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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦果拡大

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戦果拡大4

「本時刻を持って、第三艦隊は戦闘に入ります。

 戦術マップをアップロードするので、指定された海域の友軍艦は速やかに退避するように。

 また自力航行が難しい艦は『Z5』か『イクチオステガ』で曳航するので、申し出ること」

 シュガードールは一気に命令を出す。

 レクシーが戦術マップを確認すると、『パンデリクティス』が『アイオア』級戦艦とやり合っていた辺りから、敵空母群に向けて一直線に赤い帯が引かれている。

 『Z3』で砲撃する気満々なのが伝わってくる。

「レクシーから各艦、戦術マップを参照。

 自艦が赤い帯に入っていたら、最短距離で離脱。陣形は考慮する必要はないものとします」

 矢継ぎ早にレクシーが命令を下す間にも、『Z3』級四隻が単横陣を敷きながら前進。

 あわせて『Z5』や『イクチオステガ』が散っていく。

「少々荒っぽいけど、自沈処分にしてる時間もないから、強引に退かせてもらうわよ」

 シュガードールが言うやいなや、『Z5』級がトラクタービームで大破漂流中の『パンデリクティス』級を掴んで、引っ張って行く。

 ……のだが、出力が足りないのか『パンデリクティス』はほとんど動かない。

 これでは話にならないと、別の『Z5』がやってきて二隻で曳航を始める。

 ただし、他の『パンデリクティス』も軒並み大破以上の被害で動けないので、シュガードールの連れてきた『Z5』『イクチオステガ』あわせて七隻では足りない。

「動ける『ユーステノプテロン』でトラクタービームが使える艦は、『パンデリクティス』の撤退を援護して」

「提督! 敵空母群に随伴していた駆逐艦および巡洋艦、前進を始めました」

「シュガードール。聞いた?」

「こっちでも捉えてるわ。あんな小舟『Z3』の餌よ」

 シュガードールが答えている後ろで、『Z3』が主砲を撃ち始める。

 『Z3』級の主砲は、九〇〇メートルほどある艦の全長の大半が砲身という、けた外れの代物である。

 可視光線部分だけで、直径五〇〇メートルはあろうかという太さの主砲弾が飛んでいく。

 もちろん、可視光線部分以外も十分な殺傷力のある領域が広がっている。

 空母群に随伴していた駆逐艦達は、主に『アニサキス』を警戒して密集陣形を敷いていたため、『Z3』の砲撃はたまったものではないのは容易に想像できる。

 一気に二隻の駆逐艦が血祭りに上げられる。

 これに慌てたのか、敵の陣形がみるみる崩れる。

「レクシー提督! 『パンデリクティス』の退避、間もなく終了の見込みです」

「シュガードールも把握してるでしょう。

 プリシラ! 全波長の索敵通信妨害で敵に嫌がらせをします」

 今目の前に居る『アイオア』級はおそらく旗艦なので、これの通信を妨害すれば敵は大混乱に陥るだろう 。


◇◆◇◆◇◆◇


「クソっ!」

 と悪態をついて、ハルゼーがヘッドセットを投げ捨てる。

 何事かと思ってブローニングが見てみると、すぐにその理由は想像がついた。

 『アイオア』のCIC中のディスプレイの大半が、ホワイトアウトしていたのだ。

 理由など考えるまでもない。目の前の『ユーステノプテロン』が電波妨害を始めたのだ。

「あの死にぞこないを血祭りに上げろ!」

 ハルゼーが艦内電話に向かって怒鳴る。

 相手はスメイドバーグ艦長だろう。

「おいブローニング!」

 今度はブローニングに声がかかる。

「艦隊は、どこまで俺様の命令を聞いたと思う?」

「少なくとも、空母に随伴していた駆逐隊が動き出しているので、そこまでは確実に伝わっているでしょう……

 問題は空母のほうです」

 目下、空母群は艦載機の収容作業を行っている状況である。

 問題はこの後。空母群に対してハルゼーが出した再攻撃命令である。

「状況が変わったとは言え、閣下の命令はまだ有効ですので……再出撃の準備を進めているかと……」

 ハルゼーはこの攻撃を中止しようとしていたのだろうが、それはレクシー・ドーンの通信妨害に阻まれた。

「そんな事はわかっている! それをどうやって止めるか、って話をしてるんだろうが!」

 そんな事は、一言も言っていないにも関わらず、ハルゼーは怒鳴る。

「例えば信号弾で命令を送る方法がありますが……」

「信号弾? アレじゃあ『逃げろ』しか送れないだろうが!」

 当然の話ではあるが、信号弾など最後の最後に使う、通信手段である。『逃げろ』を表現できれば十分だと言える。

「ハルゼー閣下! お取り込み中の所すみません……空母群の随伴駆逐艦が攻撃を受け、撃沈されています」

 見張り所から走ってきたであろう見張員が、息を切らせながら報告する。

 どうも艦内電話も通信妨害の影響を受けているらしい。

 これは、見張り所が艦の外……妨害の影響を受けやすい場所に設置されている事が原因かとブローニングは思った。

「わかった。下がれ」

 ギリギリと歯ぎしりをしながら、ハルゼーは怒りのこもった顔で、見張員を追い返す。

 ブローニングは見張員を気の毒に思ったが、確かに今はそれどころではない。

 その時、ついに恐れていた事が起こったのだ。

 トボトボと帰っていく見張員と入れ違いで、別の見張員が駆け込んでくる。

