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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
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戦果拡大9

「!」

 シュガードールは左手を敵に向けて突き出して、集中した。

 敵がライフルのトリガーに指をかける。

 バチッぃ! と不快な音を立てて、シュガードールの目の前で銃弾が弾けた。

「魔法!?」

「シュガードール……司令も魔法を?」

 確かに今銃弾を弾いたのはシュガードールの保護障壁なのだが、これは魔法ではない。

 シュガードールにできるのは、身を守る保護障壁を作る事くらいである。

 しかも、その保護障壁とて本物の魔法使いの物に比べれば、無きに等しい性能だ。

「あんまり当てにしないで」

 その間にも、銃弾が連射される。

 二発目は保護障壁の上部を滑って、天井に弾痕を穿つ。

 三発目は弾ききれず、シュガードールの二の腕を傷つける。

 四発目は元々外れていたであろう弾道で、保護障壁をかすめたのみ。

 五発目も弾けず、これもシュガードールの右肩に当たる。

「ぐっ……」

 襲ってきた激痛に、シュガードールは唸った。

 保護障壁を貫通した際、それなりに運動エネルギーを失ったとはいえ、ライフル弾の殺傷力は非常に高い。

 敵はさらに射撃を続行。

 シュガードールの保護障壁は絶対的な防御力も弱いが、持続力も正規の魔法使いのそれに比べて極めて短い。

 そういった訓練を受けていないのだから当然だ。

「……くっ……ぐ」

 それでも何発かの銃弾を弾くが、どんどん防御が脆弱になっていく。

 それに伴って、食らう銃弾の威力も上がっていき、威力の高い銃弾を食らう事で保護障壁の維持が困難になるという悪循環が発生している。

「シュガードール閣下!」

 ムースが叫ぶが、それはなんの足しにもならない。

 が。

 店の外から伸びてきた水色のレーザーが、敵の顎のあたりにピタリと合わさった。

 直後。銃声。

 敵の頭が文字通りバラバラになって消えた。

「シュガードール閣下! 無事ですか!?」

「シルクコット陸戦部長……あまり無事ではないわね」

 流血する肩口と脇腹を押さえながら、シュガードールは答えた。

「騎士団が来ました。メディックも居るはずなので、治療を依頼します」


「弾丸が残っているので摘出のため、病院へ……」

「悪いけど、この方はアイオブザワールドの要人で、諸事情があって病院へ連れて行くわけにはいかないの。

 ここで摘出手術をやって」

 小娘と言っていいようなメディックに対して、シルクコットが注文をつける。

 わりと無茶がまかり通るようだとシュガードールは感心した。

「……それでは、兵員輸送車内で処置を行いますので、こちらへどうぞ」

 促されるまま、シュガードールは店を出ようとした。

「あの! ……閣下……その、ありがとう御座います」

「別に守った覚えはないわ。

 ……もう会うこともないでしょうから、恩義を感じる必要もないでしょう。それじゃあ、ね」


◇◆◇◆◇◆◇


「……それでシュガードールは、無事なんだな!?」

「はい。ただし騎士団の医療班が顔を見たので、シュガードール閣下の存在がマスコミに漏れる可能性があることは、留意が必要かと」

 シルクコットからの報告を受けて、アベルはほっと胸をなでおろす。

 レクシーのためとは言え、やはりシュガードールを外に出すのはリスクが大きかったか。

「しかし、シュガードール襲撃のタイミング、いくらなんでも早すぎないか?

 シュガードール出発から襲撃まで何時間も経ってないぞ?」

 シュガードールがアイオブザワールドの施設外に出ることが決まってから、出発までほとんど時間は掛かっていない。

 果たしてこのタイミングで情報が漏れたと仮定して、襲撃が間に合う物なのだろうか?

「アイオブザワールド内部でなくとも……例えば、ムースの務めていた店の店主などから情報が漏れた可能性もあります」

「たまたま敵性組織に所属する店主の店に、たまたまアイオブザワールドを辞めたムースが就職した?

