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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦禍拡大

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戦禍拡大8

 問題の『トマホーク』は、四群に分かれて飛翔している。

 これは発射母艦四隻と、A2320の距離がバラバラであるにも関わらず、同時に発射された結果である。

 A2320が左に転舵しながら艦首を下げる。

 射界の開けた副砲が、猛然と連射を始める。

 迎撃できるかは、多分に運の要素が絡む。

 個別に回避運動を行う小さいミサイルを狙い撃つのは、『パンデリクティス』の砲撃能力を持ってしても難しい。

 それでも宇宙空間の黒をバックに、二つの火球が生じる。

「第一群、残六! 依然として回避運動を行いながら本艦へ向かって飛翔中!」

 報告が上がる。

「主砲、最大拡散モード準備完了」

「主砲、攻撃目標は接近中の敵ミサイル第一群。発射ヨーイ……放て!」

 ピアーズの合図で、『パンデリクティス』の主砲四門が一斉に陽電子の砲弾を吐き出す。

 いつもと違うモヤっとした、霞のような砲弾は敵ミサイルを包むように広がっていく。

 パパパっと三つの火が見えた。

「さらに三発の迎撃に成功! 残数三!」

 これはなかなか厳しい状況であるとピアーズは思った。

 拡散モードの主砲は有効なようだが、残念ながら次弾の発射準備中に、『トマホーク』第一群が来る。

「副砲は引き続き攻撃! ミサイル第一群は『ゴーストヴェール』と対空レーザーで対処!

 『ミクソゾア』の装填急いで!

 ダメコンチと医療班は即応体制で待機!」

 ピアーズは一気に命令を出す。

 これは、緊急時に艦長が困っている所を見せてはいけないという、レクシーの教えだ。

 レクシーならもっと自信満々で命令を下すだろうし、乗組員もその命令を疑う事はないだろう。ピアーズがこの領域に達するのは、一体いつになるだろうか。

「アイ! 艦長!

 副砲、対空戦闘を続行!」

「医療班は各医療ステーションにて待機中!」

「『ゴーストヴェール』、対空レーザー砲準備。アイ」

 それでも命令を下せば、艦とスタッフは動き始める。

 栄光あるアイオブザワールド第一艦隊の乗組員たちは、士気も技術も最高水準なのだ。

「よろしい。さて……」

 ピアーズは艦長席に深く座りなおした。

 第一群の残りは『ゴーストヴェール』と対空レーザーで対処して、第二群は『ミクソゾア』で対処。第二群を対処している間にバリアスターを補充して第三群に当たる。

 ここまではいいとして、問題は第四群。

 これは『ミクソゾア』で迎撃したいところだが、第二群相手に何発撃つことになるかが問題だ。

 『ユーステノプテロン』級の射撃支援を受けていない個艦防空状態では、百発百中の命中率は期待できない。

 『トマホーク』一発につき『ミクソゾア』が二発必要だと仮定すると、第二群の処理に十六発撃つ事になる。

 『パンデリクティス』級のミサイル発射管は二八連装なので、この地点で残弾は十二発。第四群の迎撃には足りない。

 『ミクソゾア』の次発装填が間に合えば問題ないが、ピアーズの体感的に微妙である。

「気合を入れて迎撃しましょう。わたしは一発も食らう気はないわよ」


 ピアーズの気合をよそに、第一群の迎撃から苦戦を強いられる事になる。

「命中率が低い」

 ピアーズは言った。

 これは当然の話で、こちらに向かって飛んでくる『トマホーク』の投影面積など、直径一メートル程度。しかも、当然回避運動もする。

 回避運動中は投影面積が増えるにしろ、これに副砲を狙って当てるのは至難の業である。

 『ユーステノプテロン』級の射撃管制レーダーなら、また話は違うのだろうが、無いものは仕方ないのだ。

 一方で『ユーステノプテロン』級が持たない主砲の拡散モードも、拡散させるための距離が必要なので、一定距離より内側に入られると効果が薄い。

 結局、第一群の三発は『ゴーストヴェール』が備える対空レーザー圏内まで到達。

「迎撃成功!」

 『ゴーストヴェール』の対空レーザーとは、バリアスターに取り付けられたレーザー砲である。

 トラクタービームの潮汐力からエネルギーを得て発射されるこのレーザー砲は、艦の最終防衛システムと言える。

「バリアスターを七パーセント喪失」

「バリアスターの放出急いで!」

 一見すると、この対空レーザーシステムは最終防衛ラインとして有効な兵装に見えるし、実際そうなのだが、問題も多い。

 その中でも最大のデメリットが、バリアスターが壊れるという物だ。

 そのそもバリアスターは、フォースフィールド発生機とそれを駆動する潮力発電装置でできている無動力の艦載衛星である。そんな物に、景気よく発熱するレーザー砲を載せればどうなるかは自明。

