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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
遠野マヨヒガ語り

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遠野マヨヒガ語り14

 とにかく、意味がわからない。

「警告。謎の銀色の一部が接近!」

 謎の銀色という恐ろしくアバウトな表現だが、確かに謎の銀色の一部が分裂してこちらに飛んでくる。

 どう見ても友好的には見えない。

 ノータイムで、ラーズはスロットルを防火壁いっぱいまで押し込んで加速。

「『エンタープライズ』より航空隊各々。該当空域を速やかに離脱。大気圏外まで達した後、追って命令あるまで待機」

 『エンタープライズ』側も最速で命令を出しているのだろうが、遅い。というか、展開が急すぎる。

「思ったよりわけわからん物が出てきたな……想定と違いすぎるぜ」

 追ってくる銀色をホロデッキで確認しながら、ラーズは愚痴る。

「後学の為に、ご主人様はどんな状況を想定していたのか、教えて頂けますか?」

「そりゃおめぇ、遠野郷なんだから河童とか天狗が出てきて、最後はデイダラボッチは聞いてねえ! とか叫びながら逃げる。って感じだ」

「現実は……だいぶ違う感じでしたね」

「謎の銀色、遠野郷となんにも関係ねえじゃねえか! てか、しつこいな!」

 対気速度計は四〇〇〇ノット辺りを指しているし、なんならまだ加速中である。

 それでも銀色は順調に付いてきている。

 直径数センチの銀色に、超音速領域から加速できる推進力があるとは思えないので、これはこれで怪異である。

「ホタル1から各々! ホタル3が被弾した!」

 悲痛な無線にラーズが振り返ると、煙を吹きながら落ちていく『疾風』と落下傘が見えた。

 搭乗員は無事っぽいが、助けに戻る余裕はない。大体、今ここにいる友軍機は全部単座なので、拾いようもないのだが。

「追いつかれたら被撃墜かよ! クソが」

 初動で限界以上の加速を持って離れたスズメ1はともかく、他は低速で旋回していたところにいきなり銀色が現れたわけで、対応が遅れている。

「アメンボ1被弾した! 脱出する!」

 こちらは小隊長機が被弾したようだ。

「野郎、調子に乗りやがって!

 鈴女! 対空噴進弾、真後ろに撃てるな?」

「ヨーソロ……ですが、初速がマイナスになるので遅いですよ? ご主人様。

 大体、どうする気ですか?」

「こーするんだよ」

 ラーズは普段は弄らないスロットル奥の防火壁に並んだスイッチ類に手を伸ばす。

 いくつかのスイッチを切り替え、今度はスロットルレバーに付いたダイヤルをカチカチと回して、兵装選択メニュー掘り進める。

「……なるほど。そういう感じですか。理解しました」

 ラーズが選んだメニューは兵装投棄画面である。

 そして、スズメ1はいい感じに中身の残った増槽をぶら下げている。

 つまりそういう感じだ。

「ヨーソロ……ヨーソロ……」

 増槽が飛ぶ先に対応した火器管制など無いので、ラーズはフィーリングだけで銀色を狙う。

「ヨーイ……テッ!」

 別に増槽を捨てるのに声出しは要らないのだが、そこは雰囲気重視である。

 『烈風』の翼付け根下面にぶら下がっていた増槽は、機体から離れた後も優れた空力特性により機体と並走していたが、推進力を持たないが故少しづつ遅れだし、機体から一定距離離れた所で乱流によって弾き飛ばされる。

