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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
東野郷に日はおちて

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遠野郷に日はおちて12

 この索敵機によって目撃された謎の戦艦。スプルーアンスは幻覚ではないかと考えている。

 もし新型戦艦が建造されているのなら、アメリカの情報網に引っかからないわけがないと思えるからだ。

 しかし、それと同時にここは東野郷。大日本帝国海軍最大の泊地である。秘匿された戦艦の一つや二つ隠れていても不思議ではない。

 あくまで可能性の話としてだが、スプルーアンスも謎の戦艦の存在を無視はできなかった。

 得てして、こういった情報の精査不足が回り回って敗北へつながるのが戦争というものだ。


◇◆◇◆◇◆◇


 最初に索敵に出した『流星』達は何も発見できず、艦隊に帰投した。

「索敵機は全て健在。今見えている敵空母艦隊の方へ行った機体以外は、有用な目標との接触はなしです」

 草加はホロタブレット片手に、小沢への報告を行っている。

「当面は今見えている敵に集中できそうだな」

「ヨーソロ。

 つきましては、帰投した『流星』をどうするかですが……

 索敵装備のまま補給を行い、搭乗員を交代させて再び飛ばすか、温存するか……」

 それを聞いて小沢は少々思案を巡らせる。

「索敵をしたいのはやまやまだが、攻撃機が足りぬ。

 残念だが索敵は終了とし、『流星』は対艦装備に換装後待機だ」

「ヨーソロ」

 この回答はある程度草加の予想通りのものだった。

 『翔鶴』型は『烈風』の運用プラットフォームとしての性格が強い空母なので、『烈風』以外の搭載数が極端に少ない。

 さらに、艦の容量を『烈風』のメンテナンス設備に割いている都合上、そもそもの搭載数が制限されている。

 これがほぼ同サイズの『エセックス』級に比べ、『翔鶴』型の搭載数が劣る原因でもある。

「長官! 草加参謀長! まもなく第二次攻撃隊が敵艦隊に接触します!」

「巡洋艦『剣』より入電。我、敵機多数を捕捉。対空戦闘を開始する」

「艦隊直掩機、輪形陣外輪にて集結を開始します!」

 にわかにCICが慌ただしくなる。

「草加参謀長。第三次攻撃隊は必要だと思うか?」

「必要でしょう。我が方は手練揃いですが、敵も中々の物です」

「よし、第一次攻撃隊の帰還機で第三次攻撃隊を編成する。編成は任せるぞ」

「ヨーソロ。第一次攻撃隊から第三次攻撃隊の抽出を行います……しかしながら、小官といたしましては、直掩機の消耗も気になります」

 直掩機で最初から上がっているグループの飛行時間は、そろそろ六時間に達しようとしている。

 『烈風』乗りは基本的に皆タフだが、限度という物がある。

 それに燃料弾薬の残量も考慮しないといけない。

「ここを凌いだら、飛行時間の長い機体から一度補給に降ろすか……だが、航空兵の休憩は補給中のみだ。

 疲れているのは分かるが、ここで未稼働の『烈風』を増やす事はできない」

「ヨーソロ」

「所で、『神威の瞳』による消耗はどうなのだ、宮部とラーズ君だが……」

 これも草加としては頭の痛い問題である。

「両者に対して聞き込みを実施しましたが、疲れているようです」

 基本的に兵士は疲れました。などとは言わないので、そのあたりの加減は草加の方で読み取らないといけない。

 それも将官の仕事と言えばそれまでなのだが、如何せん特報装置関連は草加にとっても未知の領域。

 適切に兵の消耗具合を把握するのは難しい。

 特に『神威の瞳』を使っているのは、戦隊トップクラスのスタミナのある宮部とラーズなので、その消耗度合いの把握は困難を極める。

「『神威の瞳』は有用だ。ここ一番で使えないというのが一番困る」

 草加も小沢と同意見である。

「ではラーズ君だけでも休ませますか? ラーズ君は拒否すると思いますが」

 ラーズの性格を考えれば、これは当然の反応だ。

「できればそうしたいが……」

 小沢がそう言いかけた時、通信士官が大声で叫ぶ。

「『御巣鷹』より入電! 我、敵機多数を捕捉。対空戦闘を開始する。

 以上です」

「どうやら選択肢はないらしい。草加参謀長、直掩機を向かわせてくれ」

「ヨーソロ」


「少々敵が多いな。『ベニントン』をやったはずにも関わらず、この数か……」

 飛来した一〇〇を超える敵機に、小沢が呟く。

 アメリカ空母はかなり丈夫なので、坂井の報告ほどダメージは受けていないのかも知れない。

「こちらも一四四機の攻撃隊を送っています。

 アメさんも同じ事を思ってますよ」

 草加が軽口を叩いている間にも、『瑞鶴』を狙っていた敵機が直掩の『烈風』に食われる。

 艦隊の防御は問題なさそうだが、一方で攻撃隊の方は戦果が芳しくない。

 敵機の撃墜報告はいくつか入っているが、敵空母への攻撃成功の報は未だなし。

 被害だけが増え続ける。

 第一次攻撃隊と第二次攻撃隊の戦果の差が、サムライ坂井と草壁大尉の実力差なのか、あるいは『神威の瞳』の有無に起因するものなのかは別途研究する必要があると草加は思った。

