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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
朝鮮半島動乱 九三一空進空せよ!

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朝鮮半島動乱 九三一空進空せよ!16


 件の穴から約2キロ北へ移動した。

 偶然かどうかは分からないが、丁度列車が消えたと言われている地点の至近だ。

「そもそも、列車が消えたっていう根拠はなんなんだ?」

「えーと……」

 ラーズの質問に那由他が調査ファイルを見る。

「……満鉄の走行データベースに記録されている最後の場所がこの辺、ってことらしいわ」

「ふーん」

 ラーズは周囲を見回した。

 線路の先……つまり北には、森が見える。地図上は10キロほどに渡って、線路はこの森の中を通っていることになっている。

 南の方は、ラーズ達が通ってきた線路沿いの道路。全体的に西側に向かって高くなっている丘陵地だ。

 特に目立つ物はない。

「……お稲荷さん、なにか感じる?」

「特になにもないのう。

 大体、伏見のような場所がそこかしこにあってはたまらんぞよ?」

「だよな」

 お稲荷さんの意見はもっともだ。伏見みたいな場所が、そこらへんにあったらたまった物ではない。

「ちなみに、さ。ラーズは完全に列車を消したトリックって前提なのよね?」

「ああ」

「それって、魔法でできないの?」

 那由他は、すごい事を思いついた、と言わんばかりの顔でそういった。

「むり」

 だが、そんなことは不可能だ。

 故にラーズはノータイムで否定。

「なんでよ! もっとじっくり考えてもいいんじゃないの!?」

 あまりにあっさり否定されたので、那由他が起こる。

「あのなあ……魔法にもエネルギーポテンシャルってもんがあるんだぜ?」

「エネル……ギー?」

「エネルギーポテンシャル。

 ここで言うエネルギーってのは、熱力学で言うところの仕事量の話だ」

「ねっ、熱力学の……し仕事量。ね。オーケイ。わかるわよ」

 上ずった声で、那由他が言葉を繰り返す。

 これは分かってねえな。とラーズは思ったが、まあ全部聞かせてもいいだろう。

 しつこく言っていれば、鳥だってフライドチキンの歌を歌うようになるのだ。

「でだ、魔法使いが単位体積あたりのバックグラウンドプールから取り出せる魔力量は、決まってる。

 この量は、バックグラウンドに存在する魔力密度に依存するから、努力とかでどうにかなるもんじゃない。オーケイ?」

「も、もちろんよ。わかりやすいわ」

「小娘、よくそれで大学を卒業できたのう?」

 お稲荷さんがお茶をすすりながら言う。

「ウチは文系なの。放っておいて」

「……つまり、これは人間サイズの魔法使いが使える魔法の出力はおのずと限界がある、って事を示している。

 まあ簡単に言うと、水の入った鍋をマッチで炙ってもお湯は沸かない、ってのと同じだな」

「最後のはすごくわかりやすかったわ……でも、マッチでも延々と燃やし続けたら、お湯は沸かない?」

「水は逃げないからな。

 でも列車をレールからはずしてちょっとずつ押していくなんて不可能だ」

 そもそも、魔法でレールから外せるのか、という問題もある。

「大体、地球に魔法使いいないだろ」

 それが全てである。

 ここではラーズだけがオンリーワンの魔法使いなのだ。


「しっかし、特におかしなところもねえぞ」

「そうねえ……」

 那由他は一応、線路の写真をぱしゃぱしゃ取りまくっている。

 それに意味があるのかは不明だが。

「やっぱり狂言なんじゃないのか? 満鉄の宣伝とか?」

 少なくともラーズはそう思っているし、それが一番自然だ。

「……また列車が来たな……今度は南からだ」

「良く聞こえるわね……どんな耳しんてんのよ?」

 線路から退避しながら、那由他が言う。

「こんな耳ーっ」

 小学生みたいな事を言いながら、ラーズも線路を離れる。

 列車が通っては調査どころではないので……来なくても何もわからないのだが……ラーズは車の所まで引き上げてきた。

 クーラーボックスから、ペットボトルのお茶を取り出して煽る。

「ぐああ……頭痛てえ」

 そんなことをしていると、南から列車がやってくる。

 今度は貨物列車のようだ。

「……!?」

 ラーズに違和感。

「のう。ラーズよ」

 お稲荷さんも、同じ違和感を感じたのか、こちらに顔を向ける。

「なに? なんなの?」

 そして、那由他はそれがわからなかったらしい。

「今、列車の走行音に違和感があった。音の高さが一か所だけ違う」

「レールに段差でもあるのかのう? 人間には聞こえんような音の差じゃ」

「さすがお稲荷さん。伊達にケモミミ生やしてねえな」

「当然じゃ」

 お稲荷さんが胸を張る。

 もっとも、ケモミミが関係あるのか那由他が鈍いだけなのかはラーズにはわからなかったが。

 とにかくエルフの聴力は人間のそれとは、まったくの別次元である。

 聖域に置いては、エルフの聞いて居る音がフルカラーなら、人間の聞いている音はほとんど灰色の無い白黒、とか言われるほどである。

 貨物列車が通り過ぎた後、ラーズはさっそく異音のした場所に向かう。

「……さっきは気が付かなかったが……このレール一回ここで切断されてるな」

 ラーズはレールのある個所を指さして見せる。

