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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
東野郷に日はおちて

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東野郷に日はおちて2

◇◆◇◆◇◆◇


「現状を説明する」

 坂井の帰還を待って、『翔鶴』のブリーフィングルームで作戦説明が始まった。

「遠野を侵攻しているのはアメリカ軍で、少なくとも一個任務群。空母は最低四隻と分析されている」

 草加が概要を話すと、第一航空艦隊の航空兵からざわめきが起きる。

「遠野にいる戦力は、三川中将指揮の第八艦隊のみの状態なので、このままでは占領されるのは時間の問題であると上層部は分析している」

 三川中将は猛将として知られる海軍軍人だが、いかんせん第八艦隊は護衛空母も持たない小規模な艦隊である。

 敵の動き次第では基地航空隊も使えるだろうが、それほど当てにはできない。

「草加閣下! 発言、よろしいでしょうか!?」

 挙手したのは坂井である。

「発言を許可する」

「はっ。ありがとうございます。

 増援は来ないのでありますか? 現段階で空母数は四対四。我が第一航空艦隊の飛行機乗りが敵に劣るとは思いませんが、その分一隻当たりの搭載数は敵に分があります」

 確かに、第一航空艦隊が運用する『烈風』は大柄かつ専用の設備も要するため、それを搭載する『翔鶴』型航空母艦は搭載数が少ない。

 アメリカ海軍の主力空母である『エセックス』級は、最大で二〇〇機程度の航空機を搭載可能と言われているので、最大搭載数で運用していることはないとしても、こちらの五割増くらいの艦載機が居る計算である。

