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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦火拡大

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戦火拡大15

 それでも、敵艦は必死に抗った。

 対空砲と個艦防空用の対空ミサイルを狂ったように撃ちながら、激しく回避運動を続ける。

 こんな末端に配備されている旧式の駆逐艦で、ちゃんと対空ミサイルを装備している事にリスロンドは驚いた。

 さりとて、『ユーステノプテロン』級の全波長妨害を受けている状態では、照準システムすら正常に動くわけもなく、現在敵はマニュアルでの対空戦闘を余儀なくされているはずだ。

 言うまでもなく、手動で『エンハンスド・アニサキス』を迎撃するなど不可能な事は言うまでもない。

 第一報から三〇分。奮戦を続けていた敵艦隊は沈黙した。

「敵も結構頑張ったわね。

 一応、敵艦の残骸にEMP弾頭の『エンハンスド・アニサキス』を撃ち込んでおきましょう。ブラックボックス的なものに戦闘データが残されてるのも気分が悪いわ」

 実際に宇宙空間で撃沈された地球艦艇から、データを取り出す手間がどれくらいかかるのか、リスロンドにはわからなかった。

 だがレクシーなら、実行可能なことを敵がやらないとは考えるべきではない。と言うだろう。

「『エンハンスド・アニサキス』四発。準備でき次第、速やかに発射。

 合わせて艦隊、輪形陣。撤収します」

 報復攻撃プロトコルに基づく、敵都市への攻撃は完了したので、リスロンドとしてはさっさとこの場を離れたい所だ。

 だがエッグを目指す前に、補給艦と会合する必要がある。

 長大な進出能力を持つ第四世代艦と言えども、流石にニューミシガンとの往復を一呼吸で行うことはできない。

「六一艦隊から会合場所の連絡はあった?」

「戦術ネットワークにアクセス中……恒星セレンゲティから、約六〇〇億キロの位置が指定されています」

 超光速通信が回復したことで、ネットワークから情報が取れるようになった。これにより、補給艦との会合場所が確定。

 リスロンドは海図を確認しながら、セレンゲティなる場所を確認する。

「セレンゲティって、地球のどこかの地名かしら? 地名がそのまま付いてるなら、重要度は低そうね」

 宇宙開拓時代によくある事だが、初めて到着した場所に適当な地球の地名が付くことがある。

 その後、開拓が進むと固有の地名が付く場合が多いが、誰もやってこなければそのまま放置という場合が多い。

「よろしい。艦隊は針路をセレンゲティに取ります」


◇◆◇◆◇◆◇


 レーヨ率いる補給艦隊は、その陣容を『アカンソステガ』六隻、『イクチオステガ』五隻とし、長大な航海を経てセレンゲティと名付けられた暗い太陽の星系に降下した。

「天測! 現在位置の精密計測初め!

 機関部は、主機および超光速機関のチェック急げ!」

 第六一艦隊旗艦A1422艦長であるマリオンの指示が飛ぶ。

「セレンゲティ主星より、約六〇〇億キロ。指定位置です」

「さすがは最新型。凄い精度ね」

 A1400型『アカンソステガ』は、『アカンソステガ』級としては現状最新型に当たるため、ハードソフト両面において実運用の結果をフィードバックしたものだ。

 当然、超大距離のADD実施時の精度も、最高ランクに仕上がっている。

「予定では第五艦隊が……五分弱で降下してくるはずだから、各艦は備えるように」

 備えるというのは、要するに艦が至近距離に落ちてきた場合に備えろという事である。

 もしコリジョンコースで艦がADDアウトしてきた場合は、通常空間に居る六一艦隊側が回避するルールになっている。

 とはいっても、第五艦隊には多数の『ユーステノプテロン』級がいるので、向こうで勝手に六一艦隊を見つけて、勝手に避けてくれるだろうが。


「時空震先進波探知。複数の質量がアークディメンションから降下してきます」

 妙な緊張感と共に過ごすこと三分間。ほぼ時刻通りに艦隊がやってきた。

 第五艦隊は輪形陣のまま、A1422の三五〇方向から現れて、右舷側に直進。方位一一〇方向で停止した。距離は輪形陣の外輪まで一〇万キロ。見事と言うよりない。

「やっぱり、第五艦隊の艦長達も見事な腕前ですね……」

 マリオンが呻くように言う。

 マリオンも元第六艦隊の所属なので、第五艦隊と第六艦隊の実力差を感じているのだろう。

 いわゆるコンプレックスという奴なのだが、そもそも第五艦隊と臨時編成の第六艦隊では、乗組員の練度が違うのは当然である。

 何より、第五艦隊はもちろん、レクシー直轄の第一第二艦隊も、レーヨの補給艦隊の支援無しでは自由に動けないのだ。そう考えると気分がいいではないか。

「補給スケジュールの調整を行います。A5127に通信回線を開いて」

「レーヨ」

 通信はすぐに繋がった。

「リスロンド提督。お久しぶりです」

「早速だけれど、補給手順の説明をお願い」

 本来の艦隊間での通信では、双方が名乗るところから始まるのだが、今回はレーヨがリスロンドの元部下という事で、その辺りの手順をすっ飛ばして話が始まる。

 もちろん。本当はダメな事なのだが。

「アイ。提督」

 吊られてレーヨも、リスロンドを提督呼びしてしまう。

 今はレーヨも提督なので、これまたアウトのやり取りだ。

 しかし、現状艦隊は敵地の真っ只中で無防備な状態を晒しているわけで、レーヨとしては一刻も早くエッグの勢力圏に艦隊を退避させたいのだ。多少のルール違反など些細な事だ。

