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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
陸軍危機一髪! 幻の都攻防戦

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陸軍危機一髪! 幻の都攻防戦2

 丁度日付が変わるころ、列車は津軽海峡を越えた。

 青函連絡船への列車の積み込みはとても静かで、ラーズも窓の外を見ていなければわからなかった程だ。

 ……青函連絡トンネルって奴も見てみたかったけどな。

 とはラーズの感想である。

 この時代、青函連絡トンネル跡は博物館になっているらしい。観光案内によると、あまり人気のあるスポットではないようだが。

 『銀河』の三等客室はラーズ以外は無人であった。

 平日の深夜である。もともと少ない客は寝台車に退いているのだろう。

 しばし、客室にはラーズが叩くキーボードの音だけが響く。

 船に乗せられている、列車はとても静かだ。

「……問題は、やっぱり入出力系のライブラリだな……これは、おいおい作って充実させるしかないか……」

 呟いて、大学ノートにペンを走らせる。

 マジックシンセサイザーの処理能力は極めて優秀である。

 特にセンチュリアで問題になることの多い、浮動小数点の演算速度、演算精度は素晴らしいの一言に尽きる。

 だが、この精度の差がセンチュリアで考え出されたアルゴリズムの再利用を、困難にしている側面もある。


 夜明け前、連絡船は青森側に着く、午前六時過ぎには青森駅だ。

 結局、ラーズは魔法のコーディングに一晩を費やした。

 網走からほぼ二四時間、ぶっ続けでこの難題に当たっている。

 しかし、ラーズの手持ちの魔法は全部で八七種類。使用頻度の高い物に絞っても二二種類。ちょっとやそっとでは終わらない。

 これに加えて、マジックシンセサイザーの余剰リソースで何ができるのかの実験も必要なのだ。

 センチュリアでは、本来こういった作業はシミュレータを使って行うのだが、残念ながら地球には魔法の発動プロセスシミュレータなど存在しないので、実際に発動させて実験するしかない。

 ラーズが見つけた、数少ないセンチュリアが地球に勝る要素だ。もっとも、別にそれがいい事というわけでもないのだが。

 夜が明けるころ、ラーズはホロノートを片手にボックス席へ移動する。

 何のことは無い、展望車のスツールでは朝日がまぶしかったのだ。

「……しっかし、すげえ電池持つよな。MURAMASA」

 センチュリアで出回っているノートPCなど、二時間動けば御の字である。

 一方で、この世界のホロノートは二四時間ぶっ続けで動かし続けても、まだバッテリーは半分ある。ほとんどテキストエディタしか使っていないと言っても、これは立派な数字だとラーズは思う。

 こういう細々としたテクノロジーの方が、宇宙を光より早く飛ぶ船などより、より深く実感できる。

「……相席、よろしいですか?」

 声をかけてきたのは、子連れの老婆だった。

「あっ。どうぞ」

 答えて、ラーズはシートに置いていた荷物をどける。

 老婆は八〇歳と言ったところか。ラーズが何かの本で読んだ『なんとかの薬売り』の挿絵にそっくりだった。大きな四角い箱を背負っているところ一緒だ。一方の子供の方は、四歳か五歳くらいか。おかっぱで赤いジャンパースカート姿だった。

 祖母と孫と言った感じだろう。

「ご旅行で?」

 子供の方がラーズの正面に座り、老婆がその隣に腰を下ろし、言った。

「いや。ちょっと土浦まで」

「あらまあ? 兵隊さんでしたか」

「兵隊じゃ……ないなぁ。

 飛行機の操縦、習おうと思って。ツテもあったし」

 ツテとは言うまでもない、草加参謀である。

 ラーズとしてはダメ元のつもりだったのだが、紹介状までもらってしまった。

 連合艦隊の参謀が書いた紹介状だ。これはすごい。

「おにーちゃんは、飛行機乗りになるの?」

「ああ。故郷の空を飛んでみたくてね」

 そう答えた。今、故郷の空は、邪悪な米帝によって蹂躙されている事だろう。

 ラーズはセンチュリアの事を思い浮かべた。

 驚くべきことにその思い出はとても空虚で、まるで夢の中の出来事のように思われた。

 ……っ!

 なんという事だろうか。あろうことかラーズは生まれ育った世界の事を忘れ始めていたのだ。

 その事実に愕然とする。

 よくよく考えてみれば、この国の言葉をしゃべり、この国も文字を書く。

 ……薄まっている。オレ自身が……

 そして、その思考すら日本語で行っている。

「おにーちゃん。どうしたの? 気分、悪いの?」

「……大丈夫。ちょっと……気持ち悪い夢を思い出しただけだから……」


 ラーズはトイレに駆け込んだ。

 扉に鍵をかけ、ベレー帽をむしり取る。

 束ねていた髪が解けて広がり、隠していた尖った耳が露出した。

 ……大丈夫。オレはセンチュリアから来た。エルフで魔法使いだ。

 この国には魔法は無く、エルフも居ない。

 だから、自分の存在そのものがセンチュリアという惑星が存在する証だ。

「……オレは……狂って、ない」

 顔を両手で叩いて、気合を入れなおす。

 内調などには絶対に見せられない姿である。これを見られたら、間違いなくどこかの施設に監禁されて二度と出てこれないだろう。

「そういう意味では、幸運か」

 鏡の中で笑う、自分の姿がラーズにはひどく醜悪に見えた。


◇◆◇◆◇◆◇


 『サムライ』坂井の駆る、A7N3『疾風』は九州の南西海上を東進していた。

 『疾風』は中島飛行機が誇る艦上戦闘機であり、坂井の搭乗する三六型は空母艦載仕様の最新型である。

 この型は、単独での大気圏突入脱出能力とVTOL、STOL機能を有する。

「さて、九州だが……連中、また出てくるかな?」

 坂井はそう言いながら、愛機の対空レーダーを見る。

 この時代の帝国の戦闘機のコクピットレイアウトは、おおむね座席右側に操舵スティック、左側にスロットルレバー。計器類は中央のホロデッキに必要な情報を表示するという形式を取っている。

