遠野郷に日はおちて6
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『翔鶴』CIC。
「我が方の直掩機が優勢です!」
航空管制官の報告に小沢は大きく頷いた。
「うむ」
一時はどうなるかと思ったラーズだが、実戦となれば十二分にその存在感を発揮している。
総じて、迎撃に上がっている直掩機の戦果は上々と言えそうだ。
「……これなら攻撃隊は温存できる……か?
どう思う? 草加参謀長」
「第一波は大丈夫でしょう。
問題は、第二波以降です」
こちらの第一次攻撃で蹴りが付けば、第二波の事など気にする必要はないのだが、それは現実的ではないと小沢は考える。
「我が方の第一次攻撃隊が、どれだけ敵空母を無力化できるかといった所か」
「ヨーソロ。
しかしながら長官。他にも敵空母が潜んでいる可能性も考慮しなければなりません」
現在、大日本帝国海軍が掴んでいる情報では、就役した『エセックス』級航空母艦は十二隻。
この十二隻というのは、最低数であり諜報に引っかかっていない艦も居て当然だと小沢は考える。
現在見えている敵空母は四隻。もう二つくらいは、空母を中核とする艦隊が潜んでいても不思議ではない。
小沢の心配をよそに、敵は護衛戦闘機を多数喪失。
攻撃機の群れは戦闘機を犠牲に、小沢艦隊の中核に迫るが、『秋月』型防空駆逐艦の猛烈な対空砲火により、その戦力を徐々に減じていく。
『秋月』型は一昔前の巡洋艦に迫るサイズの艦体に、鬼のような数の対空砲と対空噴進弾を詰め込んだ対空番長である。
その防空網をかいくぐるのは、困難極まりないだろう。
だが問題もある。
「『宵月』より通信! 我被弾するも戦闘継続に影響なし!」
これである。防空網を突破できないとなると、当然防空艦自体が敵の攻撃目標になってしまう。
もちろん『秋月』型はそういう状況も想定して設計されているが、駆逐艦は駆逐艦。ダメージコントロールには限界がある。
「『宵月』に詳しい損害を報告させろ! 長丁場の最初で脱落されてはかなわん」
『秋月』型は強力な艦だが、小沢の手持ちはわずか八隻。もちろん損傷しても補充は望めない。
「草加参謀長! カンムリワリより迎撃戦闘への参加要否確認が来ていますが……」
「敵機が空母上空に達っしない限り、攻撃隊の迎撃戦闘への参加は、不要。送れ!」
サムライ坂井も戦闘に参加したようだが、次の攻撃リソース確保の為にここは我慢してもらう。
あくまで戦術的な目標は、敵空母の漸減である。
「残敵、おおよそ一〇〇」
電探士官からの報告。
敵の総数は一五〇だったので、直掩機と防空艦で三分の一を撃破したことになる。
「いい調子で減っているが……」
「これが第一次攻撃であることを考えると、そろそろ撤退の判断が出るかもしれませんね」
草加が答える。
特に直掩機……ラーズだろう……が、敵戦闘機に対して戦いをふっかけた為、残された、攻撃機が『秋月』型の餌食になったのが撃破数を押し上げているのだと小沢は考えた。
特にラーズがドローンに乗せて運用している多目的索敵装置『神威の瞳』は、『秋月』型の対空砲火の命中精度向上にも一役かっていると言えそうだ。
「……敵機反転! 逃走する模様!」
「温存命令でも出ているのかもしれんな……草加参謀長!」
「攻撃隊に通達! 敵機を追跡し、その母艦を撃破せよ!」
遠野郷は中心部へ近づけば近づく程、超光速での航行は困難になる。
小沢艦隊は、東野郷の中心付近にある八幡宮を目指しているので、敵艦隊のヒットアンドアウェイは次からは使えないはず。
そうなれば、純粋な空母同士の航空戦が勃発する。
「これは、歴史に残るような大空母戦になる」
そう小沢は確信した。
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草加の命令一下、サムライ坂井率いる大日本帝国海軍の第一次攻撃隊が、艦隊を離れていく。
第一次攻撃隊の編成は『烈風』一二八、『流星』六四。敵艦隊の直掩機との戦闘を想定した編成である。
目指すのは、敵残党の向かう方向。
残党を回収しに通常空間に降下してくる敵空母艦隊である。
「チョウゲンボウ。くだんの装置の調子はどうか?」
「タイチョー、これツライっす。そんな長時間使ってたら、頭が変になりそうっすよ」
宮部が返してくる。
くだんの装置とは、『神威の瞳』である。
この装置、実験やシミュレーションで有用なのはわかっているのだが、如何せんそれを使えるのが、宮部とラーズしか居ないのが問題である。
ラーズは直掩任務に割り振ったので、攻撃隊には宮部しかいない。
ちなみに坂井では、『神威の瞳』を起動させることもできない。
「すまんが、我慢してくれ。データを持って変えれば、最適化が進んで楽になるかもしれん」
坂井を始め、多くのパイロットにとって、特報装置経由でドローンを飛ばすだけでも相当な負担である。