「補給作業に当たり、第五艦隊各艦は一時的に第六一艦隊の指揮命令系統に入っていただきます。

 これは補給作業時、艦の移動命令をサプライオフィサーが直接行えるようにするための措置です」

 レーヨは必死で考えた艦隊への補給プロセスを説明する。

 レーヨやリスロンドの呼び方のルールと違い、艦の運用ルールは厳格に守らなければならない。艦長が従うべき命令常に一系統でなければならないのだ。

「なるほど。いちいち第五艦隊司令部を経由してたら、時間が馬鹿にならないものね」

 リスロンドが通信外で誰かと話している気配。

 おそらく第五艦隊の運用担当と、問題ないかの確認をしているのだろう。

 数秒後。

「非常時……具体的には敵を発見した場合、即時第五艦隊側に指揮権を戻すことを前提に、第五艦隊司令部は第六一艦隊司令部に艦の指揮権を譲渡します」

「ありがとうございます。その条件で問題ありません」

 騎士団などの正規軍なら、現場司令官レベルの合意だけで指揮権の移譲など絶対に許されないのだが、ここはアイオブザワールドの艦隊である。こんな無茶もまかり通る。

「次に補給スケジュールですが、総旗艦A5127にはA1422から燃料の補給を行います。

 他の艦については四隻づつ三度に分けて補給を実施します。組み合わせは、最初に補給を行う第一グループで『パンデリクティス』級を艦席番号の若い艦から四隻。

 第二グループと第三グループはそれぞれ『ユーステノプテロン』級二隻と『パンデリクティス』級二隻の補給を実施する計画です」

「なるほど、補給作業中も『ユーステノプテロン』の稼働を維持してレーダーとして使おうって事ね?」

「アイ。提督」

「いいでしょう。その計画で問題ないわ」

「ありがとうございます。

 燃料補給とは別に、補給が必要なものはありますか? 多少のミサイルと、水食料は積んでいますが……」

「いえ。ミサイルの類は一割くらいしか消費してないし、水食料も十分なストックがあるわ。補給するにしてもエッグ領海まで戻ってからでも差し支えはないわ」

「アイ。では、ここでは燃料補給のみの実施とさせていただきます」


 エッグ艦は標準設計として、艦の左右から同時に燃料補給を行えるようになっている。

 また燃料輸送型の『アカンソステガ』級は、左右各一隻に対して補給作業を行える。

 これがどういうことかと言うと、補給を受ける艦と『アカンソステガ』が交互に横並びなって補給を行うのが、最も効率のいい補給方法と言うことになる。

 レーヨが引き連れているの『アカンソステガ』が五隻なのは、四隻づつ補給する事を念頭に編成した結果である。

 なお、両艦隊の旗艦は一対一での補給となるので、燃料を送り込む時間は当然倍になる。

「提督。イライラしすぎでは?」

「イライラ? してないわよ?」

 極力平静を装いながら、レーヨはマリオンに答える。

 実際にレーヨはイライラしていない。

 補給作業中の艦は動けない。敵中で動けないというのは、得も知れない恐怖感がある。

「第五艦隊の『ユーステノプテロン』が目を光らせてます。

 何かあっても我が六三艦隊の『イクチオステガ』も居ます。万全です」

 マリオンは、中々肝が座っているとレーヨは思う。

 アイオブザワールド初の戦略輸送艦の艦長になったという、ある種の誇りがあるようだ。

 このタイプの艦長の代表は、言うまでもなく最初の『ユーステノプテロン』級である、総旗艦A5126のプリシラ艦長である。

 このタイプの艦長は昇進を蹴ってでも自分の艦に留まろうとするので、扱いが難しいとレクシーが言っていた。

「確かに、第五艦隊はもちろん、ウチの防空艦も訓練は十分にやってるけれど……」

 自信の差は、A1422の事だけ見ていればいいマリオンと、第六一艦隊だけでなく補給中の第五艦隊の責任まで取らないといけないレーヨの立場の差だろう。

 偶然昇進してしまった者の悲しさである。

「マリオンから乗組員に通達! 本艦は間もなく補給接舷シーケンスに入ります」

 全艦放送でマリオンがアナウンスする。

 補給接舷は強固なハードアームを用いて、補給艦と被補給艦をガッチリと固定する接舷方法である。

 ハードアームを使う都合上、艦には相応の衝撃が伝わる。しかも、今回はカタログ値で八〇万トンの質量を持つ『パンデリクティス』級や九〇万トンオーバーの『ユーステノプテロン』級が相手である。

 満載状態でも三〇万トンに満たない『アカンソステガ』からすれば、強固な壁にぶつかっているような物だ。

 慣性ダンパーがあろうが、かなりの衝撃がある。

「各員、接舷時のアラート発報時は仕事の手を止めて、安全姿勢を取るように」

 ちなみに、『アカンソステガ』では接舷シーケンス開始時には自動的に全艦にアラートが出る仕組みになっている。

「接舷開始!」


「さて……後は待つだけ……」

 補給作業が始まってしまえば、レーヨの仕事は一旦終了である。

 補給作業に従事しているスタッフも、十分に訓練できているので、心配はいらないはずだ。

 それでも心配なレーヨは、何度も艦の配置情報を確認してしまう。

 現在の第六一艦隊は、補給中の艦を中心に半径二万キロ程度の輪形陣を展開しており、輪形外周には手持ちの『イクチオステガ』と第五艦隊の『パンデリクティス』が並んでいる。

 また、補給作業を行っていない『ユーステノプテロン』が周囲を睨んでいるので、防御は完璧だ。


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