「ハルゼー閣下! 空母『ホーネット』が被弾! 小爆発を繰り返しています!」

「なんだとぉ!」

 報告によると、新たに出現した艦隊には、流民船団のモニター艦が含まれているらしい。

 『ホーネット』はそんな艦の目の前で、艦載機の収容作業をしていたわけで、これは撃たれて当然と言える。

「クソっ! 映像はまだ見れないのか! いや、もういい!」

 そう吐き捨てて、ハルゼーはCICを駆け出して行った。

「閣下! お待ち下さい! 閣下!」

 ブローニングも慌ててハルゼーの後を追う。

 司令官と参謀長が同時にCICを離れるなど論外の行為なのだが、どのみちCICに居てもできることはないので問題はないだろう。

「閣下! どちらへ行かれるので!?」

 想像以上の速度で走り去っていくハルゼーを追いながら、なんとかブローニングは声を上げる。

 とは言うものの、ハルゼーの行き先はわかっている。

 この艦の一番見晴らしのいい場所。つまりブリッジだ。


 ハルゼーはブリッジへ続く階段を上がりきり……そうエレベータではなく階段だ……『アイオア』のブリッジに飛び込んだ!

 続けてブローニングにブリッジに入る。

「ハルゼー閣下!

 ……それに参謀長も……」

 スメイドバーグは困惑の表情を浮かべながらも、ビシッと敬礼して見せた。

「敬礼はいい。今の戦況がCICではさっぱり分からん。こっちで把握している事を教えろ」

 なぜか息を切らすこともなく、ハルゼーががなり立てる。

 ブローニングも言いたいことがあるのだが、いかんせん息が上がってままならない。

「五分ほど前、アイオブザワールドの増援と思われる艦艇かADDアウトしました。

 それらの艦の内、流民船団の『Z3』級と思われる艦が展開。空母艦隊に向かって砲撃を始めた所、強力な通信索敵妨害が実施された状況です」

 スメイドバーグは簡潔に、不明な艦隊の出現から今までの出来事を話す。

 と思われる。という表現が多いのは、流民船団の艦を含むこの艦隊の正体が、本当に不明だからだろう。

「艦長! 『ホーネット』がっ!」

「なに!?」

 見張員の声に、スメイドバーグは思わずそちらを見る。

「……沈む……」

 光学カメラ映像を映したディスプレイの中で、白い光を放ちながら『ホーネット』がゆっくりと崩れていく。

「『Z3』級の……主砲、か……

 ならアイツは、本物の『Z3』か……」

 問題は、この『Z3』がどういった代物なのかが重要だと、ブローニングは考える。

 エッグが鹵獲した『Z3』を使えるようにして投入したものなら、ただの新戦力。

 これはこれで大問題だが、もう一つの可能性に比べれば、些細な問題だ。

「流民船団が助けに来た。って可能性もある……のか?」

 これである。

 ハルゼーも自信無さげに言っているが、ブローニングもあまりに突拍子のない状況に混乱を禁じ得ない。

「エッグと……流民船団が講和した可能性が……」

 ようやく息の落ち着いたブローニングは、絞り出すように言う。

 そこに再び見張員の悲鳴が重なる。

「空母護衛の駆逐隊が攻撃を受けています……ヒドイ」

 見れば『ホーネット』を血祭りに上げた『Z3』達が、進出してきた駆逐艦や巡洋艦相手に無差別砲撃を始めている。

 そもそも大火力のモニター艦と戦うというドクトリンを持たない駆逐隊が、『Z3』と戦うなど不可能だ。

 そして、強烈な通信妨害が作戦の変更を阻害する。

「閣下……潮時かと」

「ブローニング! テメエここまで来て逃げろなんていう気か!?」

 よっぽど不満なのか、ハルゼーが怒鳴り散らす。

「もしエッグと流民船団が手を取ったのなら、大事です。

 合衆国は、戦略を練り直す必要に迫られるでしょう」

 もし、エッグと流民船団が同盟でも結んだ場合、単純に合衆国が戦う敵の最大数が増える事になる。

 そうなると、部隊配置から戦線に至るまで見直しが必要なことは必至。

 ここは戦略的観点からも撤退すべきだというのが、ブローニングの考えである。

「ぐぬぬ……」

 とハルゼーが唸る。

 こうしている間にも、駆逐隊は削られて行く。

「閣下……ご決断を」

「クソっ……ここでレクシー・ドーンを討ち取らなければ、奴は合衆国を亡ぼすぞ! アレはそういう魔女の類だ!」

 確かに、今はレクシー・ドーンを討ち取れる唯一無二のチャンスなのは、ブローニングも大いに同意する所だ。

 だが、その為に無為に艦隊を失う訳にはいかない。

「艦長! あの魚野郎を撃て! それで終わる」

 『アイオア』の艦首の先。こちらに左舷を向けている『ユーステノプテロン』を指差し、ハルゼーは攻撃を指示。

「残念ながら閣下」

 スメイドバーグはゆっくりと答える。

「本艦は、第二砲塔基部のダメージが大きく、主砲の発射に耐えられない可能性があります。主砲発射は不可能です」

 ハルゼーは声にならない怒りのこもった唸り声を上げる。

「敵艦が再び空母を攻撃し始めました!

 狙われているのは、おそらく『エンタープライズ』!」

 おそらく。というのは、現状レーダーも友軍識別も機能しないため、空母という事しかわからないという事だろう。

 だが、ハルゼーの背中を押すには十分だ。

「閣下。もう猶予はありません。『エンタープライズ』が食われます」

「畜生! 信号弾白! 準備でき次第撃て」

 白色の信号弾は、即時戦闘を中止して撤退の意味である。

「アイアイサー。信号弾白、即時発射」

 スメイドバーグの命令で、艦橋後部から信号弾が上がる。


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