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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
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戦火拡大7

「ティルト? ティルトって言うと、あの?」

「覚えてませんね? ドラゴンマスター?」

 ルビィは目を細めて言う。

「そんなわけないだろ……ほらアレだ。

 先代マザードラゴン時代の! 名前は忘れたけど、エレーナ攫った奴!」

「あっそういう覚え方してるんですね」

 レプトラが小声で呟く。

 別にアベルとて、ティルトの存在を忘れていたわけではない。

 ただ、ガブリエルがマザードラゴンになってからというもの、その気配が完全に消えた為、優先順位が限りなく低下していただけだ。

「で、そのティルトの連中……何をどうやったんだ?」

「おそらくCIAかどこかの諜報機関と接触して、軍をエッグに入れる契約を結んだ物と考えます。

 もちろん、相応の報酬と引き換えに」

 アベルは唸った。

 エッグ1という天体は、ドラゴンしか居ないという前提で成り立っている。

 そして、ドラゴンは味方で地球人は敵という構図が大前提にあるので、裏切り者に対して脆弱であった可能性は捨てきれない。

「でも、それって例えアメリカ人が勝ったとしても怨嗟の対象になるだけなんじゃ?」

「戦勝国に媚を売って、甘い汁を吸う。

 怨嗟の対象になることなど、甘い汁……つまり巨万の富の前には問題になりません」

 ルビィは続ける。

「この世の本質は、勝ったもん勝ち。敗者の所にはペンペン草も残りません」

「むー。それじゃティルトはどうするんだ?」

「既にこの話はマザードラゴンにも通っています。

 ヒドくご立腹の様子でしたので、近く大規模な殲滅作戦が実施されるのではないかと思います」

 ヒドくご立腹の様子のガブリエルが、果たして大規模な殲滅作戦などという回りくどい事をするのか? とアベルは思った。

「この一件に関して、アイオブザワールドも兵を出すかどうかですが……」

「ノーだ。ノー。

 シルクコットの所の兵隊を、そんな危険極まりない所に投入できるか」

 ガブリエルの性格上、殲滅作戦に投入されるのは戦略級の攻撃型魔法使いである。

 例えばユーノ・モスのような、広域殲滅特化の魔法使いが運用されている戦場に、普通の歩兵を投入するなどナンセンスだ。

 ましてや政治的な理由で一枚噛む。などという話は論外である。

「ウチとしては、エッグ内部の話は全部静観。今はレクシーの艦隊が絶好調である状況を作って維持! これが最優先だ」

 やはり今時大戦に置けるキーマンたり得るのは、レクシー・ドーンである。


◇◆◇◆◇◆◇


 アベルが地上戦力の投入を渋るのは、ある意味予想通り……というより、当初から一貫した指針だ。

「アーティファクトの方はどのように?