 おそらく、内部に空洞があるのだろう。列車の車輪がここを通るときの音が違う。

 レールの上面は、まったくわからないが、側面を見ればなるほど、溶接されているのが見て取れる。

「でも、これって単なる線路の接合後じゃないの? 満鉄の作業員さんの?」

 那由他が疑問を口にする。

 それは当然の疑問であるとも言える。この国で使われているロングレールが、いかにして作られているのかは分からないが、運搬の利便性を考えると長さには限界があるだろう。

 つまり、線路の敷設過程で溶接してつなげるわけである。もちろん、線路のメンテナンスで新しい物に交換する事もあるかもしれない。

「確かに、そうだな」

 ラーズもそれは認める。

「でも、列車が消えた、って言ってる所でレールが切れてるんだぜ? これを偶然の工事の産物だ、なんて言うのはちょっとイケてないぜ?」

 ラーズはレールの脇にしゃがみこんで、溶接された部分を確認する。

 どうもこのレールは、かなりの鋭角で南南西から北北東に向かって切られている。

「つまり……レールを右に曲げたい、ってか」

 北の方を見ながら、ラーズはレールが続いていたであろう方向を注意深く観察する。

 ……確かにこれは……

 先ほどまでは、なんとも思わなかった丘陵地だが、ここに線路があったという前提で見ると、その見え方が変わってくる。

「線路は……北の森のほうへ伸びてた……のか」

 しかし、だから何だと言うのか? とラーズは疑問に思わざるを得ない。

 森の中に列車を入れて、果たして神隠しなど演出できる物だろうか?

「準備して、行ってみるか」


 ラーズの言う準備というのは、車から『小狐丸』を取り出すだけだ。

 一瞬、《フレアフェザー》で空を飛んで行こうか、と思ったラーズだが、それは自重。

 もし森の中に伏兵が居たら大変である。

 おそらく居ないだろうが。

「……ついてくんの?」

 後ろを歩く那由他にラーズは心底嫌そうに聞く。

「あったりまえでしょ! 私あなたのお目付けなのよ! お目付け! わかる?」

「お目なんか付けられてねえじゃねえか!」

 ラーズは言い返した。

 大体空の飛べない那由他が、ラーズの進出能力に追いつくことは絶対不可能であるからして、お目付けなどできるわけがない。

「しっかし、朝鮮解放同盟とかいう奴ら、どんだけ暇なんだよ。

 一回満州解放してやったらいいんじゃねえか? もちろん帝国のバックアップは完全になしで」

「……一晩で半島が共産主義になるわね」

「……なんだ?」

 ラーズは、目端に付いた銀色の光を見逃さない。

「なに? 地雷?」

「んなわけねーだろ……」

 地面に半分埋まった、それをラーズは那由他に示して見せる。

「ネジ?」

「ナットだ!」

 そう、地面に埋まっていたのはナットである。

「M12くらいか……へんなナットだな」

 変、というのはほかでもない、このサイズのボルトナットをラーズが見たことが無かったからだ。

 ラーズは、そのナットの脇に胸ポケットから取り出した金指を置いて、写真をパシャリ。

 その後、ナットを地面から取り上げる。

「M12……でも無さそうだな、M13?

 いやM13なんて規格があるのかどうかすら知らんけど」

 手に取ったナットをラーズは観察する。

 このナットは、サイズだけでなくピッチもおかしいようだ。

「……ピッチは1.5mmはないよな……どう見ても」

 あるいはこのナットは、何かの機械用に作られた専用品なのかもしれない。

 そう思ったラーズは、今度はナットのネジ山の写真を何枚か取る。

 データは即座に霞が関に送られているはずなので、内調のスタッフがこのナットの素性を調べてくれるだろう。


◇◆◇◆◇◆◇


「神崎次官。先ほど届いた写真ですが……」

「神楽君か。こちらでも見ている」

 内調の神崎の執務室。

 実際、神崎のデスクの上のホロデッキに、ラーズが送ってきたナットのホログラムが投影されている。

「神楽君は、このナットが何かわかるかね?」

 神楽と呼ばれた、いかにもエリート然としたスーツ姿の分析官が答える。

「はい。このナットはインチ規格です」

「さすがだ。神楽君。

 それに比べて柳葉は……」

 神崎は、これを一目見てインチ規格の品だと那由他が気づかなかった事にご立腹だ。

「悪いが、柳葉に連絡を。

 すぐにラーズ君を連れて帰国するように伝えてくれ」

「はい。そのように伝えます」


 神楽が部屋を出て行った。

 神崎は件のナットのホログラムに目をやる。

 インチ規格というのは、言うまでも無く世界共通の工業規格ではない。基本的に地球人類はこの規格の工業製品を使う事はない。

 しかし、一国だけ例外の国家がある。

 アメリカ合衆国。

 孤立主義を唱えるこの国家は、メートル法が世界標準になった後もインチを使い続けたのだ。

 無論、神崎とてこのナットだけでアメリカの関与だと決めつけるほど、世間知らずではない。

 確かにインチ規格のナットなどなかなか入手できるものではないが、まったく手に入らない訳でもないのだ。

 第三国が、朝鮮半島の動乱をアメリカの仕業に見せたがっているだけかもしれない。

 だからと言って、ラーズをそんな所に置いておくなど論外であるとも言える。

 アメリカの関与をラーズが認識した際、どういったリアクションを取るか予想もつかないのだから。

 故に神崎は、独断でラーズを内地に戻す判断をした。


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