「小沢長官、第三次攻撃隊の用意が必要かと思いますが……」

「第一次攻撃隊の帰還機の中から、行けそうな機体と兵を見繕ってくれ。

 疲れているのは分かるが、ここが勝負どころだ」

「ヨーソロ」

 草加は第一次攻撃隊の帰還機から、第三次攻撃隊に参加させる機を選ぶ。

 結果的に、『烈風』四八、『流星』三三の計八一機によって第三次攻撃隊が編成された。

 隊長は第一次攻撃隊から引き続き坂井である。

 ここからの大きな懸念事項は二つ。『神威の瞳』を使用している宮部の消耗。そして、直掩機をどのタイミングで補給に降ろすか。である。

 特に、最初から直掩に上がっているグループは、そろそろ燃料が苦しくなってきている。

「よし、直掩機をアングルドデッキに降ろしつつ、メインデッキから攻撃隊を発艦させる」

 この同時運用、多分にリスクがあるので普段は行わないのだが、『翔鶴』型自体は対応しているし、訓練もやっている。

「ここはリスクを取ってでも、勝ちに行く」

 このタイミングで直掩機の一部が敵と接触、空中戦を開始する。

 位置としては、『秋月』型が形成する輪形陣の少し外側。

 これなら直掩機の攻撃を逃れた敵機も、輪形陣を超える前に撃墜できるだろう。

「そんな簡単な話でもないが……」

 草加はそう呟いて、戦術ディスプレイに視線を移す。

 空戦を観戦するのも悪くないが、第三次攻撃隊の発艦と直掩機の着艦スケジュールを作成する必要がある。


◇◆◇◆◇◆◇


 この地点で四機の敵機を撃墜し、ラーズは好調。

 時々阻止線を抜けようとする『ヘルダイバー』が居るが、『神威の瞳』から逃れる事はできない

 『神威の瞳』に見られたら最後、輪形陣を構成する『秋月』型防空駆逐艦から雨あられと対空砲や対空噴進弾が飛んでくる。

 『神威の瞳』と連携した対空射撃盤は極めて正確に敵機を捉えるのだ。

「駆逐艦『三日月』より入電。我、輪形陣に接近する敵機を撃墜。対空任務を続行する」

 敵の対処は概ね問題ないが、大日本帝国側がまったく問題ないかと言われれば、そうでもない。

「こちら、ハシブトガラス1。被弾した。高機動用バーニアを損傷。戦闘継続は不可能離脱する」

 スズメ4の視界の中で、ハシブトガラス1が翼を翻して輪形陣の中へ戻っていく。

「……あれは……母艦まで帰れそう、だな」

「ヨーソロ」

「しかし有人機がやられると、セットでドローンも離脱なのが痛いな」

 これがラーズや宮部クラスになってくると、自身が退避しながらでもドローンは操り続けられるのだが、普通はそういうわけには行かない。

 有人機がやられると、一気に四機が脱落である。

 ラーズは周囲をぐるりと見回し、味方を狙っている『ヘルキャット』を探す。

 『ヘルダイバー』を狙う味方機を狙う『ヘルキャット』を探しているのだ。

 これは味方の援護という側面を持っているが、それよりなによりこの状態の『ヘルキャット』は簡単に狩れる美味しい餌である事にラーズが気付いたという側面が大きい。

「アカゲラ1。六時方向と八時方向に『ヘルキャット』。こっちで始末するから、そのまま『ヘルダイバー』を食え」

 『ヘルダイバー』に襲いかかるアカゲラ1に攻撃続行を指示しつつ、スズメ2とスズメ3をけしかける

 同時に自身は、手近な『ヘルダイバー』を襲う。

 スズメ1が『ヘルダイバー』への攻撃ルートに入った瞬間、二機の『ヘルキャット』が後ろを取りに来る。

「見え見えだぜ。

 燃料も減って身軽になった『烈風』の凄さを見ろ。見たら死ね!」

 ラーズによる『ヘルダイバー』への攻撃は、『ヘルキャット』を釣る為の餌である。

 ラダーを思いっきり蹴っ飛ばし、スズメ1は急旋回。

 噴進弾も燃料も減って、発艦当初より数トン軽くなった『烈風』は、驚くべき鋭さで旋回する。