 こちらが地上戦をしない方針でも、適正勢力がアーティファクトで武装して襲ってくる可能性があります。

 警備の薄いエッグフロント辺りの施設が攻撃を受けた場合、相応の被害が出ると思いますが……」

 ルビィの懸念のメインはこちらである。

 魔法に関する先進的な知識のあるアベルやルビィにとっては大したことのないアーティファクトでも、そういった前提知識のない者にとっては危険な魔法の武器だ。

「まあ、それは確かに。って感じなんだが……そんな末端にまで配れる程の数のアーティファクトが、出回っているとも思えない」

 アベルの見解はこんな感じらしい。

「大体、アーティファクトの運用にはカスタムしたソフトウェアが必要なのは知ってるだろう?」

 これについては、ラーズが小狐丸の制御ソフト開発で四苦八苦しているのをルビィも知っている。

 ラーズで四苦八苦なのだから、それよりレベルの劣る魔法使いでは、なるほど無理なのかも知れない。

「……なるほど……納得しました。

 一旦アーティファクト関連の話は、考えない物とします」

 それはアーティファクト持ちの敵が出てきたら、手なりで対応するという事である。

 アイオブザワールドの保有する魔法関連の研究リソースは有限かつ、増やすこともできばいので、先行研究に回せるエンジニアが居ない。

 だからといって、予想される脅威に対して手なりで進めるというのは、何か気持ち悪いとルビィは思った。

「……では、わたしは艦隊に戻ります」

「おう……所で、レクシーはこれからキャラバンに向かうと言ってたけど、それに首席参謀が付き合う必要、あるのか?」

「作戦上はあまり意味はないと思いますが、レクシー提督の意向でキャラバンの主要な経営陣と、顔つなぎはしておくの良いだろうとの事です」

「なるほど、そういう判断か……まあ、政治的な判断なら、レクシーの言うことは聞いておくに越したことはないだろうな」

 うんうんとアベルは納得した。


 ユグドラシル神殿を出たルビィは、高機動型の《ダークネスフェザー》で港までひとっ飛び。待機していた『グラミー』に乗って母艦を目指す。

 普段、ユグドラシル神殿まで高速連絡艇が来ていることはないので、直接母艦に帰る『グラミー』がいるのは快適である。

 ちなみに現在、民間航路のシャトルは全て運行していないので、自前で連絡艇を用意できない組織はエッグ内外の移動を制限されている状況だ。

「艇長! A5126の補給状況は聞いてる?」

「燃料の補給以外は、乗員の乗り降りだけと聞いています。

 完了予定時刻は存じませんが、それほど長時間かかる物ではないと思います」

 ルビィの質問に、操舵室から顔を出した艇長が丁寧に答える。

「そう。ありがとう」

「間もなく、本艇はソーラーチムニーに入ります。重力方向にご注意を」

 窓の外には、ソーラーシャフトの出口であるソーラーチムニーのてっぺんに居座っている『イクチオステガ』級が見える。

 騎士団の首都防衛艦隊の要衝警備艦だろうか。

 エッグの内側に戦術艦が居座っているということは、まだエッグ内部に残敵が居るのだろうとルビィは考えた。


 ソーラーシャフトを抜けて宇宙空間に出ると、エッグフロント付近で大量に滞留している民間船が目に入る。

 一〇〇〇や二〇〇〇と言ったスケールではない。まるで天の川のように航路に沿って数万隻からの船が並んでいるのだ。

 これらの船は、安全確認が取れるまで騎士団や近衛隊が留め置いているのだろう。

 なにしろ、下手に入港させて自爆でもされたらたまったものではないのだ。

「悲惨ね……まあアメリカ人を恨んでもらうしかないけど」

 商船が港に着けないと、どんどん航海コストが嵩んでいくのは想像に難くない。

 この一件で倒産する商社も、十や二〇では済まないに違いない。

 エッグの会社なら、政府からなんらかの救済があるかも知れないが、他の国の会社にそんなものはないので、今頃株式市場は大荒れになっているんだろうなあ。とルビィは漠然と考えた。