 さすがにそれならアイオブザワールド内に内通者が居て、ムースの店がたまたまその敵性組織の拠点の近くにあった。って方がしっくりくるけどな」

「それはそうですが……

 結局は騎士団のテロリスト狩りの結果待ち。という事になります」

 今頃、騎士団は血眼になってテロリスト狩りをしているはずだ。

「そういや、その店主はどうなったんだ?」

「行方不明です。襲撃に巻き込まれたのか、やはりどこかの国の工作員だったので逃げたのか……」

 結局なにも分からないという事である。

「わかった。内部監査はするとして、そっちの話は騎士団の報告待ちとしよう。

 それはそうと、本題の方の首尾は?」

 テロリストだかアメリカ人の残党だか知らないが、重要なのはこっちの話である。

「ダメでした。やはりシュガードールを見た瞬間、拒絶反応を起こしました」

 ある意味当然の結果である。

 だが、いよいよ打つ手の無くなってきたアベルにとって、これは痛い。

「こっちも一応案件公開して入札待ちだけど、担当者曰く一日やそこらで入札があるとは思えない。との事だ」

 これは単純に、海運会社がそんなにフットワーク良く動けないという事に加え、今はエッグの復旧事業で海運需要が高い事もあるという。

 確かにそんな状況で、貴重な船乗りをわざわざ戦闘海域に派遣する会社は居ないだろう。

「いよいよもって、か……」

 さすがに万策尽きた。という言葉を口にするのは憚られた。

「シュガードールに代わってくれるか」

「はい。ドラゴンマスター。

 ……しかし、どうなされるので?」

「もうどうしようもない。

 アイオブザワールドとドラゴンマスターの名の下に、シュガードールに海図を公開する」

 この行為は下手をすると、エッグと流民船団の間に禍根を残しかねない危険な行為である事はアベルも重々承知している。

 だが、それでも艦隊とその乗組員の命とは交換できないとアベルは考えている。

「シュガードールだ。

 話は横で聞いていた。部下の生命を重んじるのは立派な考えだと思うが、流民船団としてはそんな方法でエッグの軍事機密を知る事は良しとしない。

 まして、それで確実にわたしがレクシー・ドーンと会合できる保証もない」

「軍事機密の海図に関しては、例えムースが居たとしても、見るのは一緒だろう」

「見るのは一緒でも、流民船団の司令官に対して公開されているのと、航海の最中に目にするのは政治的な意味がまるで違う。

 ……もっとも、破滅を代償にしてもレクシー・ドーンを助けたいと願うのなら、わたしも全力を尽くすが……」

 これはシュガードールの誠意であるとアベルは理解した。

 レクシーを助けたとしても、アイオブザワールドの組織が死んでは意味がないとシュガードールは言っている。

「……軍事機密の漏洩、か……

 しかたねえな。事後には責任とってオレはエッグを去る事にするよ。

 すまんな。変な配慮させて」

「いえ。あなたは立派な方です。エッグのドラゴンマスターよ」


◇◆◇◆◇◆◇


 アベルとシュガードールが勝手に盛り上がってる横で、シルクコットはアイオブザワールドを追い出されたら、仕事はどうしよう。と脈絡のない事を考えていた。

 その時、懐の通信端末が軽やかなメロディを奏でる。

「はい。シルクコット」

「お取り込みの所すいません、陸戦部長。正面警備のベルヘイです」

「確か正門の所の担当だったかしら?

 報告は施設担当を通すはずだけれど……」

「それは存じておりますが……」

 そこで、通信にガサガサというノイズ。

「こら、やめないか!」

 という声もノイズに混じって聞こえてくる。

「シルクコット陸戦部長!」

 声の主が代わった。どうもベルヘイは通信機を奪われたらしい。

「ムースです! 話を……いえ! わたしを艦に……『ブラックバス』に乗せて下さい!」

 何と、通信機を奪い取ったのはムースのようだ。

 そして、再びガサガサというノイズ。

 今度はベルヘイ……というか警備チームがムースを取り押さえようとしているのだろう。

 これは良くない。

 シルクコットは内線電話に手を伸ばし、施設管理部の番号をプッシュ。

 ちなみにアイオブザワールドの施設では、全施設共通で1111をダイヤルするとその施設の代表部署に繋がるようになっているので、番号が分からないという事はない。

「陸戦部のシルクコットよ。今正門でモメてる連中を鎮めて、陸戦部の部屋までムースを連れて来るように伝えて」

 用件を伝えて受話器を置く。

「シュガードール閣下、すいません。ドラゴンマスターと話したい事があるので、代わっていただけますか」


「つまりシュガードールが撃たれるのを見て気が変わった、と?」

「そう思います」

 シルクコットが状況を説明すると、アベルはムースの心変わりを喜んだ。

「ムースをここに連れてくるよう命令を出したので、間もなく現れると思います」

 と言っていると、扉がノックされた。

「入っていいわよ」

 扉が開かれ、なぜかボロボロになっているムースと、やはりボロボロの警備スタッフ四名がゾロゾロと部屋に入ってくる。

「機密度の高い話をするから、警備は帰っていいわ。あとはわたしが引き継ぎます」

「本当に大丈夫ですか、部長」

「ムースは我がドラゴンマスターの客よ。丁重に扱うし……暴れたらドラゴンマスターへの攻撃として処理するわ」

 シルクコットに怯えるように、警備達は部屋を後にする。

「シュガードール閣下……その、なんというか……守って下さり……」

 ムースが口を開きかけた瞬間、シュガードールが手を上げてそれを制する。

「エッグのドラゴンマスターよ、これで出撃できるわけだが……雇用関係の話はどうするつもりだ?

 まさかアルバイト扱いで、というワケにもいくまい?」

「一旦嘱託職員って事で行く。レプトラとはなにもすり合わせしてないけど」

「本当に大丈夫なのか? わたしが他所の組織の心配しても仕方ないが」


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