 ラーズの頭の上を『ヘルキャット』が通過していく。

 旋回が終わった時には、スズメ1の照準器のど真ん中に『ヘルキャット』。

 獲物めがけてラーズは機関砲を一連射。

 『ヘルキャット』はその射線から逃れようと、機首を翻す。

「無駄」

 言い捨てて、その未来位置に向かって機関砲をもう一連射。

 哀れな『ヘルキャット』は翼から破片を撒き散らしながら、左下へ落ちていく。

 そして、その先の空気だまりに接触して、バラバラに砕けた。

「ご主人様。燃料、残り二〇パーセントです」

「ヨーソロ。

 まあ、あと何機は食えるだろ」

 そんな事を言っている間にも、仲間をやられた恨みを込めて『ヘルキャット』が襲いかかってくる。

 上手く死角を付いたつもりかも知れないが、全ては『神威の瞳』の知る所だ。

 スズメ4が対空噴進弾を放ち、スズメ1側はしばらく気付かない振りを続ける。

 時間にして数秒後。

 飛来した噴進弾に気付いたらしい『ヘルキャット』が離脱を試みる。

 だがそれもラーズの謀の内である。

 空気だまりの表面を滑走する要領で機体の向きを変え、ラーズは『ヘルキャット』の追撃に入る。

 この時間帯になると、スズメ2や3も手が空いているので、これも使って『ヘルキャット』を襲う。

 これはラーズ三人に袋叩きにされているようなものなので、『ヘルキャット』はたまったものではない。

 あっという間に逃げ場をなくし、空気の泡に押し込まれたのち、動きが鈍くなった所に機関砲を浴びて消し飛ぶ。

「大体これで全部か」

 実際には『ヘルキャット』『ヘルダイバー』共に二〇機弱が健在だが、戦力八割喪失は全滅と同義である。

 もっとも、ラーズとしてはそれで納得する気もないが。

「スズメ1から直掩の各機へ。残敵の掃討を徹底せよ。

 生かして返せば、また襲ってくるぞ!」


「『翔鶴』管制よりスズメ1。艦尾右舷側より、アングルドデッキに着艦せよ。

 なおメインデッキでは発艦作業を実施中。留意されたし」

 見れば、『翔鶴』の艦首から『流星』と思しき機体が次々と発艦していくのが見える。

 ラーズ達が、防空戦闘をしているうちに整備を終えた第一次攻撃隊の帰還機で編成された、第三次攻撃隊だ。

「こっちはここまで無傷で空母を守ってるんだから、そろそろ決定打が欲しいぜ」

 ちなみにここまで大日本帝国側の空母が無事なのは、小沢艦隊がやたらと大量に戦闘機を持っているせいである。

 裏を返せば、戦闘機が多いということは攻撃機が少ないという事なので、航空攻撃の威力にかける。

「さすがに、今回は村田さんも対艦装備で出るだろうから、戦果は上げてくるだろ」

 ともあれラーズ達、最初から直掩に上がっていたグループは補給である。

 『翔鶴』の飛行甲板が迫ってきて、トラクタービームがスズメ1の機体を捕らえると、ドン! という衝撃と共に着艦。

 アングルドデッキへの着艦はあまり行われないが、さりとて訓練していないわけでもなく、第一航空艦隊の飛行機乗りなら余裕でこなせる。

「スズメ2から4は、こちらで着艦作業を実施しますね、ご主人様」

「ああ。頼む」

 着艦を完了したスズメ1は、飛行甲板左側のエレベータで艦内へ引き込まれる。


「で、ラーズ。燃料は満タンとして、武装はどうする?」

 格納庫キャノピーを開くなり、待っていた大黒大尉が聞いてくる。

「1から3は噴進弾最小で、機関砲弾を積めるだけ積んでください。

 スズメ4はイの四六番を積めるだけお願いします」

「わかった。一時間弱はかかるからメシでも食ってこい」

「ヨーソロ。

 じゃあ鈴女、あとは頼む」

「ヨーソロ。いってらっしゃいませ、ご主人様」

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