 そんな船団をバックに、エッグフロントの港に停泊するレクシー艦隊が見えてきた。

 やはり戦術艦は、民間船とオーラが違う。

 ルビィを乗せた『グラミー』は、エッグフロントから少し離れた場所に停泊しているA5126を目指す。

「首席参謀。間もなく総旗艦に到着します。着艦時に衝撃がありますので、備えて下さい」

 衝撃は着艦誘導用のトラクタービームに捕まる時の物なので、思っているより早いタイミングでガツン! と来る。

 ルビィも知らない間はよく舌を噛んだりしたものだ。


◇◆◇◆◇◆◇


 ユグドラシル神殿内部は、あちらこちらに戦闘の形跡が見られた。

「……?」

 アベルはロビーの床に這っている無数の青いホースを見つけて、足を止める。

 ホースの一方は外へ繋がっていて、もう一方は開いた非常階段の鉄扉の向こうへと続いている。

「全部、同じところに繋がってるんでしょうか?」

「どうなんだろうな? まあ排水ホース繋ぐ先なんて、いくらもないと思うけどな」

 アベルは非常階段の方に歩を進めた。

「オレはちょっとワーズワースと情報交換してくるから、先にオフィスに戻ってくれ」

「それはいいですが……宰相院から変な話もらってこないで下さいよ。ドラゴンマスター」

「わかってるって」

 アベルが答えると、レプトラはさっさと行ってしまった。

 まあ、アイオブザワールド事務方のトップは暇ではないのだ。


「あーあーあーあー」

 水洋室と呼ばれる、ワーズワースの執務室というか水族館みたいな部屋は、見事に水没していた。

「これはマイスタ・アベル」

 水深三〇センチくらいの規模で水没している水洋室で、部屋の主であるワーズワースは空中を漂っていた。

 ちなみにアベルは、ソーサリー《ウォーターウォーキング》によって、水の上に立っている。ついでに嫌水の魔法も使っているので、水に濡れる心配はない。

「ドラゴンマスター!」

「ああ。オレは気にせず作業を続けてくれ」

 数名の作業員が手を止めて挨拶しようとしたので、アベルはそれを制する。

 単純に作業の手を止めてまで挨拶することに意義はないし、何より宰相院のスタッフは、アイオブザワールドのドラゴンマスターに挨拶しているわけではなく、マザードラゴンの弟に挨拶しているのである。

 アベルとしてもそんな気分の悪い挨拶は不要だ。

「ワーズワース卿……ずいぶん派手に壊されたもんだな」

「水槽を破壊されました。当面は、フィットネスジム併設のプールで生活することになりそうです」

 キュッキュと声を出しながら、ワーズワースは言う。

「しかし、宰相院のスタッフに被害がなかったのは、不幸中の幸い。

 外に出ていたスタッフも、ユーノとその部下が守ってくれたので、内政への影響は最小で済んでいます。

 ……新しい水槽は高いので、政府の予算審議が必要になりそうなのが、少々気がかりですが」

 それはそうだろう。政府予算でどうこうするにしても、ワーズワースの正体は機密度の高い情報なので、色々と工作が必要なのは想像に難くない。

「しかしこの汚水って、水槽の水なのか? さっさとなんとかしないと、伝染病とは怖いだろう」

「水槽の水が水処理施設を水没させたせいで、ユグドラシル神殿内の雨水再利用プラントが止まって、低いここに溢れてきたようです。雨水は再利用時に塩素殺菌しているので、まあまあ安全です」

「まあまあか。まあ、一回空気に触れた水に安全もくそもないか……」

「敵の死体も浸かってましたしね」

「なるほど。確かに違いない」

「ところでマイスタ・アベルはどのようなご要件でここに?」

「いや、水回りの話ならなんか手伝えるかな。と思ってきたんだが、魔法でどうこうのレベルじゃねえな」

 一トン二トンくらいの水ならともかく、どう考えても一〇〇トン単位の水が溜まっている状況でアベルができることは、少ない。

 少ないというか、重機の邪魔になるだけだろう。

「水竜の協力はありがたいですが、お気持ちだけで」

 ワーズワースは言った。

 まあ、エッグで最強の水系の魔法使いはワーズワースなので、ワーズワースがどうしようもないなら、アベルもどうしようもないのは当然である。

「! アレなんだ?」

 アベルは、茶色がかった灰色の水に違和感……というか異常を認めた。

 近づいて、その異常を確認する。

 水面がすり鉢状にへっ込んでいる場所がある。

 当初アベルはそこから水が抜けている渦かとも思ったのだが、違う。水が流れていない。

 そのへっ込みの中心に、アベルは尻尾を突っ込んだ……水面に立っている都合上、しゃがんで拾うのが辛いのだ。

 何かが尻尾に当たった。それに伴い、すり鉢状のへっ込みの形が変わる。コイツがこの事象の犯人である。

 だが、尻尾ではその物体を掴めないので、アベルは周囲の水と尻尾もろともその物体を凍らせて、水から取り出す。

「……なんだコレ?」

 それは石でできた剣のように見えた。剣だとすると刃渡りは三〇センチ弱。握り部分は十数センチ。握りやすくは無さそうな形状。

「あら? 石の魚じゃない。久々に見たわ」

 背後から声がかかった。この石剣は『石の魚』と言うらしい。


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