その負担に加えて、坂井クラスでは起動すらできない『神威の瞳』を扱う宮部はまさに新世代のパイロットなのだろう。
「ヨーソロ……駆逐艦『照月』より、メッセージを受信したっすよ。攻撃隊の検討を祈る。だそうっす」
坂井率いる第一次攻撃隊は防空輪形陣を抜けて、遁走を試みる敵機の追撃に入った。
一度アーク・ディメンジョンに逃げた敵空母だが、航空機の収容の為に再び現れるはずだ。
「久々の強襲任務だ……楽しませてもらおう」
「『神威の瞳』が敵艦隊を捕らえたっすよ」
宮部の一報と共に、戦術ネットワークに敵情報がアップロードされる。
「……距離一〇〇〇万か、遠いな」
遠いということは、向こうが十分な数の直掩機を上げられるという事である。
もっとも敵の司令官も、自分の第一次攻撃隊が敵を連れてくる事は承知の上なのだろうが。
接敵まで推定四時間。早くて二時間といった所だと坂井は見積もる。
広大な宇宙空間で、空母同士の遭遇戦はいつもこんな感じで始まる。
母艦のカタパルトから莫大な運動エネルギーもらっているとは言え、宇宙空間は航空機にとって広すぎるのだ。
だが、悠長に構えていられるのは、最初だけであることを、航空隊はみな知っている。
空母同士の距離が詰まれば、激しい航空攻撃の応酬が始まるのだ。
敵の迎撃機を最初に捕らえたのは、チョウゲンボウ4が搭載する『神威の瞳』だった。
「カンムリワリより各々。敵機来襲! 数八〇。接触まで一分。
『流星』と爆装した『烈風』を守れ!」
坂井が命令を飛ばす。
「ヨーソロ」
の返答と共に、五個小隊の『烈風』が編隊を離れていく。
「カンムリワリからチョウゲンボウ。調子はどうか?」
「『神威の瞳』のせいで、ファミコン時代のハードコアクソゲーやってるより、かろうじてマシな気分っす」
「ツライなら戦闘に参加せず、安全圏で待機する事を許可するが……」
なにしろ『神威の瞳』は宮部のドローンにしか搭載さてていないし、宮部以外には起動できない。
宮部とドローンのどちらを失っても、編隊全体の索敵能力が大幅に落ちる。個人に索敵が依存するのは如何なものか。と坂井は思うわけだが、宮部を退避させるのは戦術的にも間違った判断ではないだろう。
「いやっすよ。一番楽しい所をなんで譲らないとダメなんすか」
「そういうと思った。じゃあ好きにやれ。
ただし撃墜されることは許可しない」
「ヨーソロ」
の声とともに、宮部のチョウゲンボウ1から3が大きく右へ旋回していく。
『神威の瞳』を搭載しているチョウゲンボウ4だけは左にほど一八〇度旋回して戦域を離れる。
チョウゲンボウ1から4、それぞれに熟練のパイロットが乗っているかのような、生々しい動きだ。
正直、坂井は自分がこの領域で特報装置を使って航空機を飛ばすことは、一生無理だろうと悟っている。
そんな事を考えている間に、チョウゲンボウ1を先頭に三機の『烈風』が左に旋回しながら敵戦闘機に襲いかかる。
「チョウゲンボウ1より各々。敵機は引き続き『ヘルキャット』。腕前は中の下って感じっす」
宮部から報告か悪口かわからない通信が発せられ、敵機が二機程砕け散る。
「カンムリワリからモズ。攻撃隊を頼んます」
「ヨーソロ」
攻撃隊を村田に任せ、坂井自らも敵機に襲いかかる。
まずは目についた、下降しつつ攻撃隊の下に入り込もうとする『ヘルキャット』が目標である。
右に捻りこむように、スティックとペダルを操作して、一気に敵の後方へ付ける。
ドローンたちは坂井の機動についてこれないので、自動操縦により旋回しながら何とかカンムリワリ1へ付いてこようとする。
これがラーズや宮部だと、全てのドローンが微妙にタイミングをずらしながら敵機に追従しつつ、相手の逃げ場を奪う。というような事もやるのだが、あいにくそういった事は坂井にはできない。
「恨めしい限りだな……まっ年寄りには年寄りの知恵がある。ってな」
坂井は兵装セレクタを機関砲に合わせ、単発で何発か前を飛ぶ『ヘルキャット』に向かって射撃。
距離も離れているし、なによりちゃんと狙っていないので、弾は外れる。
が、撃たれた『ヘルキャット』のパイロットはそれに反応。
右に急転舵した後、機首を上げる。
回避運動……もしかすると、カンムリワリ1の後ろを取るつもりだったのかもしれない。
「残念」
その瞬間『ヘルキャット』は、遅れて旋回していたカンムリワリ4の射線を横切る事になった。
ドローンが自在に操れなかろうが、そのドローンの射線に敵機を押し込んでしまえば関係ない。
哀れな『ヘルキャット』は、カンムリワリ4の二八ミリの洗礼を浴びてバラバラに吹き飛ぶ。
敬礼しながら撃墜した敵機を見送り、坂井は機首を上げて次の獲物を探す。
敵機の数は『烈風』よりも少ないので、早く食わないと獲物がなくなってしまう。
現にこうしている間にも、宮部辺りが元気良く敵機を襲っている。




