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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
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戦果拡大6

◇◆◇◆◇◆◇


「正直言って、厳しいと言わざるを得ない。エッグのドラゴンマスターよ」

 艦隊編成表を見て、シュガードールは静かに言う。

「エリュシオン閣下の許可がないのは当然として、艦隊が戦える状況にないのでは……

 特に、水先案内をする艦なしに、よくわからない海域を移動するなど……

 下手をすると、レクシー・ドーンと会合もできず、ただ迷子になりに行くだけの可能性もある」

 エッグフロントのアイオブザワールドの施設……なんの施設かは知らないが……に連れてこられたシュガードールは、いきなりドラゴンマスターとの面会を求められた。

「水先案内……つまりアイオブザワールドの旗艦クラスの船があれば、事足りるのか?」

「船があるだけでは駄目だ。ドラゴンマスターよ」

 ここのドラゴンマスターは、あまり艦船の運用には詳しくないようだ。

「海を知り尽くした艦長、海図から危険を読み取る航海士、艦の正確な位置を司る測量士……何が欠けても艦隊を運用するなどできないのだ」

 シュガードールがそう伝えると、アベルは俯いた。

「正直言って、どうすればいいかわからない……だが、オレはレクシーもルビィも、失いたくない!

 教えてくれ! シュガードール司令! オレはどうすればいい!?」

 今にも泣き出さんばかりの勢いで、アベルが感情をぶちまけた。

 シュガードールはこの男にとっての敵。なにしろ、アベルが言うところの失いたくない部下をシュガードールは殺したのだ。

「もう一度言うが、エリュシオン閣下の許可がなければ、わたしは流民船団の艦隊は動かさない。

 それでも。と言うのなら、あの『ユーステノプテロン』という艦と艦長を用意するといい。水先案内としては十分すぎる艦だろう」

 一瞬、アベルの顔に希望の光が見えた。

 だが、次の瞬間にはその希望の光は、消えてなくなった。

「『ユーステノプテロン』については予備の練習艦があるが……艦長が居ない……

 いや、正確には艦長は居るが外洋航海経験のある艦長が居ない……」

 これは困ったとシュガードールは思った。

 艦を動かすくらいなら、シュガードールの手持ちのスタッフでもできるし、なんなら航海士や測量士も用意できるが、艦長だけはどうにもならない。

「軍用の精密海図を渡せば、流民船団の艦長だけで、なんとかならないか?」

「そんな物を他国の船乗りに渡していいわけがないだろう!」

 軍用海図は海軍的には最重要の戦略情報である。

 これを他国の者に渡すのは重大な裏切り行為だし、普通に考えれば受け取ったシュガードール達も全員殺されるだろう。

 そんなものを気軽に渡されても、シュガードールとしては困るわけだ。

 アベルは頭を抱えた。

 アベルが頭を抱える原因の一つは、間違いなくシュガードールなので、なんとかしてやりたいとは思うのだが、いかんせんナイナイ尽くしではどうにもならない。

 腕を組んでシュガードールは天井を仰ぎ見た。

「……ニクシーが居れば……」

 思わずそんな事が口をついて出るが、そのニクシーは居ない。シュガードールが殺したのだから。

「……いや! それなら!」

 シュガードールは天啓のようなひらめきを得た。

「エッグのドラゴンマスター。確かニクシー・ドーンの艦隊に、グリーゼから戻った艦が居たはずだば? その艦はどうなってる?」

 確かその艦は電子戦艦だったはず。それならナビゲーションくらいはお手の物だろう。

「G型か……艦はアクアリウムにある。

 ただしメンテナンスなどは一切されていない。グリーゼから戻ったその日に、実質的に廃棄された」

 アベルが答える。

「……廃棄……ならその艦長は!?」

 艦が廃棄されたのなら、その艦長は別の艦を与えられたはずだとシュガードールは考えた。

 だがアベルは首を振った。

「ムース……G2012の最後の艦長だが、既にアイオブザワールドを去ったよ」

「なっ……そんな……

 レクシー・ドーンは引き止めなかったのか!?」

「レクシーは第三艦隊を評価していない……まあ、ムースに関しては命令不服従もあったと報告は受けているがな」

 少なくとも扱える艦があり、少なくとも外洋の航海経験があって、少なくとも戦闘経験がある。ナイナイ尽くしの今、欲しい要素を全て内包しているのはムースだけだとシュガードールは判断した。

「そのムースという艦長……いや、元艦長、今どこにいるか分かるんだろうな?」

「……そりゃ、参謀部の諜報が追ってるけど……どうするんだ?」

「決まっている。直接行って、艦に乗るように説得するのだ!

