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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
東野郷に日はおちて

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遠野郷に日はおちて3

 大航海時代の終わりに、東北地方の測量会社によって発見されたその奇妙な星系は、東北地方に伝わる伝説の里になぞらえて、遠野郷と名付けられた。

 熱を帯びたガスを中心に、半径六〇億キロメートルに渡って広がる遠野郷は、惑星を持たない。

 そのかわり、星系全体が気体で満たされており、場所によっては人類が呼吸可能な程の気圧を有する場所もある。

 その呼吸可能な場所に築かれたのが、大日本帝国海軍最大の泊地である。

「『翔鶴』管制より直掩機各々まもなく我が艦隊は通常空間に降下する。

 降下後、速やかに直掩機を発進させる。待機するように」

「スズメ1、ヨーソロ」

 既にラーズの機体は待機甲板に上げられていて、一番艦尾側に陣取っている。

 一番最初に飛行甲板に出られる位置だ。


「通常空間に降下完了。発艦作業始め」

「ヨーソロ。発艦作業始め!」

 と甲板作業員の声が無線越しに聞こえてくる。

 だが、こうなってしまうともうラーズのやる事はなにもなかったりする。

 機体がエレベータで飛行甲板へ上げられ、発艦位置へ移動していく。

 発艦は、メインデッキとアングルドデッキをいっぱいに使って、四機同時に行われる。

「スズメ4、発進位置に到達。スズメ3、発進位置に到達」

 鈴芽がドローンの状況を教えてくれる。

 スズメ3とスズメ4はアングルドデッキからの発艦である。

「スズメ2、発進位置に到達。

 本機も発進位置に到達。最終チェックを実施中……異常なし」

 スズメ1も発艦位置に到達した。

 目の前には、少しオレンジがかった雲を纏う遠野郷の中心部が見える。

「何回見ても凄え眺めだぜ」

「発艦準備完了」

 ラーズは所定の手順に従って、腕組みをして顎を引く。

 特号装置を経由して、スズメ3と4が発艦していくのが伝わってくる。

「行きます」

 グッっとシートに体が押し付けられるような衝撃。

 直後には、母艦は遥か後方である。

「久々に……肩コリがほぐれるぜ」

 後方を見れば、二秒遅れてスズメ2が付いてきている。

 そして、母艦はあっという間に遠ざかっていく。

「ドローン集結」

「ヨーソロ」

 とりあえずアングルドデッキから飛び立った二機を合流させつつ、ラーズは機体を大きく右に旋回させる。

 これは後続機の発艦ルートを開ける為の旋回だ。

「前方やや上方に発艦作業中の『紅鶴』」

「ヨーソロ。視認した。

 怖いから『翔鶴』の上にさっさと帰るぞ」

 空母の発艦作業中に一番安全な場所は、空母の真上か真下である。

 基本的に友軍の空母に向かって発艦作業を行うことはないので、ここが一番安全なのだ。

「直掩機、予定通りに発艦」

 第一航空艦隊の発艦ペースは、最大二〇秒で四機。今回、各空母は十六機の発艦作業を行ったので、その時間はわずか八〇秒。

「二航戦の奴ら、ちょっと遅れてるか」

「時間を測っていましたが、『瑞鶴』が七八秒でトップ。続いて『翔鶴』八〇秒、『天鶴』八七秒、『紅鶴』八九秒でした。まあ誤差ですね」

 第二航空戦隊の二隻が遅いのは、要するに第一航空戦隊より命令が伝わるのに時間がかかるからである。

 現場レベルの練度は、四隻ともほぼほぼ同等と言えるだろう。

 ちなみに『瑞鶴』が微妙に早いのは、一番機が食い気味に発艦したからだろう。

「『翔鶴』管制より各々。直掩機は母艦上空で待機。各空母は索敵機の発艦作業に入る」

「小沢長官もやる気満々だな」

