと言う物だから、アサルトライフル用の実弾をほとんど持ってきていないのだ。

 レクシーもサブマシンガンで武装しているが、こちらも何百発と弾があるわけではないだろう。

 都合二人とも、セミオートで一発づつちまちま弾を撃つことになる。

 一方、敵は一段……といっても一メートル程だが……高い場所でドラム缶を盾に正確に銃撃して来る。

「手榴弾でも欲しい所ね」

「残念だけど……ないわ」

 レクシーの言葉にシルクコットは答える。同時にシルクコットのすぐ脇で銃弾が跳ねた。

 大体こうした場合、魔法で代替えするのが一般的なのだが、魔法で攻撃する場合どうしても体を晒す時間が長くなる……少なくとも、銃を撃つよりは長くなる。

 アベルのように高い防御性能を持っているならまだしも、相手に頭を押さえられている状況で顔を出すのはいただけない。

 どうやら敵も、手榴弾の類は持っていないようだ。そして、その武装はただのハンドガンのみ。

 まあ、そんなに重武装でうろつけるほどエッグフロントの警備は甘くないが。

「あっちのドラゴンを倒したら、マイスタ・アベルが援護してくれるでしょ」

 レクシーは言う。

 確かにその通りだ。アベルは、超強力な防御型の魔法使いである。

 他人に向かって飛んで行く弾をブロックするくらいの芸当はやってのける。

 もしくは、直接この人間を氷漬けにすることもたやすいだろう。

「言っている内に……ほら!」

 見れば、アベルと戦っていたドラゴンが氷漬けになっている。

 駆け引きは一瞬だったようだ。

「さすがっ!」

 直後には、無慈悲な氷系の打撃魔法でこの人間は叩き潰されるはずだ。

 少なくともシルクコットは、そう考えていた。


 だが、話はそんなに簡単ではなかった。

「全員動くな!」

 全くノーマークだった背後から、声が上がる。

 やや訛りのある竜語。野太い男の声。

 後方……要するにシルクコット達が来た方だ……から、色黒の男が現れる。

 ……これはこっちのミスだわ。

 シルクコットはそう思う。

 後方の安全を確認せずに、非戦闘員のレプトラをそこに放置してしまった。

 もっとも、放置しなければシルクコットは敵と戦えない。

 レクシーを戦力として計上するのは憚られるので、これを後衛とか言うのも問題がある。

 従って、こうなるのはある意味仕方ない事だとは言えるかも知れないが……

 結果として、レプトラを人質に取られると言う失態。

「レプトラを放しなさい」

 シルクコットはライフルを今しがた現れた色黒の大男に向ける。

 普段は切ってあるレーザー照準器はオンにしてある。レーザー照準器は、照準器としては欠陥だらけで使い物にならないが、自分がどこを狙っているかを味方に知らせるという点で意味がある。

 レクシーは横で、最初に交戦していた方の男に銃を向けている。

「……おっと。おとなしくしてないと、この嬢ちゃんが痛い目を見るぜ?」

「三流の悪役みたいな言い草だな」

 答えたのはアベル。

 既に腰のホルスターから銃を抜いて構えている。

 左手一本でハンドガンを構えるのは、褒められた物ではないのだが、アベルが右手を空けているのは明らかに魔法を運用する為だ。

「お前がレプトラを殺す前に、こっちはお前の仲間を両方氷漬けにできるぜ?

 その後お前も凍死させて、レプトラは魔法で生き返らせる。

 どうだ?」

 さすがに、生き返らす下りははったりだろう、とシルクコットは思う。

 しかし、氷漬け云々は本当だ。

 魔法が使えない者は、魔法による攻撃を防ぐ術はない。

 だが、それ以前の問題として、レプトラの首に付きつけられている銃が問題だ。

 保護障壁で銃弾を弾く、などという芸当をできる魔法使いはごく一部である。

 アベルはできるのだろうが、シルクコットもレクシーもレプトラも保護障壁にそんな防御力はない。

 いや、たとえあったとしても、銃を接射されれば銃弾が保護障壁を貫通しなくても、衝撃によるダメージが十分な殺傷能力を有するだろう。

 数秒の沈黙。

 ここは放棄された場所故、誰かが偶然通りかかる可能性はゼロ。

 残念ながら、アイオブザワールド内でこの捕獲作戦は知られていないので、こちらの見方は現れない。

 一方敵側は、なんらかの手段で味方を呼び集めている可能性がある。

 ……つまり時間稼ぎはこちらに不利。

 シルクコットはアベルの方を見た。

 アベルなら、時間経過が不利な事は分かっているはずだ。

「……お前ら、アメリカ人か?」

 唐突にアベルが口を開く。

 それがどういった意図なのか、シルクコットにはわからなかった。

 そして、男たちがそれに対して有意なリアクションをすることもない。

 もしアベルが言うように、外国の工作員なら相当訓練されているという事になる。

「……ああ。答えなくていい。大体わかったから。

 じゃあ、囚人側の要求を聞こうか。

 人質を取ったんだ、なんかあるんだろ?」

 アベルが色黒の方に向かって言い放つ。ただし、銃は白人の方に向けたままだ。

「我々はエッグフロントを去る。その後この女を解放しよう。どうだ?」

「……交渉ならもっとましな事を言え」

 表情を変えることも無く、アベルが言い放つ。

「……そうか、なら……」

 そう言って、男はレプトラの背中を突き飛ばした。

 直後、その背に向けて銃を撃つ。

「レプトラっ!」

 即座にシルクコットはライフルのトリガーを引く。

 装填されているのは実弾だが、もともと六〇発しか持ち込んでいいなかった実弾だ。

 先ほどまでの交戦で、弾倉はほとんど空だった。

 そのなけなしの残弾を打ち切ると、シルクコットはアサルトライフルを捨てて、腰からハンドガンを抜く。

 レプトラに向かうシルクコットは、走り出した色黒の男とすれ違う。

 一瞬攻撃するか迷ったが、やはりレプトラが優先だ。

 撃たれて、地面に倒れたレプトラの周りに、驚くほど赤い血が広がる。

「……レプトラ! しっかり」

 と声を掛けてみても、レプトラが聞いているかどうかわからない。

 戦場で戦うシルクコットは知っている。ドラゴンと言えど、一気に血液を一リットルも失えば、容易く失血性ショックを起こして死に至る。

 まして、レプトラは非戦闘員だ。そういった限界付近のタフさを求めるのは無理だろう。

「マイスタ・アベル! レプトラが死にます! 助けてください」

「……大丈夫だ」

 声はすぐ後ろからした。

 アベルも駆け寄って来ていたらしい。

「……足か……

 弾は……抜けてるな……よし」

 アベルは、レプトラのスカートをめくりあげて、太ももの付け根の辺りの一点を示す。

「止血点だ、思いっきり押さえろ」

「……はっ、はい」

「レクシー! 医療スタッフを待機させろ」

「はい。よろこんでー」

 アベルがチラリと、男たちの方に目をやった。

 シルクコットもつられて、目をやると、三人は逃亡するようだ。

 ……っ!

 悔しいが、今は仕方ない。

 追撃はレプトラを助けた後にせざるを得ない。


「《リザレクション》デプロイ!」

 《リザレクション》は、シルクコットが知る限りアベルの手持ちでも最大級の回復魔法のはずだ。こんな魔法を出し惜しみ無しで使っているという事は、レプトラは相当危ない状態だったという事か。

 今更ながら、アベルの性能には驚愕を禁じ得ない。


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