 ……もっとも、ここから先はエリュシオン閣下の許可がないと意味がないが……それでも、そのG型という奴のメンテナンスは進めて置いてくれ」


 三〇分と経たず、シュガードールに対して正式な命令がやってきた。

 驚くべきことに、命令書はエリュシオンからではなく、流民船団の船団意思決定会議からの物だった。

 この命令を受けて、シュガードールはアイオブザワールド陸戦部の用意した車でエッグフロントの市街地に向かう。

「陸戦部長のシルクコットだ。奇妙な感じだが……よろしく頼む。シュガードール司令」

「ええ、こちらこそ」

 軽く握手を交わす。

 シルクコットとその部下が三名。全員ボディアーマーにアサルトライフルで武装している。

 少々大げさだとシュガードールは感じたが、政治的な判断なのだろうか。

 ちなみにアベルは来ていない。当然と言えば当然の話ではあるが。

「……しかし、これが宇宙に浮かんでいる衛星とは……」

 エッグフロントは、小惑星の上に築かれた都市であるとシュガードールは説明を受けた。

 そして、改めて見ると都市の巨大さに度肝を抜かれる。

 車は曲がりくねった高速道路を降りて、薄暗い路地へ入る。

「スラム街……という程でもないが……なぜここはこんなに暗いのだ?」

「上を通っている高速道路に遮られて、照明が届かないんですよ。

 エッグフロントは無計画に都市を拡張し続けているので、こんな所はたくさんあります」

 シルクコットが答えてくれる。

「……そうか」

 とだけ言って、シュガードールは再び窓の外に視線を戻した。

 正直言って、エッグの都市計画はよくわからないのだ。


 そんな暗い路地を抜けると、徐々に交通量が増え始め、それに伴い派手な看板や電光掲示板などが現れる。

「ドラゴン以外も沢山いるのだな」

「この辺りは港に近いので、観光客やビジネス客相手の店が多いです。

 なんなら、地球人のやってる店も沢山あります」

 地球人が普通に歩き回っているのも衝撃的だったが、商売までさせている事実にシュガードールは驚愕した。

 流民船団において、他の文明に商売をさせるなど考えられないからだ。

「間もなく到着します」

 運転席から声がかかる。

「その先の喫茶店が目的地です」

「喫茶店?」

 思わずシュガードールは聞き返した。

「ネーロウの言う通り、ムース艦長はアイオブザワールドを辞した後、この喫茶店で働いています」

 正直な所、シュガードールはリアクションに困っていた。

 どうであれ一隻の艦を与えられた艦長が、その職を辞して喫茶店で働くビジョンが見えなかったからだ。

「チームは車で待機。店にはわたしとシュガードール司令で入ります。

 行きましょう。シュガードール司令」


 カラン。とドアベルを鳴らし、シルクコットが店の扉をくぐった。

 シュガードールもそれに続く。

「いらっしゃいませ」

 と、カウンターにいた初老の男が言う。

 男は地球人。イギリスという国から来たらしい。

「店主。店を貸し切りにしていただきたい」

 そう言いながら、シルクコットは多額の現金を差し出した。

「これは……」

「あなたは、この現金を受け取って早々に店を閉め、繁華街に遊びに行く……それだけでいい。

 ……我々は、ここで働いているムースに用がある」

 店主は戦闘服姿のシルクコットと外套を羽織ったシュガードールを交互に見た。

「……アイオブザワールドの人、ですか?」

「人ではないが、アイオブザワールドの者だ」

 しばしの沈黙の後、店主はシルクコットの差し出した現金をポケットの中に滑り込ませた。

「ムースさん」


 店主に呼ばれ、まだ若いドラゴンの娘が厨房と思われるスペースから姿を現した。

 確かに、ニクシーと一緒に居るのを何度か見た顔である。

「シルクコット陸戦部長……なぜここへ?

