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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦火拡大

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戦火拡大17

「やあ」

 とレイルが声をかけると、モルカス・デイバーは立ち止まった。

「……政府の奴か? 誰かが来るなんて話は聞いていないが」

 モルカス・デイバーはレイルより若干年上の男だった。資料によれば十九歳となっている。

「政府と言えば政府なんだけど……今日は別件で来たんだ」

 ここでレイルはセンチュリアの公用語に切り替える。

 すると、モルカスの顔がみるみる青ざめていく。

「幽霊でも見たような顔だね」

「……それは……賢者の杖……

 レイル・シルバーレイク……あの日以来、一度も顔を見せず……死んだはずだ!」

 あの日。というのはアメリカ人によるセンチュリア侵攻の日の事だろう。

「散々な言われようだね……まあ、宇宙をさまよってたのは事実だけど。

 こうして一七〇〇光年彼方で出会えたんだ。これは素敵な事だね」

 そうレイルが伝えると、モルカスの緊張が少しばかり弛緩するのを感じた。

 レイルを仲間だと思っているのかも知れない。

「なるほど……で、センチュリアのトップ魔法使いが、俺になんの用だい?」

「ロスアラモスで何をやってるのか、ちょっと教えてもらおうと思ってね」

「なに!?」

 モルカスは紙袋を投げ捨てて、レイルから大きく距離を取った。

 視線が泳ぎ、GMのピックアップトラックの方を向く。

 車に乗れば逃げられるか算段をつけているのだろう。

 残念ながら、答えはノーである。

 車で多少頑張って走った所で、レイルの高機動魔法から逃れる事など不可能だ。

 そして、ランク外のモルカスが正面戦闘でレイルを突破するのは不可能。

 レイル相手に正面突破を試みるなら、最低ラーズクラスの実力が欲しい所だ。

 ちなみにラーズのランクは、トップ5である。

「ロスアラモスの事を知ってどうする?」

「知ってから決めるよ。

 少なくとも、素人集団がユニバーサルアークをいじくり回しているのはキケンで……不快だ」

 レイルは軽く右足を引いて、杖を構える。

「さて、答えを聞こうかな?