 ドラゴンたちのように、光より速く空間を走査するテクノロジーを持たない地球人類の戦いは、索敵から始まる。

 四隻の空母がそれぞれ違う方向に艦首を振り、次々と索敵機を送り出す。

 索敵に飛び立って行くのは、『流星』一一型。艦上攻撃機でもあるこの機体は、極めて足が速く、長い。

 長距離索敵にはもってこいだ。

「問題は、いつ敵が来るか。だな」

 ラーズは唸った。

 基本的に、小沢艦隊は敵に見つかっていると考えていい。

 これは艦が光速未満に降下する歳に、起こす時空震が比較的簡単に観測できるためである。

 好戦的な司令官なら、今ごろ歓喜しながら攻撃準備に入っているだろう。

 ……クソが。天下の一航艦をナメてんじゃねーぞ。

 第一航空艦隊は、大日本帝国海軍が誇る最強の艦隊である。

 最強の『翔鶴』型航空母艦四隻に、最強の航空隊が駆る『烈風』を要し、最新鋭の防空駆逐艦である『秋月』型によって守られた陣容は、まさに最強と言って過言ではない。

 これに加えて、随伴する新型巡洋艦の『剣』『御巣鷹』は十分以上の打撃力をもっている。

 これで負けるはずもない。


◇◆◇◆◇◆◇


「揺れているな」

 CICの床を睨みながら、小沢は言った。

「空気が比較的濃い領域に入りました。今後、大きな揺れに見舞われる可能性もあります」

 航海士が答えてくれる。

「各艦は搭載貨物の固定を厳となせ」

 宇宙艦というものは、普通に航行している限りほぼ揺れない物なので、東野郷に置いてはとにかく注意するしかない。

「東野の事を知らないアメさんは、もっと苦労してるだろうがな」

 なにしろ東野郷は大日本帝国海軍の泊地なので、民間船が航行すること自体が稀である。

 情報として大気があることを知っていても、実際どんな感じなのかは遠野郷を航行するしかないのだ。

「『流星』偵察隊三二機、発艦完了!」

「敵さんどこに居るでしょうか?」

 草加が言う。

「正直言ってわからん。

 オレが遠野郷でかくれんぼするなら、適当な小惑星に隠れるが……」

 問題は、その小惑星が遠野郷には無数にあることだ。

「探す場所が多すぎますね……『流星』も攻撃用にある程度は温存しておきたい所です」

 そもそも『翔鶴』型は搭載する『烈風』が大型という事もあり、搭載数が少ない傾向にある。

 日米の新型正規空母は軒並み搭載数が二〇〇機に達する中、『翔鶴』型は一五〇にも満たない。

 艦載機の運用はタイトにならざるをえない。

「とにかく、『流星』で進路の安全を確保しつつ、八幡宮を目指す。

 八幡宮で第八艦隊と合流すれば、第八艦隊の戦力だけでなく基地航空隊も使える」

 八幡宮というのは、遠野郷における海軍の港である。

 港といっても、その規模は幅五〇〇キロほどになる巨大構造物である。

 当然、航空機も常駐しているし、物資も相当量が備蓄されている。

 戦うなら、ここしかないと小沢は考えている。

「問題があるとすると、『烈風』の部材がどれくらい備蓄されているか、だが……」

「『烈風』は我々しか運用していませんから……」

 特に『烈風』の機関砲は専用設計なので、機関砲の部品はもちろん弾も専用品である。

 『烈風』はフラグシップ機として強力な機関砲が奢られたわけだが、これがマイナスになっているのだ。

 ただし、坂井を筆頭に機関砲で撃墜を取る航空兵も多いので、一長一短ではあるのだが。


 小沢艦隊は、一等巡洋艦『剣』『御巣鷹』を先頭に立てて、『流星』が切り開いたルートをひた走る。

「今のところ、敵との接触はないが……気を抜かないように」

 現状、アメリカ軍の侵略意図は不明である。

 このせいで、敵が何をしたいのかが読めない。

 小沢としては、これがツライところである。

 もし八幡宮を守る体制に入った所で、民間人が集まっている町を攻撃されたりすると厄介な事になる。

「偵察機から接敵の報告は?」