 ホロデッキが立体的に、周囲の空間の様子を示す。

 『疾風』に搭載されている五一号航空電探は優秀な電探である。周囲の様子を余すところなくホロデッキに送ってくる。

 そして……

「やっぱりきやがったな!」

 ホロデッキに急上昇してくる航空機の姿が、計十二機示された。

 識別はA6K『戦風』が十機。不明機が二機。

 九州南部と言えば、川西航空機の縄張りである。中島製の『疾風』を見つけて絡んできたのだろう。

「……人気者はツライせ」

 帝国のトップガンである源田サーカス出身である坂井は、言うまでもなく帝国が誇るエースパイロットの一人だ。

 派手な活躍の場に恵まれた事も相まって、今では帝国海軍屈指の有名人という訳である。

 そして、坂井の乗る中島の『疾風』も有名になった。

 そうこうしている内に、上昇してくる航空機が目視範囲に入る。

 毎秒一〇〇〇メートル近いレートで、十二機の戦闘機が駆け上がってくる。

 ……やっぱり川西のテスト機か!?

 それらの機体は、陸軍海軍いづれのカラーリングとも違う塗装であった。これは航空機メーカの実験機であることを示す。

 現に、見慣れたA6Kも海軍のそれとは微妙に形が異なる。改良型だろう。

「残りは……見たことない機体だな」

 それはおそらく川西の新型機。極地戦闘機J4K『銀電』だろうと坂井は当たりを付けた。

「楽しませてくれよな」

 坂井は軽く操舵スティックを揺すって、バンクを振る。

 『疾風』の後方を四個編隊十二機が飛びぬけて行ったのを確認して、スロットルを一気に防火壁直前まで押し込む。

 本来、日本本土とその周囲の空域は、制限速度が時速一〇〇〇キロに設定されている。

 しかし、川西のテスト空域である九州南部の無人地帯は、この制限が免除されている空域である。

 ドン! という、機体が音速を超える炸裂音を伴って、『疾風』が一気に加速する。

 『疾風』の極めて強力な推進器が、機体を一気に一五〇〇ノットまで加速させる。

 ちなみに、航空機の速さは対気速度で表し、単位はノットである。対して、制限速度は地面基準の絶対速度で表し、単位は時速となっている。なぜ、こんなややこしい事になっているかというと、飛行機を飛ばしている軍と制限速度を設定している国土交通省のしがらみである。

 高度七〇〇〇メートルで一五〇〇ノット程度で、後ろから来る『戦風』や『銀電』を振り切ることはできない。

 これらの機は、いづれも最高速度は四九〇〇ノットのはずだ。なお、四九〇〇ノットは大気圏内で飛ぶ航空機に設定された上限速度である。当然ながら、『疾風』も四九〇〇ノット出る。

 約六〇〇メートル上方、一〇〇〇メートル後方に居た一個飛行隊三機の『戦風』がブレイクしながら坂井の方へ急降下してくる。

 ……いいね。

 『疾風』の右主翼を、『戦風』の射撃管制電探から放たれた電磁波が撫でた。

 だが、それだけだ。

 坂井は、スロットルをニュートラルまで戻し。右にブレイクする。

 注意深くラダーペダルを操作しながら、『戦風』隊を探す。

 ……居た!

 『疾風』のキャノピーの右、主翼の向こうに急降下中の『戦風』三機が見える。

 スロットルレバーをいっぱいまで手前に引き、さらにスロットルレバーの親指部分にある誤操作防止用ストッパーを押して、さらに手前まで引く。

 こうすることで、機体は可変推力機構により、S/VTOLモードになる。VTOL機能のない『戦風』には不可能な機動である。

 並みの航空機ならバラバラになりかねない無茶なマニューバだが、そこは宇宙時代の航空機である。何事もなかったかのように空中に静止してみせる。もちろんパイロットは、慣性中和装置によって保護されているので、ミンチになったりする心配もない。

「行け!」

 坂井が再びスロットルを入れると、『疾風』は飛びぬけて行った『戦風』の後方へ機種を向ける。

 後は射撃管制レーダーを照射して、勝負あり。

 立て続けに三機を食う。

 間髪置かず、坂井は残りの航空機の位置を確認する。

「おっ。いいね。まだやる気か」

 大きく旋回して来る『銀電』を見止めて、坂井は呟いた。

 何か声をかけてやろうと、坂井が無線機のスイッチに手をかけたとき、ヘッドセットから勝手に音声が流れだした。

「コラーッ! そこな海軍機! 本土の空で曲芸飛行とは、何たる破廉恥! 所属と氏名を述べよーっ!」

「うっわ!」

 声の調子から、どこかの航空管制だろう。口調から恐らく陸軍航空隊だと坂井は判断した。

「ひゃー、ごめんなさいー」

 おどけて無線に答えると、坂井はスロットルをいっぱいまで叩きこんだ。

 四国方面に出てしまえば確実に管制区が変わるので、さっさと逃げるに限る。

 『銀電』との勝負は少々名残惜しいが、下手にとどまって陸軍基地に着陸でもさせられたら、海軍の恥である。源田に何を言われるか分かった物ではない。

 坂井がチラリと後ろを振り返ると、『銀電』と『戦風』がバンクを振って見送ってくれていた。


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