 増援が欲しい坂井の気持ちも分かる。

 だが。

「第二航空艦隊は商船団と一緒に去っていった。戻ってくるのに一週間以上はかかるだろう。

 永井総長は増援は出すと言っているが、まずは我々でなんとかするしかない」

 正直言って、草加にはこの増援の当てが分からなかった。

 まさか、第一艦隊が動くとも思えない。

 そうなると、第二艦隊から分離された部隊と言うことになるだろうか。

 敵の規模が確定していない現在、それだけで足りるのかはかなり怪しい。

「そうなると、やはり頼りは諸君。第一航空艦隊が誇る飛行機乗りだ! 各自尽力するように!」

「ヨーソロ!」

「よろしい。

 坂井隊長は早急に当番表を更新して欲しい。このタイミングでラーズ君が使えるようになったのは大きい」

 ラーズは航空戦に置いて、坂井や宮部クラスにワンランク劣るのは否めないが、ドローンの並列制御能力などは明らかに勝る。

 これは要するに、坂井より劣るとは言え十分に一線級の実力を持つラーズが四人居るのと同義である。

 一人のエースより無名の数人が大きく戦果を上げることも、戦場では珍しくない。

「ヨーソロ。

 病み上がりのラーズを前線に送るのは、リスクがありますので一旦直掩専門で運用しようと思います」

「任せる。

 ……が、ラーズ君が文句を言わないか?」

「言うと思います。

 しかしながら、未帰還になられるよりマシです。

 なにより、我々航空隊が帰る場所である『翔鶴』は、相応の実力がある部下に委ねたい」

「わかった。どのみち部隊編成は飛行隊長の仕事だ。

 サムライ坂井の意見を尊重するよ」


 小沢率いる第一航空艦隊は、一等巡洋艦『剣』を先頭に次々とアークディメンジョンへ駆けがっていく。

「小沢長官」

 『翔鶴』のCIC中央で腕組みして立っている小沢に、草加は声をかけた。

「草加参謀長……ちょうどよかった。

 航空隊の士気はどうか?」

「そこそこです。高いとは言えません」

 なにしろ第一航空艦隊は、聖域海戦からこっちまともな航空戦を行っていない。

 第一航空艦隊が頻繁に航空戦を行うような状況は、別の意味で問題があるのだが、航空戦が行われないのは航空隊の士気に悪影響がある。

 宮部などは誰彼構わず航空戦シミュレーションをふっかけて、自身のモチベーションが下がらないようにしているぐらいだ。

「実際に敵機を見れば、士気は上がると思いますが……」

「後手を取る。か」

「元々、本格的な航空戦を想定していなかったので、致し方ないかと。

 もう少し早く状況が判明していれば、士気の上げようもあったのですが……」

「早く判明していても、商船の護衛をしながら戦闘訓練など無理だし、商船が去った後では物資か足りなかった。

 今の状態が最善と思うしかない」

「ヨーソロ。

 遠野に入った後はどうなされますか? 長官」

「直掩機を最速で上げて、索敵。

 その後は三川さんとの合流を目指す」

 三川の第八艦隊は、第二次聖域海戦で被害を受けた後、旗艦『鳥海』は修繕され、『阿武隈』型二等巡洋艦二隻と駆逐艦数隻が新たに配備された。

 小規模な艦隊とは言え、決して馬鹿にできない戦力である。合流しておくに越したことはない。

「できれば基地航空隊とも連携したい」

「大いに賛成であります」

 草加は同意する。

 遠野郷は極めて特殊な天体なので、航空機の運用が難しい。その環境で訓練を積んでいる基地航空隊の面々は何とも頼もしい。

「それでも問題は敵の規模。ということになるだろう。

 参謀長は敵の戦力をどう読む?」

「憶測ですが……最低任務群が二つ。エッグをやった奴と、オーウェン・サイラースに現れたハルゼー艦隊。これらは確実に居ると推察します」

「うむ。俺も同意見だ……問題は予備戦力がどれくらい用意されているかだ」

 恒星間の何もないところに待機している予備戦力を見つけるのは、実質的に不可能であることは海軍の常識である。

「アメさんの場合、無限に艦隊を作ってきますから……まったくうらやましい話です」

 エッグの艦隊が、遥か後方にあるアメリカの工業地帯を攻撃したという話は伝わってきている。

 それでも、やはりアメリカの工業力は凄まじい。

 比喩抜きで、一カ月あれば何もないところから艦隊が生まれてくるのだ。


◇◆◇◆◇◆◇


「ひさしぶりに全員揃ったな」

 待機部屋の畳の上でごろごろしているラーズを見て、坂井は開口一番そう言った。

「あっ、タイチョー。

 当番表見ましたよ。直掩任務ばっかじゃなくて、自分もアメ公ぶっ飛ばす攻撃に参加させてくださいよぉ」

 寝転がっていたラーズが正座に姿勢を変えつつ、不満を漏らす。

「まあそう不貞腐れるな。今回の状況なら、直掩機の出番も間違いなくあるからな。

 下手すると攻撃隊より交戦の機会が多くなるかもしれない」

 何しろ東野郷には、敵の空母打撃群が展開しているのだ。

 空母の敵は空母と決まっている以上、『翔鶴』も激しい攻撃に晒されるだろう。

「なにより、艦隊防空には可能な限り腕の立つ部下を配置したいという思いがある。

 つまりラーズ。お前だ」

「むー」

 とラーズは唸った。

 やはり不満なのだろう。

「ラーズよ。モノは考えようじゃぞ」

 ここでお稲荷さんが援護に入ってくれる。

「待ってるだけで入れ食いの状況など、そうそうあるまい」

 お稲荷さんは、そもそもラーズが出撃するのを良しとしていない節がある。

 確かに、直掩機は落とされても救助される可能性がかなり高い。

 少なくとも艦隊から離れる攻撃隊よりも、生存性が高いのは間違いない。

「げっ、敵の防空網を貫通して蹂躙するのが楽しいってのに……」

 もっとも、ラーズにそんな思いは通じていないのだが。

「どのみち、病み上がりじゃ草加閣下の許可が出ないから、直掩任務でちゃんと戦える事をアピールしていけ」


◇◆◇◆◇◆◇


「のう、ラーズよ」

 夜も随分と更けてきた頃。

 眠っていたラーズの布団の上にまたがって、お稲荷さんがささやく。

「なぜ死地に自ら向かうのじゃ」

「うーん。なんでだろう、な?」

 起きているのか、夢を見ているのか。自分でも認識できないまま、ラーズは答える。

「きっとその死地の方に、何かがあるんだろうな」

 その何かは、漠然としていてはっきりとしない。

 言うなれば、問いかけのわからない問題に対する答え。

 そこに行って、何かを見れば、何かが分かる。そういった種類の感覚。

「そこはただの彼岸。居なくなった誰かに会える事もなければ、失われた何かを取り戻せるわけでもない。

 それでいて、下手に近づけば今生の者は帰ることも叶わぬ」

 ふう。とお稲荷さんは息を吐いた。

 薄暗い部屋の明かりでは、その表情を見ることはできなかった。

「死に急ぐでない。聖域で死んだ者たちも、きっとそう思っておるに違いない。

 無論、わらわもそう思っている」


「総員、起こーし!」

 鬼軍曹の声で、航空隊の朝は始まる。

「うー」

 と伸びをして、ラーズは立ち上がった。

「お稲荷さんは、艦内神社へ」

「おう」

 鬼軍曹がお稲荷さんを連れて去っていく。

「タイチョー! 防空に上がるので先に行きます!」

「頼む」

「サムライ坂井の戦闘十七飛の名にかけて」

 ラーズは敬礼し、坂井が答礼する。

「俺たちは、ブリーフィングだ! 行くぞ」


 飛行服に着替えたラーズは、他の防空担当と一緒に艦内神社に出撃前のお参りを行う。

「よいか、戻って来ぬ奴は祟るぞよ。

 祟られる覚悟のあるものだけが、落ちてもよい」

 いつもの調子で、お稲荷さんがはっぱをかける。

「だが、わらわを拝んだのじゃ。そうそうは落ちんから、気楽にやるがよい」

 ……今朝のアレは、夢か?

 明け方のまどろみの中で、夢とも現実ともつかない体験をする。

 頻繁にあるわけではないが、さりとて全くないわけでもない。

「さあ、お国の為に働く時間じゃ」

「ヨーソロ!」

 全員が口を揃えて答えて、敬礼する。

「駆け足!」

 の掛け声とともに、一同は格納庫へ移動。

 それぞれの、機体へ搭乗する。

 ラーズにとっては久しぶりだが、馴れたルーティンだ。

「対空噴進弾を十六発。あとは二八ミリを一二〇〇発ほど積んでます」

 整備兵がスズメ1の兵装を教えてくれる。

「機関砲弾の弾種は?」

「坂井隊長と同じ、コンバットミックスです」

 コンバットミックスとは、弾薬を通常弾、焼夷弾、炸裂弾、曳光弾の順番に並べた物のことである。

 坂井のオススメなので、ラーズや宮部はこれを好んで使う。

 今回も、それを見越してのチョイスだろう。

 なかなかわかっている。とラーズは関心した。

「おっけい。あとは戦果をあげるだけだな」

「ヨーソロ」

 タラップを駆け上がり、ラーズはスズメ1の操縦席に入る。

「鈴女。起きてるか?」

「もちろんです。ご主人様」

「出撃だ……まあ、直掩任務だけどな」

「ヨーソロ。発進前のチェックを始めます……今回の環境を鑑みて、動翼のチェックはレベル3での実施を提案します」

 通常、宇宙空間を飛ぶのに動翼は関係ない。

 しかし、東野郷は特殊な環境であるがゆえ、動翼のチェックは入念に行うという事だろう。

「確かに、空気があるところを飛ぶのは久しぶりだからな」






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