 速攻で壊れるのだ。

「『ミクソゾア』全弾発射準備完了。アイ」

「一応予備弾薬庫から、追加の『ミクソゾア』を揚弾できるだけ揚弾しておいて」

「アイ。艦長」

 ピアーズの命令で火器管制官が、さらに揚弾担当へ指示を出す。

「敵ミサイル第二群の迎撃を『ミクソゾア』にて実施します。

 ……『ミクソゾア』全弾発射ヨーイ。放て!」

 結局ピアーズは、第二群の迎撃に『ミクソゾア』を全弾使うことにした。

 『パンデリクティス』や『ユーステノプテロン』の装弾システムは四発一組の並列装填を採用している。これは四の倍数の弾薬なら、装填にかかる時間はほとんど変わらないという事だ。

 『ミクソゾア』の残弾は少々気になるところだが、弾をケチって被弾するほうが問題なので、ここは全弾発射だ。

「主砲、副砲射撃再開! 目標敵ミサイル第二群。

 『ミクソゾア』の再装填急いで!」

「主砲射撃再開、アイ」

「副砲射撃開始します!」

「『ミクソゾア』の装填、急げ!」

 復唱が次々上がる中、戦術ディスプレイ上では『ミクソゾア』の飛行ルートを示す緑色の線が伸びていく。

「ピアーズ艦長! A5210のネウロン艦長から通信が入っていますが……」

「今忙しいと伝えて」

 ピアーズは静かに言った。

 そもそも、今忙しい原因はネウロンが勝手にミサイルを撃った事である。

「アイ。艦長」

「『ミクソゾア』、間もなく敵ミサイル第二群と接触……今っ!」

 数秒の間があって、前方にいくつかの光。

「三……四……五……

 敵弾五発を迎撃! 残り三発が向かってきます!」

 レーダー士官が叫ぶ。

 何もない宇宙空間を飛翔するミサイルに、狙ってミサイルを当てるのは困難極まりない。

 それこそ『ユーステノプテロン』級のような、新世代のレーダーと火器管制システムを備えている必要がある。

 その中で 五発迎撃は戦果としては上々と言えるだろう。

 とは言うものの、すり抜けてきた三発の中に致命的な弾頭を搭載した個体が居ないという保証もないので、脅威は依然として存在している。

「至急! 対空レーダーに敵機!

 数十から十五、距離一二〇万!」

「……!」

 この敵機は、おそらくネウロンが攻撃した敵機の生き残りである。

 一二〇万キロという距離を考えると、一旦『ミクソゾア』の射程外に逃げた機体が集まった物だろう。

 そのまま逃げるならよし。逃げずにこちらに向かってくるとなると、少々マズい事になる。

「個艦防空で手一杯だってのに!」

 輪形陣の隣、時計回り方向にいるA2321に助けて欲しい所だが、輪形陣を構成する『パンデリクティス』は基本的に自由には動けない。

 下手をすると、探知範囲の制約でA2321はA2320が交戦している事に気づいてすら居ない可能性もあった。

 そうなると自力でなんとかする以外の手はなく、航空機とミサイルの双方に対応が必要だ。

「さすがにヒコーキの方は、空だと信じたいけど……」

 敵航空機は輪形陣の内側から来たので、普通に考えると既に攻撃を終了した帰り道のはず。

 帰り道なら対艦兵装は使い切っているか、そうでなければ兵装は投棄しているはずなので、脅威度は低い。

 なら、飛来する『トマホーク』の迎撃に注力するべきだ。なにしろこちらはまだ、核を積んでいる可能性が否定できないのだから。

「航空機は無視して敵ミサイル群の迎撃に注力します」

 ピアーズ決断。

 レクシーはどっちつかずの指揮を嫌う。この状況なら、より脅威度が高いと判断した敵ミサイルの対処を優先するほうがいいとピアーズは判断した。

 もちろん、航空機が多少対艦兵装を残していたとしても、『パンデリクティス』級の防御性能なら耐えられるという読みもある。

「敵ミサイル第二群。全弾撃墜!」

 ピアーズが判断を迫られている間に、主砲と副砲の砲撃で第二群の残り三発も撃墜された。

「『ミクソゾア』、次弾装填中!」

「主砲、副砲再照準。目標敵ミサイル第三群」

 問題はここである。

 『ミクソゾア』の次弾は、ほぼほぼ第三群には間に合わないのが確定なので、ここは副砲での迎撃になる。

 一見すると第一群と同じ条件のように思えるが、第一群は敵艦を離れた瞬間から撃ち始めているのに対して、第三群は第二群を全弾迎撃してからの攻撃開始なので、時間的に相当タイトであると言える。

 最悪、最大加速で離脱も視野に入るとピアーズは考えている。

 その場合、完全に輪形陣を外れる事になるので、レクシーに何を言われるか分かったものではないが、ピアーズとしては無為に自分の艦を危険に晒すくらいなら怒られた方がマシという物だ。

「照準完了! 射撃再開!」

 火器管制官の声と共に、副砲が再び撃ち始める。

 どちらかというと本命は拡散モードの主砲だが、副砲も撃てば撃つほど当たる可能性が上がっていく。


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