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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
遠野マヨヒガ語り

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遠野マヨヒガ語り5

 謎の電波に誘われて、ラーズは更に十五分ばかり飛ぶ。

 周囲にはたくさんのデブリ。

 通常、海軍基地として使われる海域のデブリはキレイに掃除されるので、この辺りに海軍基地はなさそうだ。

 そうなると、何もない所に里ができていたという事になり、これまた妙な話だという事になる。

 遠野郷はあくまでも海軍の施設なので、そこに住む民間人も何らかの形で軍に関わっているはずなのだ。

「ご主人様。一時方向の岩の影から電波が出ています」

 鈴女の示す方向には、直径五キロ程の岩塊が浮かんでいる。

 これくらいの大きさなら、船一隻くらいは余裕で隠れられる。

「ちなみに兵装はありませんので、何か良くないことが起きた場合は全力で逃げてください。

 燃料も元気に飛び回れる程、残っていませんが」

「しゃあねえ。なるようにしかならないっての。

 それじゃあ、ヘビが出るかジャガ出るか……

 ……ところでジャガイモのジャガってなんなんだろうな?」

「わたしのデータベースには……ないですね。わかりません」

 流石の鈴女もそんな事は知らないらしい。

 戦闘機に雑学を求めるのも、酷というものか。

 ラーズは操舵スティックを操って、岩塊を回り込んでいく。


「? 空母だ」

 予想に反して、岩陰に潜んでいたのは中型の空母だった。

「鈴女! 友軍識別!」

「ヨーソロ……大日本帝国海軍所属艦です。

 所属艦隊は……第ゼロ艦隊、となっていますが……」

 第ゼロ艦隊とはなんだかカッコいいとラーズは思ったが、意味不明である。

 大体、この空母の艦型もラーズは知らない。

 当たり前の話だが、海軍航空隊飛行機乗りは敵味方の艦の形状を全て暗記させられる。

 敵艦ならいざ知らず、味方の艦……それも空母のような大型艦の形状を知らないなど普通に考えてありえない。

「敵の欺瞞工作か!」

 ラーズはスロットルを握る手に力を込めた。

「兵装がないので、突撃する意味がないですよ」

 そんなラーズを鈴女が止める。

「艦影の照合を実施しました。

 『燕』級に類似していますが、『燕』級とは異なります」

 『燕』級とは、大日本帝国海軍が導入を決めた軽空母である。

 一番艦の『翔燕』が就航してテスト中という話だが、こんな所に一隻だけ居る意味が分からない。

 大体、目の前の艦は『翔燕』ではないのだ。

「友軍識別にコイツの艦名のってないのか?」

「のっていますが、半角スペース一文字です」

 艦名を名乗れない、所属艦隊もよくわからない。ラーズの知らない空母。

 怪しいにも程がある。

 大体、ラーズはこの艦に根拠のない不快感怯えるの。

「ご主人様。名無しの空母から通信です」

 電探に映らない『烈風』に通信をよこしたということは、目視でスズメ1を見つけたということだろう。中々目のいい見張員が居るようだ。

「さて、どうするか?」

 はっきり言って、目の前の空母はめちゃくちゃ怪しい。

「なあ鈴女……」

「なんでしょう?」

「あの『燕』もどき……なんか艦首の形状、『ヨークタウン』に似てねえか?」

 不快感の正体に思い当たり、鈴女に意見を求めてみる。

「言われて見れば……艦首から左舷側の前半分程度の形状は『ヨークタウン』級と九〇パーセント以上合致します」

 ホロデッキに名無しの空母と『ヨークタウン』級が並び、二隻が重ね合わされる。

 艦首の形状は確かに酷似しているが、右舷側の艦橋付近及び艦尾形状は『ヨークタウン』級とはかなり異なる印象だ。というより、このあたりの形状が『燕』級なのだ。

「つまりコイツは、左前が『ヨークタウン』で右後ろが『燕』級のキメラって事か? んなアホな」

「世の中には『ズビアン』という船がありまして」

「紅茶ガンギマリの駆逐艦を前例みたいに言うのはやめるんだ。

 大体インチとメートルが混在してる船とか嫌すぎる」

 だが、その空母をよくよく見ると、確かに『ヨークタウン』級の面影があるのも事実。

「そう言えば、『ヨークタウン』級の三隻って全部聖域で沈んだはずだろ。

 ネームシップの『ヨークタウン』に至ってはレクシー・ドーンが景気づけに打ち込んだ戦略核で消し炭になったんだぜ」

「ご主人様。名無しの空母から再び通信です。艦長の加来大佐と名乗っていますが……」

「カク? 加来大佐っていうと、山口艦隊の?」

 加来大佐と言えば、一航艦の貝塚大佐と並ぶ空母使いとして名を馳せている艦長だ。

 その加来大佐がなぜこんな所で、謎のキメラ空母に乗っているのか。

 ラーズにはサッパリ意味が分からなかった。

「やっぱ、怪しくても話を聞かないと駄目だな……鈴女、繋いでくれ」

「ヨーソロ……つながりました。どうぞ」

「こちらは第一航空艦隊所属、符丁スズメ1」

「こちらは遠野郷派遣艦隊所属、空母『エンタープライズ』艦長、加来止男大佐である」

「エンター……プライズ?」

 『エンタープライズ』と言えば、誰でも知っているアメリカ軍の超絶メジャー空母である。

 ちなみに初出は巡洋艦HMS『エンタープライズ』で、その名の通り英海軍艦だ。

「スズメ1、本艦に着艦したまえ。

 話がある」

「どうする?」

 マイクをミュートして、ラーズは鈴女に聞く。