 ボクとしては、久々に同業者と戦うのも悪くないと思ってるんだ」

「せっかく手に入れたいい生活を……そうそう手放せる物か!」

 モルカス・デイバーは戦って破滅する道を選ぶらしい。

「それも一興だね」

「ぬかせ! 《ロックランス》……デプロイ」

 ……土系とは珍しい。

 レイルは珍しい野草でも見るような気持ちで、モルカスの魔法を観察する。

 モルカスの足元に生じた地面の盛り上がりが、レイル目掛けて一直線に伸びてくる。

「ふむ」

 伸びてきた土塊は、当然のようにレイルの数センチ手前で弾けて消える。

 今の攻撃からレイルの読み取ったデータは三つ。

 モルカスは土系の魔法使いで、出力は贔屓目に見て中の上。使っている魔法はセンチュリアで販売されていたライセンス品で、カスタムらしいカスタムは見受けられない。

「もうちょっと楽しめると思ったんだけど……残念だね。

 アメリカ人は見る目がない」

「お前もアメリカ人の手先だろう!」

「おっと、そうだった……いや、ボクのスポンサーはユダヤだよ」

 軽口に軽口で返しながら、レイルは保護障壁の設定をアップデートする。

 取り敢えず、ヴォイド効果のターゲット属性を土に変更。これでモルカスの魔法は一切レイルには効かない。

 もちろん、ヴォイド効果に頼らずとも純粋な防御性能だけでも、モルカスの魔法でレイルを傷つけるのはほぼ不可能である。

 ……せっかくのレアな土系。データは取らせてもらわないとね。

「じゃあ、今度はボクが攻撃しようか。

 ……《エクスプロージョン・ブリット》デプロイ」

 賢者の杖の先端に灯った黄金の光が、恐るべき弾速を持ってモルカスに襲いかかる。

「くっ」

 防御はできないと判断したのか、モルカスは飛び込み前転の要領で横に飛んだ。

 だが、遅い。

 《エクスプロージョン・ブリット》に組み込まれた近接信管が、逃げるモルカスを捕らえた。

 ズン。と重い爆発音。続いてデイバー家の壁が崩壊する。

「この程度で壊れるなんて、安普請だね。

 アメリカ政府も意外にケチみたいだ」

 レイルは、杖の先端を尻もちをついているモルカスに向けた。

「反撃しないなら、これで終わりだけど?」

「《ストーンブラスト》!」

 モルカスは魔法を放った。

「なるほど。奇襲性の高いインスタントだね」

 《ストーンブラスト》は本来、相手の足元から真上に向かってイシツブテを放つ魔法である。

 投射物が飛んでいかないので、見てから対処しづらいのが特徴だ。

 もっとも、レイルはヴォイド効果によって土系魔法を無効化するので、土の魔法は発動と同時にその効果を失う。

 魔法による加速を失った《ストーンブラスト》は、ただの泥ハネにすぎず、その泥ハネもレイルの保護障壁に阻まれてレイル本体を汚すこともできなかい。

 レイルは左手で持った賢者の杖の杖を少し上げ、先端部分に右手を添える。

「《プラズマオーブ》デプロイ」

 杖の先端に灯った球電が、勢いよくモルカス目掛けて撃ち出される。

 《プラズマオーブ》は高密度に圧縮されたプラズマの塊。

「くそっ……《ストーンウォール》デプロイ」

 モルカスは魔法による防御を選択。

 だが、《プラズマオーブ》にこれは悪手である。

 《ストーンウォール》によって、柵のような石塊の壁が地面から迫り上がる。

「密度が足りないね」

 レイルはその魔法の問題点を指摘する。

 土系の魔法は総じて遮蔽能力が低い傾向にあることは、魔法使いなら皆知っている。

 これは高密度の石の壁を作ると、コストを賄えないという根本的な制約に帰結するので解決は難しい。

 土の魔法がマイナーな理由である。

「実体のない《プラズマオーブ》は、そんなスカスカの壁では、止められない」

 レイルの指摘どおり、《プラズマオーブ》は《ストーンウォール》を素通りし、その向こうで爆ぜた。

 高圧のプラズマが持つエネルギーが解放され、それは高電圧の電撃という形で周囲に破壊力をばらまく。

 デイバー家の壁も高電圧の腕で撫でられ、あっさりと燃え始める。

 もっとも、モルカス自身は家の心配をしている場合ではないだろうが。

 何から発生しようが、電気は電気である。

 人体という導体が近くにあれば、それを通って地面に流れようとするのは自然の摂理。

 三〇世紀が終わっても、落雷事故は無くならないのだ。

「《抵抗軽減》」

 モルカスは魔法で《プラズマオーブ》を迎撃。

 これにはレイルも少々驚いた。

「水系の魔法使いならともかく、土の魔法使いが電気防御を持ってるとは驚きだね」

 金……実質雷系の魔法に対して劣勢の水系魔法使いが、過剰な電気対策をしているのはよくある事だが、雷系に対して優勢な土系魔法使いが防御手段を持っているのは珍しい。

「リーグ内に有力な金の魔法使いでも居たのかな?」

 左手で杖を大きく掲げ、レイルは特に何をすわけでもなく、モルカスとの間合いを詰める。

 モルカスが構える間もなく、レイルがその頭目掛けて杖を振り下ろす。

「!」

 はっと我にかえったように、モルカスがその場を飛び退く。

 ……なかなかやるね。

 こういった状況では、多くの魔法使いが保護障壁で賢者の杖の打撃を受けようとするだろう。

 もちろんそんな事をすれば、モルカス程度の防御性能なら頭を粉々にされるのが関の山だ。

 そこを我慢して避けたのは称賛に値する。

「そろそろロスアラモスの事を喋って欲しいね……

 《プル》」

 離れようとするモルカスを、レイルは魔法で強引に引っ張り戻す。

 ズドン! と賢者の杖がモルカスの腹に撃ち込まれた。

「っは!」

 ど派手に吐しゃ物をまき散らして、モルカスはその場に倒れ伏す。

「ロスアラモスでは!」

 これ以上、攻撃を続けられるのはたまったものではないとでも言わんばかりに、モルカスは苦しい声を上げた。

「ロスアラモスでは?」

 レイルはおうむ返しに聞き返す。

「CEシリーズの模倣の作成と……それを使う兵士の育成を、やっている」

 CEシリーズとは、クラウン・エレクトロニクス製VME、CE300の系列デバイスの事だろう。

 センチュリアでのVMEシェアはクラウン・エレクトロニクスがトップなので、捕虜になった魔法使いが持っていたデバイスも必然的にCE300系が多くなる。

 シェア二位のアヴァロン・ダイナミック社は、二割から三割しかないはずなので、アメリカ人が研究するならCEシリーズになるのは当然だろう。

「CEをコピー……ねえ?」

 いくら超光速文明とはいえ、魔法の基本概念を持たない文明が、センチュリアの先進的な技術で作られたVMEをコピーできるものかとレイルは考えた。

 レイルの理解では、VMEというのは入力と出力が違うだけで、その本質は超光速機関と同じである。

 今アメリカが試みているのは、光速未満文明のセンチュリアで超光速機関を作ると言っているのと同じであり、そんなことが不可能なのは明白だ。

「で……研究はどの程度まで進んでるの?」

「コンピュータ周りはほぼ完成したが、どうしても魔法のコントロールができない。

 ワークエリア・ブリッジが地球産のコンピュータと相性が悪いらしい」

 ワークエリア・ブリッジが地球産コンピュータと相性が悪いというのは、嘘か誤情報だろうとレイルは考えた。

 理由は簡単で、レイルのLE401は現在IBM製のプロセッサーで制御できているからである。

 ちなみに、LE401とCE300シリーズの基本設計は同じだ。

 レイルはいくつか制御が失敗する理由に心当たりがあったが、別に教えてやる必要もないだろう。

 大日本帝国では実際制御に成功しているので、努力が足りない。

「それで?」

「それだけだ! オレは、これ以上は、なにも知らない!」

 モルカスは悲鳴のような声を上げる。

 本当に何も知らないのか、レイルは少々考えた。

 そもそもセンチュリアの一般的な魔法使いは、コンピュータ制御で魔法を使うのが当たり前であり、コンピュータの支援無しに魔法を発動することができない。

 こういった魔法使いにVMEの開発を行わせるというのは、いうなれば……電卓の現物があって、その電卓が使えるなら、電卓を作ることができる。と言っているような物である。

 できるわけがない。

 できるわけがない事はどうでもいいのだ。

「まあ、いいや。

 じゃあ、別件を聞くけど、グレイマンと呼ばれる人物はロスアラモスに居る?」

 これである。

 レイルは相当数のグレイマンを狩ったが、狩りが進むにしたがって、グレイマンの発見はどんどん困難になっている。

「……それは分からない。とてもじゃないが全員の名前は分からない」

「そう……それもそうか」

 賢者の杖を抱くように、考えてレイルはそれで納得した。

 ちょうど、そのタイミングでパトカーのサイレンが聞こえてきた。どうもこれでタイムアップのようだ。


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