「今のところ、ありません」

「……そうそう、接触はない。か」

 東野郷と一言で言っても、その半径は一〇〇憶キロほどある。

 これは大体太陽系と同じサイズ感なので、艦隊同士が出会う可能性は極めて低い。

 ただし、アメリカ軍側は小沢艦隊のADDアウトを見ているかも知れない。

「……そういえば、草加参謀。上閉伊郡の様子はどうか?」

 上閉伊は、遠野郷における民間人の入植地である。

 遠野郷には惑星がないので、上閉伊も完全な人工天体で呼吸が可能な空気だまりの中に浮かんでいる都市だ。

 人口はおおよそ三〇万人で、多数の軍属が生活している。

「今のところ、沈黙しています。

 通信管制を敷いていると考えられます」

 草加が答える。

「できれば、様子が知りたい所だが……こちらから通信するのも憚れるな……

 仕方ない、一度八幡宮に入ってから確認するとしよう」

 とにかく情報が足りないと小沢は感じる。

 情報がなければ、適切な指揮など取れない。

「まもなく、索敵機が索敵線の末端に到達します」

「第二次索敵を実施する。第二次策敵機として『流星』三二機を準備!」


◇◆◇◆◇◆◇


「ふうん? 索敵機は前方にしか送らないのか……」

 飛び立っていく『流星』達を見送りながら、ラーズは呟く。

「真後ろから敵が来たらどうするんだろ」

「艦隊の移動速度が早いので、敵が後方にいても追いついてこれないという読みでは?」

 鈴女が答える。

「追いついて来れない物なのか?」

「それはわかりませんが……艦隊上層部はそう考えているのでは? という話です」

「まあ、全方位警戒なんてできないしな」

 そう考えてみると、ラーズ達が直掩に上がっているのは、後方から敵が追いついてきた場合に備えた保険の意味合いがあるのかも知れない。

「……さてさて……」

 スズメ1は現在、艦隊の先頭を走る『剣』より一五〇万キロほど突出している。

 突出している意味は特にない。なんとなくである。

「ん? 第一次索敵の連中が帰ってきたのか?」

 艦隊の進行方向に、ラーズはキラキラと光る光点を認めた。

「鈴女!」

「機種は確認できませんが……第二次索敵隊が飛び立った直後に、第一次索敵隊が帰ってくるのはタイミングとして変ですね」

「『翔鶴』管制にデータ送って、識別してもらってくれ。

 なんか味方っぽくないぜ」

 鈴女の言う通り、第一次索敵隊と入れからりで第二次攻撃隊を出すなどということはないだろう。

 それはそうと、もし今見えているのが敵機なら、この敵機は第一次索敵隊に見つからずにここまで来た事になる。

「至急! 『翔鶴』管制より各々!

 艦隊進行方向零時方向に、所属不明機見ゆ。数おおよそ八。

 敵の強行索敵の可能性あり。直掩機は対応されたし」

 鈴女経由の通報で、『翔鶴』の管制が動いた。

「一番乗りだ! 行くぞ!」

「ヨーソロ」

 ラーズはスロットルを防火壁まで一気に押し込んだ。

「スズメ4を分離。以後は観測に当たらせろ。他はついてこい」

「ヨーソロ。スズメ4を分離」

 スズメ4を分離して観測にあてるのは、いつも通りの手順なので、鈴女が勝手に動かしてくれる。

 ある程度戦域から離れたところに置くことで、客観的に敵味方の動きを観測する事ができるのだ。

 そうこうしている間に、不明機との距離が詰まる。

「『ヘルダイバー』! 敵機を目視! 食い散らかすぞ!」

 敵機は『ヘルダイバー』だった。『ヘルダイバー』はアメリカ軍の攻撃機で、索敵にも使うことができる機体である。

 今回、複数で現れたので、索敵ついでに攻撃もしようという運用だろう。

 まあ、どちらにせよ攻撃機など『烈風』の敵ではない。

「さあちょっとは楽しませろよ!」

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