「やっぱり怪しいですが、何かの欺瞞に加来大佐の名前を出す理由がわかりません。

 あと、加来大佐は第二航空艦隊から転出している事が人事データベースに入っていました」

「転出って……行き先は?」

「択捉島の戦術研究機関となっていますが、そんな機関は聞いたことありません」

 ここで鈴女の言う、聞いたことない。は他にその戦術研究機関とやらに転出した将兵が居ないという事だろうとラーズは判断した。

「やっぱ怪しいな……でも他に降りる所もないんだよなぁ」

 スズメ1の残燃料は一割弱。ケチってはいるが徐々に減っていくのは止められないし、直近ではないが数時間後には燃料が切れてどこかに落ちるのは確実である。

「仕方ねえ。行くぞ!」

 ラーズはマイクのミュートを解除した。

「スズメ1は『エンタープライズ』に着艦する」

 ラーズは『エンタープライズ』の右舷側を反航方向に通過、五〇キロ程飛び越えてタイトにターン。

 『エンタープライズ』の真後ろに付ける。

「データにない艦なので、お手伝いはできませんが……」

「まかせとけ!」

 『エンタープライズ』の飛行甲板は全長四八〇メートル程。『翔鶴』より随分短いが、別に狭いとは感じない。

 それより、アングルデッキを持たない『エンタープライズ』は随分幅が狭く感じる。

 この辺りは、やはり旧世代の空母である。

「相対速度一〇〇〇……八〇〇……六〇〇」

 ぐんぐんと『エンタープライズ』の飛行甲板が迫ってくる。

 練習空母の『母鴨』などに比べれば、『エンタープライズ』の飛行甲板も有情な広さがある。

「三〇〇……一〇〇……ヨーソロ、ヨーソロ」

 『エンタープライズ』の艦尾を通り過ぎ、甲板の人工重力が機体を捉える。

「重力発生装置はいいの使ってるな」

 この辺は、『燕』級の装備なのかも知れない。

 どうであれ、これなら着艦の衝撃で弾かれる事はないだろうとラーズは判断した。

 右に艦橋を見た所で、スロットルをオフ。

 人工重力に引かれたスズメ1は飛行甲板にドン! と落ちる。

 機体はそのまま惰性で転がり、三〇メートル程進んだ所で停止した。

 ちょうど機体を待機甲板に引き込むエレベータの前である。

 ドンと降りてピシャリと止まる。これが本当のドンピシャリだ。

「エレベータが左舷にあるのは違和感だな」

「そうですね」

 『エンタープライズ』はアメリカ空母だからして、構造が日本空母とは随分違う。

 その最たる例が、エレベータのレイアウトだろう。日本空母は艦橋前部から引き込むのに対して、アメリカ空母は左舷側から引き込む構造になっている。

「誘導装置の搬送トルクは『翔鶴』型と変わらないようです」

 鈴女が言っている間に、機体はエレベータまで移動する。

「主翼、格納します」

「主翼格納、ヨーソロ。

 ……それはそうと、エレベータが狭いけど大丈夫か?」

「『烈風』の運用を想定していないのでしょうね……大丈夫、左右に七センチづつくらいは余裕があります」

 ラーズは、七センチはあまり余裕があるとは言えないような気がしたのだが、鈴女がいけるというのならいけるのだろう。


 ゆっくりと時間をかけて待機甲板を抜け、スズメ1は格納甲板まで降ろされた。

「取りあえず、日本人……だよな?」

 格納庫で働いている整備兵を見ながら、ラーズは言った。

「多分……日系何世とかならわかりませんが」

「まあ日系人の整備兵だけが乗ったアメリカ空母はないだろう」

 やがてスズメ1は駐機スペースの一番奥にある、空き地に運ばれて降ろされる。

 この空き地は補用機の組み立て用スペースだろうか?

「気圧調整は終わっているので、キャノピーを開放しても大丈夫ですよ。ご主人様」

「ヨーソロ」

 ラーズはキャノピーを開ける。

 しばらく待っていると、白い詰襟の将校が姿を見せた。階級章は大佐。

 つまり艦長だ。

「高い所から失礼します。加来大佐」

 スズメ1の操縦席に立って、ラーズは敬礼する。

「ようこそ『エンタープライズ』へ。少尉」

 答礼を返しつつ、加来は言った。

 細身で精悍ば顔立ち。まさに海軍の船乗りといった風貌の軍人だ。

「乗艦許可願います。大佐」

 取りあえず、乗艦許可をもらわないとスズメ1から降りることもできないので、まずはここからだ。

「許可する。あらためてようこそ。

 丁度我々も迷子になって困っていた所だ」

「は?」


◇◆◇◆◇◆◇


 加来艦長に連れられてラーズが去り、鈴女は格納庫に取り残された。

 艦内ネットワークには接続できないので、暇になった鈴女はストレージの整理でもしようかと、スズメ1のシートに腰を下ろしファイルシステムのコンソールを開く。

 マウスを操作して、ダブっているファイルやもう使わないであろうファイルは削除し、文書データは圧縮する。

「銀英伝のOVAは重要データなので残す、ゴッドシグマは文化的資料価値が高いから残す。ゴライオンはまだ見てないから残す。ダイラガーXVはどうしようかしら」

 全然進まない断捨離に、鈴女は腕組みした。

 人間とはなんと不合理な生き物なのだろうか。

「ゴッドシグマのロボとか絶対体積変わってるのよねえ……ん?」

 仕方ないのでエロゲフォルダでも整理するか、と鈴女が思った所で外部カメラに動体反応があった。

 見れば、数人の整備兵がこちらにやってくる。

「おー、A8Mだ。初めて見た」

 A8Mこと『烈風』は小沢艦隊でのみ運用されている艦載機なので、当然他の艦隊の整備兵は見ることができない。

「本当に、女の子が乗ってる!」


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