 それに……!」

 シュガードールの方に視線を向けたムースが絶句する。

「……シュガードール……マルムスティン!」

 明確な敵意を込めて、ムースはシュガードールの名を呼んだ。

「よくも!」

 と言って振り上げた手は、シルクコットによってあっさりと押さえ込まれる。

「シルクコット陸戦部長! 離して下さい!

 こいつが! この女がニクシーを殺したんですよ! ドラゴンナイトを殺したのも、この女! ドラゴンマスターも許すはずがない!」

 ヒステリックにムースが騒ぎ立てる。

「いいわ。シルクコット部長。離して」

「いやしかし……」

「けじめは付けましょう」

 静かにシュガードールが告げると、シルクコットは諦めたように手を離した。

 パチぃっ。とシュガードールは頬を叩かれた。

「この程度? ニクシーも軽んじられた物ね」

 シュガードールが吐き捨てるように言うと、ムースは再び手を上げた。

 だが、今度は食らってやる言われはない。

 ムースが振り下ろす手をシュガードールは掴んだ。

 もちろんそれだけではない。

 全体重を乗せて、ムースに体当たりした後、背負投げの要領で背後に向かって投げ飛ばす。

 そこにあったテーブルを破壊して、ムースが床に転がった。

「白兵戦訓練も受けてないのね。それでよくわたしに手を上げる気になったわね」

 シュガードールの体術はエリュシオンから直接伝授された物である。

 当然エリュシオンには遠く及ばないが、それ以外なら大体なんとかなるレベルにあるとシュガードールは考えている。

 実際にムース程度のレベルなら話にならない。

「シュガードール司令! さすがにやり過ぎです!」

 シルクコットが割って入ってくるが、これとて軽率な行動だとシュガードールは考える。

 シュガードールは左手でシルクコットの右手首をつかみ、そのままその腕の下を潜る。

「シュガードール司令!」

 右手を後手に極められ、身動きの取れなくなったシルクコットが抗議の声を上げる。

 そんな抗議の声を無視し、シュガードールはシルクコットの腰の右側のホルスターからハンドガンを引き抜いて、奪う。

「やめてください! シュガードール司令! 大変なことになります!」

「ならないから、そこで見てなさい」

 答えてシルクコットの背中を突き飛ばす。

「ムース艦長」

 左手でムースの胸ぐらを掴んで起き上がらせながら、右手の銃を首元に押し付ける。

 エキストラクターが少し浮いているので、この銃は初弾が装填されているとシュガードールは判断していた。

「あなたは、わたしがニクシーを殺したと言う。

 その通りよ。わたしが殺した。

 でもね、まさかわたしの部下が誰も死んでないなんて、思ってないでしょうね?」

 海戦をやっている以上、その場に居る誰もが誰かを殺して誰かに殺される。

 それが本質。

「あなたがわたしを攻撃した地点で、ここは戦場になった。

 殺される準備はいい?」

 狂気を孕んだシュガードールの言葉に、生命の危機を感じたのか、ムースは本気で青ざめる。

 それでも命乞いを始めないのは、評価に値するが。

「……わたしを、殺す? ニクシーと同じように?」

 絞り出すようにムースが呻く。

「同じ? 随分自惚れてるわ。果敢に戦って死んで行ったニクシーと、ただ無為に消えていくだけのあなたが同じ?

 どうやら、わたしの見込み違いだったらしいわ」

 シュガードールはムースを放り出して、立ち上がる。

「シルクコット部長。返すわ」

 銃をシルクコットに渡す。

「そっちのドラゴンマスターに連絡を。

 G2012は使い物にならないから、代替案を提示してもらって。

 早く手を打たないと、レクシー・ドーンの艦隊が全滅するわよ」

 シルクコットはハンドガンをホルスターに収めながら、頷いた。


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