 一度、空力特性が乱れてしまえば、あとは空気抵抗によって遥か後方へすっ飛んでいく。その相対速度は実にマイナス二五〇〇ノットである。

「続いて、イの四六……テッ」

「ヨーソロ」

 普通に操舵スティックのトリガーを引くと噴進弾は前に飛んでいってしまうので、撃つのは鈴女である。

 爆弾槽からポロッと落ちた噴進弾は、制動用バーニアで一八〇度反転。その後、ロケットモータに点火して、後方へ飛んでいく。

 約四秒後。爆発。

「やったか!?」

「倒せてないフラグを立てるのはお止めください。ご主人様」

 鈴女が以心伝心の心地良いツッコミを入れてくる。

「銀色、散開しています」

「質量が半分くらいに減ってたりは?」

「しません」

 ラーズの願望を含んだ質問を切り捨てて、鈴女の報告は続く。

「散開した銀色が再集結を開始、最初に分かれた分も順次合流中」

「また合体するのか……T1000みたいだな」

「T1000というより、もうこの銀色がデイダラボッチという事でいいのではないすか? ご主人様」

「よくはねえよ。デイダラボッチをなんだと思ってんだ」

 大体、仮にこの銀色をデイダラボッチであるとしたところで、何も解決しない。

「うわこっち来た」

 ラダーペダルを蹴り飛ばし、乱暴に操舵スティックを左に倒してラーズは機体の高度を一気に落とす。

 眼下は樹木が生い茂る山や谷。

 四〇〇〇ノット前後でかっ飛んでいるというのに、未だに山深い東北地方の様相だ。

 銀色を振り切るべく、ラーズはその山間にスズメ1を滑り込ませる。

「警告。高度が低すぎます」

「今更何言ってんだ。黙ってろ」

「ヨーソロ。しかしながら、銀色が迫ってます」

 アメーバのようになって追ってくる銀色から、触手のようにその一部が伸びてくる。

 まさに捕食しようという風情だ。

 触手の間合いを見計らって、ラーズは操舵スティックを引く。

「きゃあ!」

 突如鈴女がかわいらしい悲鳴を上げる。

「なんだ!?」

「わたしの尾羽根に触手が触りました。気持ち悪い!」

 鈴女の言っている尾羽根というのは、推進器の前に生えている小さな整流翼の事だろうか。もしそうなら、触手の攻撃を紙一重でかわした事になる。

 いや、触られているが。

「それより、全然振り切れねーぞ。クソったれ、セカンダリータービン止まってんじゃねーのか」

「単に気圧が標準気圧より四割程高いのと、湿気で重くなって空気抵抗を増大させているのが原因です。

 あと、ここは群馬ではありませんし、後ろのはハチロクでもありません」

 マジレスしつつもネタはちゃんとわかっているアピールをする鈴女。

 流石は大日本帝国海軍が誇る最新鋭の人工知能である。素晴らしい受け答えだ。

 しかし、状況は素晴らしくない。

 空気抵抗が大きいからスピードが出ないというなら、高度を上げて気圧の低い領域へ出るしかない。

 ラーズはホロデッキの戦術マップを見て、墜落した友軍機の場所を確認する。

 既に結構離れているので、銀色を引き剥がす事には成功したと言える。

 問題は、ここにいる機体の中で垂直離着陸に対応しているのはラーズの『烈風』のみ。

 もっとも、『烈風』は単座だし特号装置の関係で他人を乗せることはできないのだが。

 それでも落下傘の着地時に怪我をしていれば応急手当くらいはできるし、多少の水と食料もある。居ないよりずっといいだろう。

「ホタル1よりスズメ1。すまないが、そのまま敵を引き連れて、大気圏外まで逃げてくれ」

 ここで、ホタル1からの要請。

 明らかにラーズに配慮した要請だが、粘ることに限界が見えてきたラーズにとってはありがたい話だ。

「スズメ1。ヨーソロ。

 スズメ1は大気圏を離脱する」

 既に機体は機首上げの姿勢のまま、ぐんぐんと高度を上げていく。

 雲を抜け、青空。そして、空の色は青から群青を経由して黒へ変わっていく。

「第一宇宙速度」

 鈴女が、機体が重力を振り切れる速度に達した事を報告する。

「銀色は付いてこれっか?」

 わずか直径数センチの銀色が、第一宇宙速度を超えて加速できるとは思えないのだが、ラーズは一応後方を確認する。

「……だよな」

 そこには、当然のようにこちらを追ってきている銀色の姿。

「甘えは許されないかー。

 まあ、これも陽動って事でなんとか」

「銀色に変化があります……群体を形成しているようですが……やっぱりデイダラボッチなのでは?」

 なぜか鈴女はデイダラボッチを推しているようだが、デイダラボッチは入道雲の妖怪とも言える事を考えると、なるほど銀色はデイダラボッチなのかも知れない。

「ここで群体がデイダラボッチのなっても困るが……」

 幸いな事に、銀色はデイダラボッチになることは無かった。

 なんとなく翼を開いた鳥のようなシルエットに、その姿は収束していく。

「クリンゴンのバードオブプレイになったな。どうすんだコレ」

 これは困る。非常に困る。

 ラーズとしても、できればこんな事は言いたくないのだ。

 極めて不本意ながらも、ラーズは無線のスイッチを入れた。


◇◆◇◆◇◆◇


「カーク船長! クリンゴンの船が『エンタープライズ』号に向かっています!

 ……だそうです」

 通信士官の読み上げる通信電文に、加来はこめかみを抑えた。

 わかってはいたのだ。絶対これを言ってくる輩がいることは。

 とはいえ、正体不明の艦船が『エンタープライズ』に接近中である以上、艦長として対応せねばならない。

「不明艦、符丁スズメ1を追い抜きます。

 不明艦は本艦の推定未来位置に向かって直進中」

 まさか握手をするためにこちらに近づいて来るという事もないだろうから、これは敵対する意思があると加来は判断。

「バードオブプレイに停船を呼びかけろ」

 もうバードオブプレイと言ってしまっているが、不明艦などと言っているより目標が明確なので良いだろう。

「『初霜』に合戦準備を下命」

 『エンタープライズ』としても艦載機を上げたいところだが、今から対艦装備の『彗星』や『流星』を用意しても間に合わないだろう。

 かと言って、対艦装備のない『疾風』を上げた所で役に立たない。

 加来は覚悟を決めて、バードオブプレイとの戦いに臨む事にした。

「ヌ式の足の速さを見せてやる」

 加来は自信たっぷりに言ってのけたが、肝心の接近中の艦船の詳細がわからない。

 バードオブプレイはどうみてもバードオブプレイなので、絶対に大日本帝国海軍の艦ではないのだが、ならなんなのかと言われると、加来としても困るのだ。

「『初霜』より入電。我、接近中艦船の進路を閉塞するべく、前進する。

 ……以上です」

 『初霜』が加来の思考を読んだように、前進。

 どうであれ、データを分析する時間を稼いでくれるのはありがたい。

 偵察に出た部隊が送ってきたデータを手元のコンソールに出した加来は、バードオブプレイの詳細を考える。

 まず、謎の銀色はこちらの航空機を落としているので、確実に敵と考えて良さそうだ。

 日の丸を付けた航空機への攻撃は、明確な敵対行為といえる。

 落とされた航空機の搭乗員の回収も考えないと行けないが、それはいったん置いておく。

 そして、スズメ1が送ってきた映像では、銀色のモヤが大気圏を突破して宇宙空間に出てくる様子が映っている。

 これは、バードオブプレイが恐るべき出力を持っている可能性を示唆している。

「『初霜』へ通信。接近中の艦船を敵と認める。

 敵は高い機動性を持っている可能性があるため、注意して当たれ」

 とりあえず、注意を『初霜』を送る。

 これで、敵が想定外の動きをした場合でも、混乱が少ないはずだ。



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